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誤歴 ― カルト国家日本 ―  作者: 桜李


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2026年 春 高校入学⑦ 全裸の撮影会

撮影は終わった。

……終わってしまった。


信じられない。

ムカつく。


結局、全裸まで撮られた。

……最悪だ。


この世界にはネットがない。

スマホもSNSもない。

写真はフィルムから現像する。

そう考えると、少なくともネットに流出する心配だけは無い……のか?


いや。

そういう問題じゃない。

今さらだけど、あのカメラを蹴飛ばしておけば良かった。

フィルムなんて光が当たれば全部ダメになるんでしょ?


……いや駄目だ。

その場で取り押さえられて終わりか。


くそ。


それにしても。

あの上級信者のオッサン。

最後まで部屋に居やがった。

直接見られた。


「健康的ですね」


「理想的です」


「期待できます」


そんなことを、家畜の品評会みたいな口調で並べ立てていた。


最後には、


「尊師も、お喜びになるでしょう」


……。


何を期待するっていうんだ。

気持ち悪い。


教室へ戻る廊下。

担任の先生は相変わらず無言だった。

時々こちらを見ては、目を逸らす。

申し訳なさそうな顔。

先生も嫌なんだろう。

だったら止めろよ。

……とは思うけど。

きっと、この人にもどうにも出来ない。


「先生」


私は足を止めた。


「お手洗いに寄ってから戻ります。先に行ってください」


先生は少しだけ私を見た。

何か言いかけて、

結局、小さく頷いただけだった。


トイレへ入る。

個室のドアを見た瞬間だった。


ドンッ!


思い切り蹴った。


痛っ。

つま先に鈍い痛みが走る。


……もう一回。


ドンッ!


まだ壊れない。


もう一回。


バキッ!


ドアに穴が開いた。


…………。


やってしまった。

でも止まらない。


ドンッ!


ドンッ!


ドンッ!


静かな校舎に鈍い音が響く。


気の毒なドアだ。

本当に気の毒だ。

でも、

尊い犠牲だった。

胸の奥で暴れていた何かが、ほんの少しだけ静かになる。

ほんの少しだけ。


私は深呼吸をして制服を整えた。


……まあいい。


ドアの件は怒られたら謝ろう。

それで済むなら安いものだ。


教室の戸を開ける。

クラス全員がこちらを見た。


……やっぱり聞こえてたか。


私は何事もなかったような顔で席に着く。


葵ちゃんが、小さく口を開いた。


「澪ちゃん――」


そこで私の顔を見て、

静かに口を閉じた。


私は何も言わなかった。

今は喋ったら、

またどこかを壊してしまいそうだった。


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