2026年 春 高校入学⑥ 脱いでください
「……はい?」
「下着姿の撮影を行います」
いやいやいやいや。待て待て待て待て。
なんで?
なんで下着姿?
入学記念写真ってそういうイベントだっけ?
私の知ってる高校生活には無かったんだけど?
全国の新入生にアンケート取ってみろ。
絶対に「無い」って答えるから。
「……後がつかえていますので」
上級信者が静かに言った。
いや。
撮影係の人はまだ分かる。
でも、アンタ。
男だよね?
しかも、いい歳したオッサンだよね?
なんで当たり前みたいな顔してそこに立ってるの?
「あの……それは、ちょっと……」
「羞恥心を抱くということは、まだ修行が足りないということです」
上級信者は穏やかな口調で続ける。
「尊師への帰依が深まれば、この程度のことは何とも思わなくなります」
そんな人間には絶対なりたくない。てか、ふざけんな。
「これって、セクハラですよ」
「……セクハラ?」
上級信者は首を傾げた。
「何ですか、それは」
しまった。
この世界には無い言葉なのか。
「いえ、そんな俗な言葉は知りませんが」
上級信者は軽く笑った。
「尊師への御奉仕を、そのように表現するのは感心しませんね」
…………。
価値観そのものが違う。
会話にならない。
「早くしてください」
今度は撮影係の女性が事務的に言った。
「皆さん、素直に従ってくださいましたよ」
淡々とした口調だった。
「あなたの後にも、まだ待っている方が大勢いらっしゃいます」
そういうことか。
だからみんな涙目で教室へ戻ってきたんだ。
知っていれば仮病でも使って休んだのに。
「終わるまで、この部屋からは出られませんから」
…………。
逃げられない。
そう理解した。
私はゆっくり制服の上着を脱いだ。
「はい、結構です」
撮影係がメモに何か書き込む。
「では、次を」
「……え?」
「全部です」
頭の中が真っ白になった。
いや。
真っ白というより、ぐるぐる回っていた。
『今日は綺麗なパンツ履いてたっけ』
そんな場違いな考えが浮かぶ。
『いや、そこじゃないだろ!』
その横で、もう一人の私が全力で突っ込んでいる。
「あの……。あ、そうだ、今日は生理で……」
言った瞬間、
ダメだ。
と自分でも分かった。
あまりにも苦しい言い訳だった。
撮影係の女性は無言のまま私を見つめている。
完全にバレている。
はいはい。
分かりましたよ。
脱げばいいんでしょ。
覚悟を決めて制服に手を掛けた。
「ほう」
それまで黙っていた上級信者が、小さく頷いた。
「健康的な体格ですね。他の子よりも、ふくよかで」
気持ち悪い。
「尊師も、お喜びになるでしょう」
…………。
え?
今、なんて言った?
私は思わず顔を上げた。
上級信者はもう私を見ていなかった。
書類に何かを書き込みながら、
「では、撮影を続けましょう」
とだけ言った。
……殺すぞ、マジで。




