2026年 春 高校入学② その名はウッパラバンナ
「澪ちゃん、次の授業は体育館だよね」
葵ちゃんが気さくに話しかけてくる。
中学からの友達だ。
こうして同じ高校へ進学したのも、元の世界と変わらない。
だけど、やっぱり少し違う。
元の世界の葵ちゃんより痩せているし、背も少し低い。長かった髪も肩よりずっと短くなっていた。
生まれた時からオウムの支配下で育った世界だ。
栄養事情だって、きっと元の世界とは違う。
入学式の日には、
「あれ? 澪ちゃん、春休みの間に太った?」
なんて言われてしまった。
いや、それが普通なんだよ。たぶん。
それでも、葵ちゃんは葵ちゃんだった。
人懐っこい笑顔も、話し方も変わらない。
このディストピアな世界では貴重な癒し枠である。
「澪ちゃん、どうして目が潤んでるの? 花粉?」
「いや、ちょっとね。宗教の実習って何やるんだろうね」
「さあ? 中学でやったのと同じじゃない?」
それが分からないんだって。
そう言いそうになって、慌てて飲み込む。
やっぱり周囲に合わせるしかない。
ヘッドギアを着けて瞑想とか、マントラとかいう呪文を延々唱えるとか、空中浮揚と称する例のピョンピョンの練習とか。
どうせそんな感じだろうと予想しつつ、体育館に向かう。
「あら? 冬月さんじゃないの!」
聞き覚えのある声に振り向く。
神谷さんだった。
思わず目を見開く。
元の世界では別の高校へ進学するはずだった子だ。
彼女の学力では、この高校に合格は難しかっただろうに、こっちの世界の神谷さんは勉強が出来たのか?
すっかり忘れていたけど、私がこの学校を志望したのは、彼女と同じ高校に行きたくなかったというのも、理由の一つだった。
「……しばらくぶり、神谷さん」
「いやだ、神谷さんなんて呼ばないで」
神谷さんは胸を張った。
「私のことはウッパラヴァンナーって呼んでいいのよ」
「……パッパラ?」
「違うわよ!」
どうやら彼女の家は筋金入りの信者らしい。
色々納得。ここの高校に入れたのも、そのあたりが理由だな。
なんともディストピアな高校生活になりそうだ。




