表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
誤歴 ― カルト国家日本 ―  作者: 桜李


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/38

過去編:1991年 夏. 寒い国の男達

在東京 某国大使館前


ふたりの男が並んで歩いていた。白人だ。

ひとりは大使館に常駐している職員。

もうひとりは、本国から出張に来た男だ。

ふたりとも、実は国家保安委員会…つまりキリル文字もしくはアルファベット3文字で表される有名組織の所属で、同期だ。

久しぶりの再会なので、外の店で昼食にする事になったのだ。

「しかし、暑いな、同志。想像以上だ」

本国から来た男は、近くに見える東京タワーに目をやりながら、汗をぬぐう。

「本国と比べれば、そりゃ暑いだろう。しかし、これでも今年の夏は、例年と変わらない東京の気温んだ。ついたぞ。この店だ」

大使館常駐の男は、そう言って暖簾をくぐる。

ふたりは、個室に通された。

「天ぷらという料理を出す店だ。知ってるか」

「食べた事は無いが、知ってる。要するに揚げ物だろ」

大使館の男は、店員に日本語で注文を済ませる。慣れた様子だ。

出された料理は、見るからに本国のそれとは系統が異なるものだ。

店員が気を利かせたか、それとも大使館の男の指示か、箸の他にフォークがテーブルに置かれた。

「同志。塩を付けるか、このソウスにちょっと浸してから食べるといい」

ソウスには、インビール(生姜)とダイコーン(大根)のすりおろしが入っている。

本国から来た男は、その通りにして一口齧る。

「悪くないな、この天ぷら」

本国から来た男は海老天を一口かじった。

「思ったより軽い。揚げ物なのに胃にもたれそうにない」

「油が違うらしい」

「なるほど」

しばらく二人は無言で箸を動かした。

やがて本国から来た男が声を潜める。

「最近、本国の空気がおかしい」

「また何か始まったのか」

「書記長だよ」

「ああ」

大使館勤務の男は苦笑した。

「今度は何を思いついた」

「情報公開だとさ」

「またか」

「党も官庁も軍も、隠し事だらけなのにな」

「そんなものを掘り返して誰が得をする」

「西側は喜ぶだろうな」

二人は顔を見合わせた。

「だが我々は困る」

「当然だ」

「保守派も黙ってはいない」

「そうなるだろう」

少し沈黙が落ちる。

「クーデターでも起きるか?」

「そこまでは知らん」

男は肩をすくめた。

「ただ、本国の連中はかなり苛立っている」

「いつものことだ」

「まあな」

再び箸を動かす。

今度は芋の天ぷらだった。

「これは何だ?」

「さつま芋だ」

「芋か。甘いな」

「この国の連中は甘いものが好きだからな」

「変な国だ」

男は笑った。

「しかし、日本にはもっと面白い連中がいる」

「ほう?」

「今回の出張の本題だ」

「何者だ?」

「宗教団体だよ」

「宗教?」

「そう。だが、妙な連中だ」

男は天ぷらを持ち上げた。

「この料理みたいにな」

「どういう意味だ」

「衣を着ているが、中身が見えん」

男は天ぷらを口に放り込む。

「宗教家の衣を着ている。だが中身は何を考えているのか分からん」

「ほう」

「金払いも良い。しかも妙なことを言うんだ」

「どんな?」

「近いうちに日本は大きく変わる。その時に備えて友好関係を築きたい、とさ」

「革命家かもしれん」

「商売人かもしれん」

「詐欺師かもしれんな」

二人は笑った。

「まあ、会えば分かるだろう」

店の外では、蝉が狂ったように鳴いていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ