2026年 春 古本屋・改古堂⑦ え、1日1食?
大体の歴史の流れは、先ほど家にあった本で調べた通りだったが、その時代を実際に経験した人から話を聞くと、当時の空気感なども含めて分かりやすい。それを確認できただけでも収穫だ。
「ねえ、そろそろ帰るわ。晩御飯までに戻るって言ってきたので」
「え、夕飯?食べるの?」
「そりゃ食べるでしょ」
「...それ、他所じゃあんまり言わない方がいいよ」
「なんで?」
「今は、一日一食が奨励されてるの。まあ別に罰則も無いから皆、2食か3食なんだろうけど。
熱心な信者は1食だけで生活してるから、そんな人達に聞かれたら面倒だよ」
そうなのか。本当に厄介な世界だ。
「わかった。気を付ける。そうそう。スマホ、今度来た時に持ってくるね」
「え、それ、本当に持ってくる気なんだ?」
「...おじさん、私が別の世界から来たって話、本気にしてないでしょ」
「うん。信じてないよ」
「だったら、なんで話を聞いてたの」
「面白いから」
「...もういい。スマホなんて、見せてやらないんだから」
「いや、まあ怒らないで。澪ちゃん、確か冬月って苗字だったよね」
「それが何か?」
「いや……ちょっと思い出した事があってね」
私は、改古堂を後にした。
出る時に引き戸をピシャリと閉めてやろうかと思ったけど、重くて立て付けが悪いので、思うようにはいかなかったのが悔しい。
帰り道、本来なら夕飯時なのだが、どこの家からもそのような気配は感じられなかった。
匂いのしない料理をこっそり作っているのだろうか。




