2026年 春 古本屋・改古堂④ 伝説の選挙
こんなに笑われるなら、スマホ、ここに持ってくれば良かった。
元の世界から持って来たものは、残念ながら全て家に置いて来たし。
着てる服ですら、こっちの世界の物。
あ、下着は元の世界の物だ。でも、さすがにそれは見せちゃ駄目なやつ。仮に見せたとしても、異世界から来た証拠物件としては、かなり苦しい。でも、おじさんが重度の下着マニアだったら、話は別だろうけど。
「今度来る時、持ってくるよ。それより、こっちの世界のオウムについて教えて。教科書や本は読んだけど、要するに日本を裏から支配してるんだよね?」
「裏から、というより公然の秘密かな」
おじさんは肩をすくめた。
「戦前の政治家が軍部の顔色をうかがってたのと似てる。誰もが知ってる。でも公の場では口にしない」
なるほど。
国民全員が信者というわけじゃないのか。
「でも麻原って権力欲の塊だったんでしょ?教団内で大臣ごっこまでしてたのに、自分で政治家にはならなかったの?」
「選挙で懲りたんじゃない?」
「選挙?」
「ちょっと待って」
おじさんは奥へ引っ込むと、すぐに古びたファイルを抱えて戻ってきた。
「ほら」
新聞の切り抜きだった。
どうしてそんなものがすぐ出てくるんだろう。
東京8区 マンジュシュリー・ミトラ 72票
東京6区 ウルヴェーラ・カッサパ 71票
東京2区 マルパ・ロサ 58票
……
私は思わず二度見した。
「……え?」
「うん」
「これ、何かの誤植じゃなくて?」
「本物」
「え?」
選挙に行ったことのない私でも分かる。
これは惨敗なんて言葉じゃ足りない。
おまけに、本名じゃなくてカタカナの名前。中二病全開の。痛い。これで選挙に出たというの。
もはや伝説だ。
「ちなみに供託金も全部没収。当時は『選挙で一番有名な落選集団』なんて言われてた」




