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誤歴 ― カルト国家日本 ―  作者: 桜李


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2026年 春 家に帰ったら世界が違った⑩ そうだ、古本屋いこう

スマホを充電しながら、私は再び本棚へ目を向けた。

よく見ると、あっちの世界で持っていた本も何冊か混ざっている。

もっとも、九〇年代以前に出版された古本ばかりだ。

歴史が分岐する前の本は、同じ内容らしい。

一冊抜き取り、ぱらぱらとページをめくる。

——うっ。

煙草臭い。

思わず顔をしかめる。

でも、この臭いには覚えがあった。

「改古堂」だ。

商店街の外れにある古本屋。

店主のおじさんが、令和の時代にも関わらず煙草を吸いながら店番している変な店。

しかも客が来ていようが構わず、売り物の本をずっと読んでいる。

店の中はいつも煙で白っぽく、本にまで臭いが染みついていた。

正直、人を選ぶ店だと思う。

でも私は、あの店が好きだった。

学校帰りによく立ち寄って、おじさんと歴史の話をした。

私が歴史好きになった理由の一つでもある。

……そうか。

この世界にも、改古堂はあるんだ。

だったら。

あのおじさんなら、私の話を理解してくれるだろうか。

ふと、そんな考えが浮かぶ。

行ってみよう。

私は箪笥を開けた。

今朝から着ている服は、この世界ではかなり浮くらしい。

中に入っていたのは、予想通り地味な服ばかりだった。

色味が薄い。

やたら布地が大きい。

身体の線を隠すような服ばかりだ。

服装に無頓着な私ですら、「地味だな」と思うレベルだった。

これが、この世界の普通なのだろう。

着替えを済ませ、母へ、

「夕飯までには帰る」

とだけ告げて家を出る。

外の空気は、妙に現実感があった。

意外だったのは、商店街がそれほど寂れていないことだ。

私の知っている商店街は、もっとシャッター通りに近かった。

空き店舗だらけで、人通りも少ない。

でも、こっちの世界では違う。

八百屋も。

肉屋も。

小さな雑貨屋も営業している。

……大型ショッピングモールが出来なかったからかな。

日本全体は貧しいのに、皮肉な話だった。

やがて、見慣れた看板が見えてくる。

『改古堂』

思わず足が止まった。

元の世界と、ほとんど変わらない。

私は引き戸へ手を掛けた。

ガラガラ、と重たい音が鳴る。

相変わらず立て付けが悪い。

店の奥には、本に囲まれたおじさんがいた。

煙草。

黄ばんだ照明。

積み上がった古本。

全部、知っている。

「いらっしゃい……」

おじさんは顔を上げ、

「あれ、澪ちゃんか」

と目を細めた。

その瞬間、少しだけ肩の力が抜ける。

だが次の言葉で、私は真顔に戻った。

「どうした? ちょっと見ない間に太った?」

……あんたも、それ言うのか。


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