第四部 第13話:塩対応の理由と、参謀のラノベ的恋愛分析
ヴィンデミアに向けられた甘やかな空気と、それに対して青筋を立てて睨みつけるスピカ。
そんな大聖堂内の異質な緊張感を察してか、レグルスはヴィンデミアからすっと視線を外すと、ミルキーウェールズ使節団全体へと向き直り、朗々と口上を述べた。
「遠路到着したばかりで慌ただしいが、余は夕刻より緊急サミットの控えもある故、これにて失礼する。ミルキーウェールズの諸君! サミットの場でまた会おう!」
皇帝としての威風堂々とした態度を取り戻すと、レグルスは最後にスピカの側へと歩み寄り、声を一段落として甘く囁いた。
「スピカ! 息災であったか?」
久しぶりの再会を喜ぶ熱い視線。……しかし、対するスピカの返答はあまりにも冷ややかであった。
「……はぁ」
氷点下を突き抜けるような冷たい反応と、心底面倒くさそうな生返事。
思わぬ塩対応を受けたレグルスは、
「ぬ……!?」と少し面食らって動揺を見せたものの、すぐさま咳払いを一つして体裁を整えた。
「……む、むん。では、また会おう」
レグルスは大聖堂の壁際に控えていた参謀デネボラ、そして男装の麗人にして剣聖たるゾズマの2人を従え、嵐のように大聖堂を後にしていった。
皇帝一行が去った後、スピカたちは気を取り直し、エキティカ聖女機構の重鎮たちへ改めて挨拶を交わした。……だが、挨拶の最中もスピカの視線は、どこか優雅に佇むヴィンデミアの仕草を無意識に追ってしまうのだった。
◇
一方、大聖堂を離れたロメーダ帝国の特等馬車の中。
ガタゴトと揺れる重厚な車内で、参謀デネボラがレグルスに向かって淡々と報告を行っていた。
「殿、エキティカ7カ国の主要メンバーがすべてアルメキオンに集結いたしました。緊急サミットは予定通り開催可能でございます。今回の危機……我がロメーダ帝国が主導となって事態を収束させれば、被害国であるミドルドアに対し極めて大きな『貸し』を作ることができます」
「……しかし、聖女候補たちを危険に晒すことになるのではないか?」
レグルスが眉をひそめて疑念を呈すと、デネボラは迷いのない手つきで眼鏡のふちを上げた。
「ご安心ください。聖女候補たちの安全に関しては、我が国の誇る戦略家達により幾重にも安全対策を施し、慎重に事を進めます。――そして、今回の作戦が成功すれば、世界における聖女たちの名声はさらに高まりましょう。ミドルドアへの借りを背景に聖女機構を動かせば……現在『聖女は出身国に留める』と定められている国際協定を改定させ、聖女機構本部のあるこのアルメキオンに留め置くことも決して不可能ではありません」
デネボラの瞳に、冷徹な軍師としての光が宿る。
「聖女という絶対的な存在を我が陣営に引き留めることができれば、もはやロメーダの覇権は揺るぎないものとなります。ロメーダ帝国による世界制覇が成就したと言っても過言ではございません」
「……デネボラ」
レグルスは車内の空気を突くような低い声で付け足した。
「聖女候補たちの安全確保は『最優先』だ。その件だけは絶対に違えるのではないぞ」
「……かしこまりました。重々承知しております」
デネボラが慇懃に頭を下げると、レグルスはふっと肩の力を抜き、トーンをガラリと変えて切り出した。
「……ところでデネボラよ。先ほど、スピカ・マセットに恐ろしいほど冷たくされたのだが……あれは一体なぜなのじゃ?」
「……」
厳格な国家戦略の話題から一転、あまりにも個人的な恋の悩みを振られたデネボラであったが、表情ひとつ変えずに即答した。
「……あれは、世に言う『ヤキモチ』というものでしょうな」
「む……? ヤキモチ……?」
「はい。殿が他のご婦人に気のある素振りをお見せになったせいではないかと推測されます」
レグルスは「はて」と首をかしげた。
「……ヴィンデミアのことか?」
「第三の聖女候補でございますね」
「あれは……余が幼少の頃から知っておる顔馴染みだ。『美しくなったな』と素直な感想を口にしただけなのだが……」
デネボラは身を少し乗り出すと、人差し指を立てて持論を展開し始めた。
「殿、それです。『幼少の頃はお転婆だった幼馴染に久しぶりに再会したら、思いのほか綺麗になっていてドキッとする』という、王道のシチュエーションでございますな」
(お転婆だったという訳ではないのだが……)と心の中でツッコミを入れつつも、レグルスはデネボラの言葉に耳を傾ける。デネボラは堂々と状況を整理してみせた。
「スピカ・マセットがヤキモチを焼いたということは……すなわち、それだけ殿のことを意識し、気があるという証拠。『脈あり』と見て間違いございません。……ちなみに、このような『幼馴染ルート』が最終的に恋人と結ばれる確率は、およそ30〜40%と言われております」
レグルスは怪しむように目を細め、静かに呟いた。
「……デネボラよ。その数値の根拠は何じゃ?」
聞かれた参謀デネボラは、ほんの一瞬だけ視線を泳がせると、何事もなかったかのようにすました顔で呟いた。
「……巷で流行しております、ライトノベルおよび少年少女漫画でございます」
「……ご苦労」
レグルスは深い溜息をつくと、それ以上突っ込むのを諦め、馬車の窓から遠ざかる街並みへと視線を向けたのであった。
ページ下部の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると励みになります!」
ブックマークも大歓迎!!お願いします。




