第四部 第14話:王子の誓いと、開戦のサミット
エキティカ聖女機構大聖堂の一角。
重厚な石柱の影にて、第一王子シリウスと全権使節ゼダル卿が、三人の聖女候補――スピカ、ベガ、ヴィンデミアを呼び止めた。
シリウスはアクアマリンの瞳に強い意志を宿し、三人に向かって重々しく言葉を発した。
「今回の作戦は、エキティカ七ヵ国を挙げての大規模なものとなるだろう。……率直に言おう。君たちには何らかの重要な役割が割り当てられるはずだ。そしてそれは……命に関わる危険なものかもしれない」
真剣な眼差しが三人を射抜く。
「世界は今、君たちに期待している。君たちの意思に関わらず、それは逃れられない運命かもしれない。……しかし! そのような渦中にあっても、ミルキーウェールズは絶対に君たちを守ってみせる。このシリウス・ランスターが誓おう」
シリウスは熱く語りかけ、言葉を強めた。
「ミルキーウェールズ王国、そしてエキティカ全体の代表として、君たちに過酷な役割を強いることになるかもしれない。だが……僕を信じて従ってほしい!」
そう言うと、第一王子たるシリウスが、三人の少女に向かって深く頭を下げた。
その真摯で誠実な姿に、スピカの胸には熱いものがこみ上げていた。
(シ、シリウス殿下……! なんて立派な……っ!)
そんなスピカの感動を余所に、ヴィンデミアが毅然とした態度でシリウスへ返答した。
「シリウス殿下。お顔をお上げください。我ら三人は『聖女候補』と呼ばれたその瞬間から、そのような事態に対して身を粉にして臨む覚悟はできております。どうぞ思う存分、エキティカのために私達をお使いください」
(……そーそー! 私もまったく同じこと思ってた! 流石ヴィンデミアちゃん、言うことが完璧!)
スピカが心の中で深く同意した……次の瞬間である。
頭を上げたシリウスとヴィンデミアが、至近距離でまっすぐ真剣な眼差しで見つめ合っていた。
スピカの目が点になる。
(……へ?)
気高く美しいヴィンデミアの直球な眼差しを正面から受け止めたシリウスは、みるみるうちに顔を赤らめると、慌てたように視線をそらしてボソッと呟いたのだ。
「……っ、ヴィンデミア書記。か、かたじけない……」
(あ〜らぁ〜?? シリウス様ぁ?? 私というものがありながら、美しいご婦人を前にしてその締まりのないお顔はなぁに……??)
心の中で完璧な悪役令嬢風の嫌味を叫ぶのが精一杯な、第一聖女候補スピカ・マセット(現在絶賛放置プレイ中)であった。
◇
夕刻。ロメーダ帝国首都アルメキオン、サミット会場。
エキティカ七ヵ国の代表が一堂に介した円形会議場は、息をのむような緊迫した空気に包まれていた。
議題はただひとつ――【賢者の書】に新たに刻まれた項目『ep.117』についてである。
【賢者の書】――それはこれまで、世界を襲った数々の大災害や恐ろしい災い、そして奇跡の到来をことごとく予言してきた、世界の絶対的な指標。かつて世界を破滅の一歩手前まで追い込んだ『邪神龍の災い』をも事前に予言し、人類を救った伝説の書である。
世界エキティカは長きにわたりこの書の恩恵を受け、予言を七ヵ国で共有することで国境を越えて一つとなり、知恵を絞り合って数々の危機を乗り越えてきた。
管理責任は便宜上ロメーダ帝国にあるものの、その予言は世界の共有財産として公表されるのが古くからの絶対の通例であった。
『賢者の書の新たな項目 ep.117――空から災いが降り、ミドルドアのシャオハイユに津波が発生する』
会場の視線が集まる中、ロメーダ帝国皇帝レグルスが凛と壇上に立ち、朗々と口上を述べた。
「エキティカ七ヵ国の重鎮の方々、本日の緊急サミットへのご参加、誠に痛み入る。私自ら熱く御礼申し上げたい」
深遠なエメラルドの瞳で場内を見渡し、レグルスは言葉を続けた。
「周知の通り、賢者の書に新たな項目が刻まれた。我がロメーダ帝国は、この問題をミドルドア一国の問題とはせず、世界全体の問題として迅速に対処したいと考える」
重厚な静寂が場内を支配する。
「まずは、これから世界が迅速に対応すべきタイムスケジュール、および我が国が用意した解決策の大枠について――我が代表の優秀な書記、アルギエバより説明させよう」
レグルスの言葉に応じ、すっと立ち上がったのは、透き通るような銀髪と鮮烈な碧眼を持つ圧倒的な美女――若き天才魔導士アルギエバであった。
彼女は凛とした表情で卓上の資料を指し示すと、鈴の鳴るような美しい声で説明を開始した。
世界が固唾をのんで見守る中、ミドルドアのシャオハイユを救う『世紀の作戦』が、いま明かされようとしていた。




