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ご先祖様が聖女様かどうかも疑わしい私が王子様達の獲物にされてます。【第一部完結済み 26話(忍者失格)まで】  作者: クワトロばなな


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第四部 第6話:女子会の秘め事と、規格外の聖水

過酷すぎるアークプリーストのメンタル修行(という名の精神攻撃)をどうにか終えた後、スピカは汗を拭いながら残る三人に晴れやかな笑顔で提案した。


「みんな、お疲れ様! せっかくだから、4人で食堂に行って一緒に夕食にしましょうよ!」


ベガは「私は構わないわ」と短く答え、ヴィンデミアも「ええ、是非喜んで」と優雅に頷いた。無口なくノ一・ザニアも、コクリと可愛らしく頭を下げる。


食堂へ移動し、それぞれが注文した温かい夕食がテーブルにズラリと並んだ。湯気が立ち上る料理を前に、スピカが嬉しそうにベガへと身を乗り出し、目を輝かせて話題を切り出した。


「ねぇねぇ、ベガさん! そういえば、アルタイルさんとは最近どうなっているんですか〜?」


(……いきなり恋バナ!? なんて呑気な子かしら……)


突如として始まった学園女子らしい会話に、ヴィンデミアは呆れ混じりに眉をひそめた。


しかし、急に振られたベガは一瞬で顔を引き攣らせ、手にしていたスプーンを危うく落としそうになりながら猛反論した。


「ちょっ……あなたねぇ! 自分のごちゃごちゃしたカオスな恋愛事情を棚に上げて、よくも人のことが聞けたわねっ!?」


実際問題、スピカの恋愛事情は「ごちゃごちゃ」というレベルすら超越した凄まじいことになっていた。


ミルキーウェールズ第一王子シリウスからは情熱的なプロポーズを受けているものの、現在の関係は少し冷え込み気味。


覇権国家ロメーダ帝国のレグルス皇帝からは強引かつ真っ直ぐな求愛を受け、スピカの心は激しく揺さぶられている。


ブリデン王国の第三王子ヘンリーからのアークプリースト的猛アプローチには決めかねて保留(事実上の生殺し)状態。


おまけに、身近にいるミルキーウェールズのトップエージェント・カノープス(イナズマ丸)からも過去の恋心を告白されているのだ。


まさに世界を股にかけた超ド級の泥沼恋愛模様である。


「やだなぁ、私のことなんてどーでもいいですから! それで、どうなんですかっ?」


(……いや、絶対にどーでも良くないでしょ!!)と、どこからか盛大なツッコミが飛んできそうな勢いだが、スピカは悪びれもせずベガへ食い下がる。


ベガはみるみるうちに顔を真っ赤に染め、


「……べ、別に最近は特に何もないわよ」と小さく呟いてそっぽを向いてしまった。


そんなやり取りを横目で見ながら、ヴィンデミアは心の中で頭を抱えていた。


(ベガ・ドウィン様はともかく……このスピカ・マセットという人物は一体なんなの?


『いもづる姫』の脅威からは欠席という卑怯な手段で逃れようとするし、上級ジョブ施設の厳重な警備理由は『プレミア感』とか適当なことを言うし、毒虫部屋の修行は毎回サボるし……(※ヴィンデミア自身もサボっています。)本当にこの子が、あの『聖女候補』なの?


どう見ても、どこにでもいるただの普通の少女にしか見えないのだけれど……)


ヴィンデミアが一人で盛大に困惑していると、スピカが今度はターゲットをこちらに切り替えてきた。


「ねぇねぇ、ヴィンデミアちゃんは好きな人とかいるの?」


「……えっ?」


不意を突かれた質問に、ヴィンデミアの脳裏にふと、一人の気品ある貴公子の面影が浮かび上がった。しかし、彼女はすぐさまポーカーフェイスを取り戻し、やんわりと否定した。


「……いいえ。特にそのような方はいらっしゃいませんわ」


「そっかぁ。じゃあザニアちゃんは?」


次に振られたザニアは、もぐもぐと動かしていた口を止めると、ぽっと頬を朱に染めた。そして、恥ずかしそうに消え入りそうな声で呟いた。


「……イナズマ丸……」


「「「!?」」」


不意に飛び出した予想外の名前に、テーブルの空気が一瞬だけ固まったのだった。

◇

賑やかな夕食が終わり、それぞれの部屋へと戻る間際、スピカがふと思い出したように手を合わせた。


「あ、みんな先に乗ってて! 私、これから今日の分のお仕事……聖水を作らなきゃいけないの」


それを聞いたヴィンデミアが、興味深そうに尋ねた。


「……聖水の精製? 私もご一緒してもよろしいかしら?」


「ええ、もちろん! 大丈夫よ、ついてきて!」


スピカ、ヴィンデミア、そしてザニアの三人は、女子寮のすぐ近くに設置された「エキティカ聖女機構」管轄の聖水工場へと足を運んだ。


重厚な建物の扉を開けると、スピカが作業着姿の管理人に親しげに声をかける。


「アルバートさん、こんばんは〜!」


「おお、こんばんはスピカちゃん。今日も頼むよ」


「はーい、任せておいてください!」


スピカは快く応えると、作業用の階段をトントンと軽快に登っていった。


ヴィンデミアたちが下から見上げる中、スピカは巨大な木樽の真上に渡されたキャットウォーク(高所作業用足場)の上に立った。


(……な、何なのあれは……!?)


ヴィンデミアは目の前の光景に絶句した。

スピカの目の前にあるのは、直径3メートル、高さも同じく3メートルはあるかという、まるで小プールのような規格外の超巨大な樽であった。そこには並々と澄んだ水が蓄えられている。


スピカは深呼吸を一つすると、静かに両手を掲げ、真剣な眼差しで呪文を唱え始めた。


『――エンチャント・ロングターム・ラージヒール!!』

『――エンチャント・ロングターム・ホーリー!!』


―――ズオオオオオオオオオッッ!!


次の瞬間、空気そのものが鳴動した。

スピカの身体から解き放たれたのは、正真正銘の「規格外」なる神聖魔力の奔流であった。眩いばかりの光の柱が巨大な樽全体を呑み込み、並々と注がれていた水面が、まるで太陽の破片を溶かし込んだかのように黄金色へと輝き始める。


圧倒的な魔力量、精密すぎる広域付与(エンチャント)の技術――。


先ほどまで毒虫を嫌がり、恋バナに興じていた「普通の少女」の面影はどこにもなかった。そこにいたのは、間違いなく世界を救う神の奇跡を宿した『聖女』そのものであった。。


あまりの光景に、ヴィンデミアはサファイアブルーの瞳を目杯に開いたまま、ぽつりと本音が漏れた。


「……バケモノなの……?」


ヴィンデミア・ブランジネットは、この夜、スピカ・マセットという存在の本当の恐ろしさを知るのだった。


彼女のメレンヘア学園での驚愕と混乱は、まだまだ終わる気配を見せないのだった。

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