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ご先祖様が聖女様かどうかも疑わしい私が王子様達の獲物にされてます。【第一部完結済み 26話(忍者失格)まで】  作者: クワトロばなな


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第三部 第23話:平穏な日常と、情熱の吟遊詩人

大晩餐会襲撃事件という未曾有の事態――その余波は、ロメーダ帝国の参謀デネボラの冷徹かつ完璧な手回しどおり、ヒーローたちによる「おとぎ話のようなお姫様救出劇」へと人々の関心が巧みに誘導されていた。


結果として、帝国のイメージダウンは最小限にとどめられたのである。


当日の晩餐会に出席していた各国要人たちも、「恐ろしい襲撃の被害に遭った」というよりは、「歴史的な英雄劇に居合わせた当事者となった」という誇らしさを抱く者が多かった。それ以上に、あの恐怖の最中に「聖女スピカ様から直接、ありがたい解呪文(リムーブ・スリープ)を授かった」という奇跡の体験談が先行したため、帝国側の警備体制の不備を激しく追及する声は拍子抜けするほど上がらなかったのだ。


逆に、圧倒的に世間の評判を落としたのは、「王女誘拐」という極めて卑劣な手段を用いた反政府レジスタンス『RLF(ロメーダ解放戦線)』であった。


しかし――今回の騒動で発覚した「RLFが聖女スピカを直接狙っている」という動かしがたい事実は、ミルキーウェールズ王国側にとっても決して無視できない重大な課題として重くのしかかることとなったのだった。

◇

そんな緊張感を裏で孕みつつも、無事に祖国への帰還を果たしたミルキーウェールズ一行は、それぞれの学舎へと戻っていった。


スピカたちが通う「メレンヘア学園」にも、どこか懐かしい平穏な日常が戻ってきた。


「――ねぇねぇ、スピカ!」


久しぶりの賑やかな教室。席についたスピカに、クラスメイトのクレアが目を輝かせながら話しかけてきた。


「クラーケン討伐の記念式典で、すっごい勲章をもらったんですって!?」


「えぇ……まぁ……」


スピカが謙遜ぎみに小さな声で答えると、隣にいたナンシーも身を乗り出してきた。


「ねぇ、見せて! 見せてもらってもいいかしら!?」


「あ、うん……どうぞ……」


二人の視線に押され、スピカは申し訳なさそうに制服のポケットからゴソゴソと「それ」を取り出した。


『怪物討伐功労者第一勲。ダイヤの勲章』――。


豪奢なプラチナの台座に、眩いばかりの光を放つ巨大なダイヤモンドが鎮座している。スピカにとっては、相変わらず自分の身の丈には合わない「場違いな輝き」を放つ逸品であった。


「「わぁぁぁ……っ!!」」


クレアとナンシーは、感嘆のため息を漏らしながら目を丸くした。


「すごい……! すっごく綺麗な勲章ね……! ……でも、スピカ。なんでこんなに素晴らしいものを胸に付けていないの?」


不思議そうに問いかけてくる二人。実際、式典で勲章を授与されたメンバーたちの「その後の取り扱い」は実に様々であった。


シリウス、ベガ、デネブの三人は、制服や社交服にさりげなく、かつ実に自然なこなれ感で飾っていた。ハダルは気分や服装に合わせて付けたり外したりしており、サムライのアルタイルに至っては勲章自体にあまり興味がないのか、一度も身に付けている姿を見かけたことがない。


スピカはバツが悪そうに苦笑いを浮かべ、頬をかいた。


「いやぁ……頂けたのは本当にありがたいんだけどね? 正直、私の功績なんて、レグルス皇帝陛下にかなり盛られすぎちゃってる気がするのよ……。だから『私なんかで本当にいいのかなぁ』っていう戸惑いもあるし……」


スピカは勲章を指先でちょんと突き、ため息をついた。


「それに……この勲章、豪華すぎるでしょ? 私みたいな庶民派が胸に付けたら、絶対『勲章に負けちゃう』と思うのよね……」


スピカの本音を聞いたクレアとナンシーは、互いに顔を見合わせると――。


「「あぁ〜……なるほどね」」


と、心の底から深々と納得したような表情を浮かべたのだった。


(……あ、あれ? そこはちょっとくらい『そんなことないわよ! スピカにぴったりよ!』ってフォローしてくれても良かったのよ、クレア、ナンシー…。)


密かに心の中で小さく突っ込むスピカであった。

◇

そんな会話を繰り広げていたスピカの前に、突然――ジャカジャーンと軽快な弦の音が響き渡った。


現れたのは、小さなギターのような弦楽器を抱えた男――吟遊詩人訓練生のイサムであった。 


イサムはスピカの目の前ギリギリまで顔を近づけると、熱っぽい眼差しで彼女の目をじっと見つめて囁いた。


「……また、僕たちは目が合ってしまったね」 


「えっ」


「これは……運命だ!!」


(いやいや! 目の前にぬっと立たれて見つめられたら、嫌でも目は合いますから!!)


スピカが心の中で必死にセルフツッコミを入れている間も、イサムは一切のブレーキをかけずに畳みかけてくる。


「君のために……僕の魂を注ぎ込んだ新曲を作ったんだ! 聞いてくれ!」


イサムはジャーンと派手に弦を鳴らし、朗々と歌い出しのタイトルを叫んだ!


「タイトル『僕だけの聖女』。作詞・作曲、ツトム&イサム」


『君は女神さビーナスさ。見つめ合えば時が止まるさ、息もとまるぜ。そのままで、そのままの君でいてくれ。あぁ。今日からどうしよう。

……』


「…………」


「…………」


「…………」


静まり返る教室。スピカ、クレア、ナンシーの三人は、あまりの言葉のチョイスと独特すぎるメロディラインに、開いた口が塞がらず固まっていた。


するとイサムは、歌い終わると同時におもむろにスピカの手を両手でギュッと握りしめ、情熱的な瞳で叫んだ!


「こんなちっぽけな学園なんて飛び出して……二人で新しい暮らしを始めようーーーっ!!」


(いやいやいや!! 今も昔もどんな時も、そーゆー訳には絶対にいかないから!! ていうか誰なのツトムって!!)


スピカが叫び出そうとした――次の瞬間!

少し離れた席からその様子を冷ややかな目で見つめていたハダルが、すっと手を挙げて大声で叫んだ。


「――SPさーん! ここに不審者がいまーす!」


「なっ!?」


直後、廊下から影のように現れた黒服のSP(要人警護員)数名が、イサムの左右の腕をがっちりと拘束した。


「な、何をする! 僕の愛は本物だ! 離せ! スピカぁぁぁーーーっ!!」


悲痛な叫び声を教室中に響かせながら、吟遊詩人イサムは黒服の男たちによってズルズルと引きずられて連行されていったのだった。 


去っていく不審者(イサム)の背中を見送りながら、スピカは深く、深〜くため息をつくのだった。

(……ふぅ。学園に戻ってきたんだなぁって……変なところで実感しちゃったわ……)

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