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ご先祖様が聖女様かどうかも疑わしい私が王子様達の獲物にされてます。【第一部完結済み 26話(忍者失格)まで】  作者: クワトロばなな


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第三部 第21話:揺れる乙女心と、二人の王子様

「――イナズマ丸……っ!!」


エリダヌス姫は、自身でも思ってもみなかった男の名を夜空へ叫ぶようにしてハッと目を覚ました。


荒い息を吐きながら飛び起き、周囲を見渡す。そこは、見慣れたロメーダ城内にある薄暗く静かな自身の寝室であった。


「……姫様!? お目を覚まされましたか!」


その大きな叫び声を聞きつけ、パタパタと足音を立てて駆け寄ってきた侍女に対し、エリダヌスは毛布を胸元まで引き上げながら、勝ち気な碧眼を鋭く光らせて問いかけた。


「……私に一体何が起こったのか、事の一部始終を説明しなさい!」


「は、はいっ! 実は……」


侍女の口から語られたのは、大晩餐会の最中に反政府レジスタンス『アールエルエフ』によって自身が人質として拐われたこと、そして第一王子シリウスをはじめとする各国の精鋭たちによって無事に救出されたという経緯であった。


(……まあ! では、あの素敵なシリウス様が、恐ろしい賊徒の手から命がけで、この私をお助けくださったのね……!)


侍女の報告を聞きながら、エリダヌスはうっとりと胸の前で手を組み、甘美な妄想の世界へと浸ろうとした――が。


『――イナズマ丸でございます。もうご安心ください』


脳裏を掠めたのは、優雅なシリウスの姿ではなかった。


麻袋から助け出された瞬間、漆黒の覆面の奥から覗いていた、あのどこか優しく、温かな眼差し。そして耳元で囁かれた、包み込むような低く柔らかい声――。


あろうことか、「イナズマ丸」の幻影が頭から離れなくなっていたのだ。


「〜〜〜〜〜っっ///!?」


一瞬で顔を耳まで真っ赤に染め上げたエリダヌスは、頭を激しく振りながら、浮かんできた感情を全力で否定しようと叫びそうになる。


(な、ななな何なの!? なんであの冴えない覆面男の顔や声が浮かんでくるのよ!? わたしが……この私が、あのような得体の知れぬ者を想うなんて……あり得ないわ! 絶対にあり得ないわ……っ!!)


湧き上がってくる訳の分からない胸のときめきと動揺を力ずくで握り潰すかのように、エリダヌスは高級な絹の寝具をぎゅっと強く握り締め、自分の方へと力任せに引き寄せるのだった。

◇

同じ頃――。

ミルキーウェールズ王国一行を乗せた、最上級の「一等一号馬車」。


静かな夜の街道をガタゴトと揺られながら、スピカは宿舎へと向かう馬車の中で、今日巻き起こった怒涛の出来事を一人振り返っていた。


(……はぁぁぁ……今日はいろいろありすぎて、なんだか一気に寿命が縮まった気分……)


窓の外の夜景をぼんやりと見つめるスピカの頭の中に、去り際に囁かれたレグルス皇帝の言葉と姿が、何度も、何度も鮮明に蘇ってくる。


『お前の働きは見事だった。これからは聖女として胸を張ってもいい!』


そして――別れ際、あの深淵のようなエメラルド色の瞳で見つめられながら告げられた、甘い一言。


『……スピカ。そのドレス、似合っているぞ』


(〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ///!)

思い出しかけただけで、顔から火が出そうなほど熱くなる。


最初は強引で冷酷で、何を考えているか分からない「得体の知れない怪物」や「恐ろしい悪役キャラ」のように思っていた男。……なのに、今の自分は、彼に対して確かな好意を抱いてしまっていることを、もはや認めざるを得なかった。


(あーーーっ! もう、レグルス陛下ってば何てこと言うのよぉぉぉ! ずっと冷酷な悪役キャラでいてくれたほうが、こっちとしては気が楽だったのに……っ!)


悔し紛れに心の中で叫びながら、スピカはそっと胸に手を当て、自分の本当の気持ちを問いかける。


(私……あの人のことが、好きなんだ……)


思い浮かぶのは、美しいプラチナブロンドの髪が映える彼の端正な顔立ちと、吸い込まれそうなエメラルド色の瞳。そして、その不器用な口から語られる、自分を真っ直ぐに想ってくれる温かな言葉たち。


(……あー、もう無理! これ、落とされても仕方ないでしょ!? 私悪くないでしょ!!)


心の中で誰にともなく意味不明な「白旗」を上げ、降参のポーズを決めているうちに――馬車はゆっくりとスピードを落とし、宿舎の車寄せへと到着した。


御者がステップを下ろす音が聞こえ、馬車のドアが外から静かに開かれる。


そこに立っていたのは――夜風に揺れるしなやかなブロンド髪と、透き通るようなアクアマリンの瞳を持つ男。


第一王子・シリウスであった。


「……スピカ庶務」


シリウスは極めて自然で洗練された動作でスピカの手を取り、優しくエスコートしながら馬車からの下車を促してくれる。その指先から伝わる体温に、スピカの心臓が跳ね上がる。


無事地に着地したスピカに対し、シリウスはアクアマリンの瞳を柔らかく細め、優しく語りかけた。


「今日の式典と、晩餐会での君の振る舞い……本当に素晴らしかったよ。危険な場面でも取り乱さず、皆を救ってくれた。同じ国の代表として、君の存在がとても誇らしかった。……本当に、ありがとう」

「あ……」


スピカは吸い寄せられるようにシリウスの目を見つめ、その美しいアクアマリンの瞳の奥に秘められた真意を覗き込もうとした。


しかし、シリウスはいつもの完璧で優雅な笑みを浮かべたままで、それ以上の言葉を語ろうとはしない。その完璧すぎる笑みが、かえってスピカの胸をざわつかせた。

あまりの至近距離と甘い雰囲気に間が持たなくなったスピカは、顔を真っ赤にしてパッと視線を泳がせた。


「あ……あ、ありがとうございます……っ!」


消え入りそうな声で呟くと、スピカはペコリと頭を下げて下を向いた。


そして、後ろから自分を静かに見送ってくれているシリウスの温かな視線を背中に感じながら、護衛のハダルと共に逃げるように迎賓館のロビーへと歩を進めた。


(あーーーっっ!! もう何なの今のは!? ズルい! ズルすぎるよシリウス王子ーーーっ!!)


心の中で叫びながら、スピカは両手をあげて心の中で二度目の「白旗」を全力で掲げた。


(……あーはいはい! これもやられても仕方ないやつです! 完璧王子と冷徹皇帝に挟まれるとか、私のキャパシティ完全に超えてますからぁぁぁーーーっっ!!)


自身の受難(?)と、胸の甘いときめきに頭を抱えながら、スピカの慌ただしい一夜は更けていくのだった。

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