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ご先祖様が聖女様かどうかも疑わしい私が王子様達の獲物にされてます。【第一部完結済み 26話(忍者失格)まで】  作者: クワトロばなな


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第三部 第19話:包囲網の稲妻と、さらば仮面の男

暗く湿った地下通路をひた走るイナズマ丸(カノープス)とゾズマ。


その追跡の渦中、通路の脇に薄桃色の布切れが無造作に投げ捨てられているのが目に入った。それは、拐われたエリダヌス姫が身に纏っていた豪奢なドレスであった。


「あっ……エリダヌス姫のドレスであります!」


息を呑んだゾズマが思わず手を伸ばし、それを拾い上げようとした瞬間――。


「待ってください、ゾズマ殿! 触れてはいけません!」


イナズマ丸が素早く腕を伸ばし、ゾズマの肩を強く引き戻した。


イナズマ丸が慎重に視線を落とすと、脱ぎ捨てられたドレスの布地には、暗闇でほのかに光る無数の細い極小の針と、怪しい毒液――強力な麻痺と痺れ薬がびっしりと仕込まれていた。


「な……っ! 賊の者め……なんと破廉恥かつ卑劣な……ッ!」


ゾズマは悔しそうに歯がゆく唇を噛みしめ、拳を強く握りしめた。


「罠を仕掛けて追手を足止めしようとするとは……。出口を押さえられれば、奴らは袋の鼠。敵も相当焦っている証拠です」


イナズマ丸の冷静な分析にゾズマも力強く頷き、二人は再び先を急ぐべく闇の奥へと疾走した。

◇

一方その頃――。

地下通路の出口が繋がっている『アルメキオン城下町』の郊外に広がる深い森の中。


この森を抜けた先には、大勢の人々が行き交うアルメキオンの賑やかな城下町が広がっている。もしも人混み溢れる街の中に紛れ込まれてしまえば、どれほど広範な捜索網を敷こうとも、姫の追跡は事実上不可能となってしまうだろう。


一足先に出口付近へ先回りしていたミラは、木々の死角に身を潜めながら様子をうかがっていた。地下通路の不気味な開口部には、見張りの『くノ一』が二人、刃を忍ばせて周囲を警戒していた。


ミラは木々の合間から、遥か上空で待機する第一王子シリウスへ向け、手信号(待機のジェスチャー)を静かに送る。


やがて――暗い出口から、大きな麻袋を担いだ大柄の忍びがヌッと姿を現した。


大柄の男は出口にくノ一を一人だけ残すと、もう一人のくノ一を連れ、麻袋を担いだまま城下町の方角へと足早に走り出した。


(――行ったわね)


上空からはシリウスが気配を消して飛行追跡し、地上からはミラが見張りのくノ一に気づかれぬよう、影から影へと滑るように回り込んで二人を追尾する。完璧な連携による挟撃態勢が整いつつあった。

◇

同じ頃、地下通路の深部では――。


「ハァ……ハァ……!」


イナズマ丸とゾズマの二人は、ついに前方を走る「仮面の男」の背中を肉眼で捉えていた。


ハイクラスの『忍者』であるイナズマ丸の足に遅れることなく、重厚な剣を携えながらぴったりと背後に追従してくるゾズマの凄まじい脚力とポテンシャルには、イナズマ丸(カノープス)も心中で深く舌を巻いていた。


(男装の令嬢とはいえ、さすがは『ソードマスター』……なんてスタミナと脚力だ……!)


前方にかすかな外の光が見え始めた。地下通路の出口である。


仮面の男が出口の光を目掛け、逃走用の強力な煙幕弾を足元へ叩きつけた。

(まずい……! 視界を奪われ、敵を見失う――!)

爆発的な紫煙が視界を遮り、イナズマ丸が焦燥に駆られた――まさにその瞬間である!


―――ドドンッ!! ズゴォォォンッ!!

出口の向こう側から、腹に響くような凄まじい雷鳴と閃光が轟いた!


「な……っ!?」


上空から放たれた強烈な稲妻が、出口を守っていた見張りのくノ一を直撃する! 煙幕を抜けて逃げ出そうとした仮面の男は、命からがら間一髪の『回避スキル』を発動させ、身を躍らせて稲妻の直撃をかわしてみせた。


何事かとイナズマ丸とゾズマが警戒しながら出口からそっと顔を覗かせると――そこには、蒼い稲妻の余韻を纏い、威風堂々と空中に佇む男の姿があった。


ロメーダ帝国皇帝――レグルスであった。


「……フン。ネズミどもめ、我が妹を拐っておいて無事に逃げ切れると思ったか」


冷徹な瞳で下界を見下ろす皇帝の姿に、仮面の男は苦々しく舌を打つのだった。

◇

同じ頃、城下町を目前にした森の出口――開けた平地へと辿り着いていた大柄の忍者とくノ一。


背後で響いた凄まじい雷鳴に大柄の忍びが振り返った瞬間、彼らの目前の地面が激しく爆ぜた!


「――『ファイヤーウォール(炎の壁)』!!」


激しい炎の柱が立ち上り、城下町へと続く道を完全に塞ぎ封鎖する。


大柄の忍者たちは慌ててバックステップを踏み、迫る熱風から距離を取った。揺らめく炎の壁と彼らの間に、舞い降りるように一人の美しい青年が降り立つ。


洗練された佇まいで剣を抜く第一王子シリウス。


それを見た大柄の忍びは、心底うんざりしたように肩をすくめ、吐き捨てた。


「……チッ、またあんたかよ。『裸の王子様』」


※かつてシマフクワイアンで裸の

まま追跡してきた王子を揶揄する言葉である。第ニ部参照。


「そんな場所に丸腰同然で降りてきて……見りゃ分かるだろ、こっちは2対1だぜ?」


ニヤリと下品に笑う大柄の忍者に対し、シリウスは優雅に微笑み返した。


「――そうだね。2対1だ」


「なっ……!?」


次の瞬間、忍者の死角となっていた草むらから素早く忍び寄っていたミラが、疾風のごとき手刀を見張りのくノ一の首筋へと叩き込んだ!


「きゃっ……!?」


一切の声をあげる間もなく、くノ一はその場に崩れ落ち、無力化される。


大柄の忍びは青ざめ、慌てて横へと大きく飛んでミラから距離を取ろうとした――が。


「――甘い」


死角から突如としてあらわれた新たな影――隠密装束を纏ったイナズマ丸が、空中で旋回しながら大柄の忍びの肩口へ強烈な一撃を叩き込んだ!


「がはっ……!?」


激痛に生じた隙を見逃さず、イナズマ丸は大柄の忍びが担いでいた麻袋を鮮やかに奪い去る。


着地したシリウスが、剣を鞘に納めながら穏やかに言葉を継いだ。


「ごめんね。――3対1だ」


イナズマ丸は即座に距離を取り、地面に降ろした麻袋の縄を素早く解いた。中から現れたのは、少し着古したインナー姿のまま気を失っていたロメーダ王女・エリダヌスであった。


「う……ううん……」


外の風に触れ、ゆっくりとまぶたを開くエリダヌス。


かすむ視界の中に映ったのは、漆黒の覆面を纏った男の顔だった。


「お前は……?」


弱々しく問いかける王女に対し、イナズマ丸は低く優しい声で語りかけた。


「……イナズマ丸でございます。もう、ご安心ください」


「……イナズマ丸……」


その名を聞いた瞬間、エリダヌスはホッと毒気を抜かれたように息を吐き、安堵したように再び静かに目を閉じるのだった。


そこへ、息を切らせたゾズマが剣を構えて駆け込んできた。


「ミラ殿! シリウス王子! 追いついたであります!」


「ふっ……全員集合というわけね」

四人に完全に包囲され、人質すら奪われた大柄の忍びは、ぽりぽりと頭を掻くと、諦めたようにため息を吐いた。


「……へっ、あんたの勝ちだ。白馬の王子様」


大柄の忍びは懐から『赤色の狼煙(のろし)』を取り出して空へと放つと、潔く両手を頭の上に挙げて投降の意思を示したのだった。


◇

一方――地下通路の出口付近。


上空から放たれるレグルスの苛烈な雷撃に対し、仮面の男は持ち前の異常な身体能力と『回避スキル』を駆使し、紙一重ですべての雷をかわし続けていた。


しかし、城下町の方角の空にポツりと上がった「赤色の狼煙」が仮面の男の視界に入った。


「……最悪だね」


仮面の奥でボソリと呟くと、男は即座に諦めをつけ、上空のレグルスに向けて懐から複数のクナイを投擲した!


「フンっ!」


レグルスが空中で身を捻り、飛ばされてきたクナイを素早くかわした――その瞬間!

仮面の男はすかさず足元へ『強力閃光弾』を叩きつけた!


―――カァァァァァッッ!!


上空の視界をも真っ白に染め上げる、凄まじい光の爆発。


「くっ……!?」

危険を察知したレグルスは眩ましを避けるため、瞬時に飛行魔法の高度を大きく引き上げた。


数秒後、光が収まり、レグルスが地上へ視線を戻した時には――。


そこに仮面の男の姿は、影すら残っていなかった。


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