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ご先祖様が聖女様かどうかも疑わしい私が王子様達の獲物にされてます。【第一部完結済み 26話(忍者失格)まで】  作者: クワトロばなな


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第三部 第16話:ワガママ姫の襲来と、迫り来る紫煙の罠

「お会いしたかったですわ、シリウス王子」


まばゆいばかりの金髪に、勝ち気そうな碧眼。透き通るような白い肌を豪奢なドレスで包み込んだその姿。彼女の名は、ロメーダ帝国王女エリダヌス。皇帝レグルスの腹違いの妹であった。


過保護に甘やかされて育ったせいで、周囲の貴族や侍従たちがこぞって手を焼いているといわれる、社交界でも有名なワガママお嬢様……。しかし、そんな彼女がミルキーウェールズ王国第一王子・シリウスにだけはゾッコンであるということは、世界中の噂好きの間で有名な話であった。


(あー……まさに絵に描いたような、すっごく綺麗なお姫様……。シリウス王子とは、一体どんなご関係なのかしら……?)


相変わらず周囲を囲む取り巻きたちに適当にあいづちを打ちながらも、スピカは気が気でなく、シリウスたちの動向を盗み見ていた。


「ご息災なによりです、エリダヌス姫」


群がる取り巻きをかき分けるようにして目の前に立ちはだかったエリダヌスに対し、シリウスは完璧な笑みを崩さず、慇懃無礼にならないギリギリの礼節をもって返答する。


「シリウス王子! 海の魔王クラーケンを退治した際のお話、ぜひ私にも聞かせていただきたいわ!」


身を乗り出すようにして問いかけるエリダヌスに対し、シリウスはふっと視線を和らげて答えた。


「私などの活躍など……伝説の勇士『イナズマ丸』殿の神速の働きには、到底遠く及びませんよ」


そのやり取りを、少し離れた場所で聞き耳を立てていたカノープスは、思わず「ヒッ」と引きつった顔をした。


(……し、シリウス殿下!? なんでここで僕の……ううん、イナズマ丸の名前を出すんですか……っ!?)


すると、エリダヌス姫は小さく鼻を鳴らし、心底嫌そうに扇子を仰いだ。


「まあ、イナズマ丸ですって!? お兄様(レグルス)や巷ではご執心の方々もいらっしゃるようですけれど……正体すら明かさぬあの得体の知れぬ覆面者のどこが良いのかしら? 私には到底理解できませんわ! シルウス様の方が、何百倍も優雅で素敵ですわ!」


「〜〜〜〜っっっ!?」


エリダヌスの容赦ない言葉に、カノープスは胸を不可視の矢で射抜かれたような、絶大な精神的ダメージを受けた。


カノープスにとって、エリダヌス姫は因縁の「黒歴史」を持つ相手であった。かつて、自分に興味を示しているという彼女の前に意気揚々と颯爽と現れたものの、「……冴えないわね!」という冷酷な一言で一瞬にして撃沈されたという、あまりにも暗い過去が蘇ってきたのだ。※スピンオフ参照


(実体でも、分身のイナズマ丸でも撃沈されるなんて……僕の尊厳は一体どこへ……)


散々な言われように、カノープスは心中で血の涙を流していた。

◇

そんなシリウスとエリダヌスのやり取りに聞き耳を立てていたスピカとカノープスの前に、一人の男が足早に歩み寄ってきた。


「……ふぅ、ようやく着いたか」


各国の外交重鎮たち――いわゆるタヌキ親父たちの果てしないお世辞攻撃を強引に引き剥がし、ギリギリの精神状態と根性でスピカの元へと辿り着いたロメーダ皇帝・レグルスであった。


(……っ、レグルス皇帝……!)


昨夜、スピカの部屋に不法侵入し、彼女を力づくで連れ去ろうとした経緯をハダルからしっかり聞き及んでいたカノープスは、一瞬で鋭い警戒感を露わにした。


カノープスは即座にスピカの前に立ちふさがり、レグルスを牽制する。


「……何のご用でしょうか、皇帝陛下」


しかし、毅然とした態度を取ろうとしてはいるものの――カノープスの両脇には、オレンジ色のドレスを着たミラと、クリーム色のドレスを着たハダルがしっかりと腕を抱きしめている状態であった。


絵面があまりにも決まらないカノープスに対し、


(……なんだコイツ? なんでこんな冴えない奴が二人の美女にモテまくっているんだ……?)


レグルスは不審さとイライラが入り混じった目でカノープスを睨みつけると、威圧感たっぷりの低い声で問い詰めた。


「……お前は確か、シリウスの副官だったな。……クラーケン討伐の際、お前は一体何をしていたのだ?」


それは、カノープスに恥をかかせようとしているのか、あるいは彼の真の実力を探ろうとしているのか、どちらとも取れる危険な問いかけであった。


カノープスは動じず、淡々と答える。


「……帷幕(テント)にて、戦況の分析と後方支援を行っておりました」


「ふん。机上の論理ばかりではいかぬぞ。現場(戦場)に立ってこそ見えるものがある」


軽く説教じみた言葉を返したあと、レグルスはフッと表情を和らげ、スピカの方へと視線を向けた。


「……すまぬが、聖女と二人で話がしたい。許してもらえるか?」


皇帝らしからぬ丁寧な口調で許可を求めてくるレグルス。


カノープスは依然として強い警戒を抱きつつも、立場上その申し出に応じようと口を開きかけ――。


(――っ!?)


突然、脳みそを直接殴られたかのような、重く鋭い強烈な「眠気」がカノープスを襲った。


視界が急速に歪み、膝から崩れ落ちそうになる。


(な……なんだ……っ!? 敵襲……っ!??)


視界の端で、スピカや周囲の貴族たちが崩れるように倒れ始めるのが見えた。意識が途切れそうになる凄まじい睡魔の濁流に対し、カノープスは歯を食いしばり、必死の覚悟で自らのスキルを叫んだ!


「『マインドリセット(精神回復)』ーーーっっ!!」


頭の中に激痛のような清涼感が突き抜け、ギリギリのところで睡魔の呪縛を力ずくで打ち破る!


時を同じくして、カノープスの両脇にいたハダルとミラも即座に「マインドリセット」を発動し、強烈な眠気を吹き飛ばした。


「スピカ様……っ!」「カノープス、これは……!」


ハダルとミラが武器に手をかけ、即座にスピカを護る最大警戒態勢を取る。


その瞬間、色鮮やかな舞踏会場全体に、怪しい紫色の煙幕が爆発的に広がり始めた。


「……くっ! 範囲内の全員を強制的に眠らせる……古代魔道具(アーティファクト)か……!?」


額を冷や汗が伝い落ちる中、カノープスは煙幕の向こう側で蠢く「最悪の気配」を感じ取り、鋭く剣の柄を握りしめるのだった。

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