人型魔法生物?クマムシマン参上
【第二王子リゲルの回想】
リゲルの脳裏には、あの編入生の言葉が焼き付いて離れなかった。
『ひと角の殿方であられるなら、奪うことではなく、貴方にしかできないことがあるんじゃないですか?』
拳を握りしめ、リゲルは低く唸る。
「……あの女!」
【魔法生物飼育委員会】
一方、スピカは重い足取りで飼育委員会へと向かっていた。
「げっ。今日は魔法生物飼育委員会の日だ……」
先週の出来事を思い出し、スピカは身震いする。
(トグへもんさんの魔力提供、先週私がやったから今週は無いはずよね)
しかし、委員長のサムは満面の笑みで宣言した。
「さぁ今週も、ミスタートグへもんの魔力提供から始めるよ! ミスタートグへもん、ご指名をお願いします」
「うん」
トグへもんの返事に、スピカは目を見開いた。
(えっ! まさかの指名制!? 当番制じゃないの!?)
「誰にしようかな……決定!」
トグへもんの短い腕がスピカを指差す。
「おー、ノー……」
「ひーっ!」
指名されずに残念がるサム。
絶望するスピカを余所に、トグへもんはお気に入りの歌を口ずさみ始めた。
「すひはひゃんのまひょふはおひひはー(スピカさんの魔法はおいしいなー)」
(……新曲?)
「シャワーを浴びておいで!」
「……はい」
もはや抗う術もなく、スピカは浴室へと消えていった。
魔力提供が終わると、サムは棚から干からびた「何かのかたまり」を取り出した。
「今日はまた、新たな魔法生物を紹介するよ。クマムシマンだ!」
「……なんですか、これ?」
「まぁ見ていたまえ」
サムが水をかけると、それはムクムクと膨れ上がり、やがて人型へと変貌した。
「人型魔法生物?」
全身筋肉室のボディに固い角質の鎧に身をつつむ端正な顔立をした人型魔法生物が表れた。
「彼はクマムシマン。コンパクトに携帯可能で、水で戻せば対物、耐火、耐水、耐冷、耐電、耐風のパーフェクト壁担当……」
サムはそこで一度言葉を切り、少し声を落とした。
「……と思いきや、精神攻撃に弱い。一月に一度、メンタルケアが必要なんだ。今日は他の飼育はいいから、彼のメンタルケアと栄養補給をお願いするよ」
「栄養補給……」
(また、あの変な感じの魔力提供?)
「彼の栄養補給は魔力じゃないんだ。食堂でね。はい、食券!」
「食堂! ……でもメンタルケアって、何をすればいいの?」
【食堂】
スピカはトレイを抱えたクマムシマンと向かい合っていた。
「私は……」
(喋った!)
「遠い星から来た気がする」
(何を言ってるの!)
スピカは困惑しながらも話を合わせた。
「クマムシマンさんの故郷って、どんな所だったんですか?」
「私には、何か使命があった気がする」
(話、噛み合わなーい!)
「その使命は大事なことだったんですか?」
「あぁ、とても大事なことだった気がする。あぁ……でも思い出しようとすると、鬱な気分になってしまう」
みるみるうちに暗くなるクマムシマンを見て、スピカは慌てて話題を振った。
(めんどくさー!)
「は、話を変えましょう! クマムシさんは最強の防御力をお持ちだそうですね」
「……対物、対魔法、一通りの耐性を有している」
「凄いわ! 今度、冒険に行く時手伝ってもらおうかしら」
その言葉に、クマムシマンはわずかに頬を赤らめた。褒められるのは嫌いではないらしい。
そこへ、冷ややかな声が割り込んできた。
「ヨォ」
「……第二王子リゲル!」
リゲルは不敵な笑みを浮かべてスピカを見下ろした。
「第一王子だけでは飽き足らず、魔法生物までたぶらかしているのか?」
「そんな言い方、やめてもらえますか?」
「いいね! 俺は気の強い女が大好きだ。……俺の女にならないか?」
「(無視!)出ましょう、クマムシさん」
スピカはクマムシマンを連れて食堂の外へと出た。
「クリエイト・ウォール!」
スピカが魔法の壁を展開する。しかし、リゲルは瞬時に剣を抜いた。
「シールドブレイク!」
轟音と共に壁が砕け散る。
「悪いね! 王族は帯剣が許されていてね。なまくら剣士ならいざ知らず、こう見えてソードマスターなものでね」
スピカが言葉を失っていると、クマムシマンが彼女の前に立ちふさがった。
「ここは、私にお任せを」
「これは……高名な最強防御魔法生物のクマムシマン殿ではありませんか」
リゲルの言葉に、クマムシマンのメンタルが目に見えて向上した(↑)。
「一度お手合わせ願いたいと思っておりました。是非、手合わせ願います」
「承知!」
「二人とも、やめて!」
スピカの制止も虚しく、リゲルの剣が閃いた。
カン! と鋭い音が響くが、クマムシマンは平然と跳ね返す。
(通常の剣撃では通用しないか)
「百烈剣撃!」
細かな連撃がクマムシマンを襲う。
(効いている!)
「シールドブレイク!」
「うおっ!」
強烈な一撃にクマムシマンがよろめく。
「クマムシマン!」
「もういいだろう」リゲルは剣を納めた。「編入生、治療してやれ」
「まだです……」クマムシマンは膝をつきながらも顔を上げた。「もうスピカさんに乱暴なことはしないと誓ってください」
リゲルは一瞬、呆気に取られた。(なんか俺、悪者ポジションか?)
「なんだなんだ? クマムシマンと第二王子が戦っているぞ!」
野次馬が集まり始めたことに気づき、リゲルは鼻を鳴らした。
「今日の所はこれくらいにしてやる(……この捨て台詞、嫌だな)」
「クマムシマン、大丈夫?」
スピカが駆け寄る。リゲルは去り際に言い放った。
「俺は諦めないぜ! それまでその魔法生物とよろしくやってろ!(……えっ、よろしくやってろ? 俺、ゲスいな……)」
「ミドルヒール!」
スピカの魔法で傷が癒えていく。
「クマムシマン、少しかっこよかったよ!」
「(メンタル大幅アップ↑↑)スピカさん、言ったじゃないですか! いつか、私に冒険を手伝ってもらいたいって」
「えっ、それは……どうかなぁ」
「(メンタル急降下↓)」
「冗談! 冗談だってば!」
スピカが慌ててフォローしていると、地面に一枚の紙が落ちているのに気づいた。
メモ
俺の女になれ → ✖️
友達になってください。 → ○?
遠くの方で、忍者のスティーブがリゲルに声をかけていた。
「リゲル様、なんか凹んでますね」
「……話しかけないでくれ」
挿し絵(予定)も含めて色々思考錯誤しています。
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