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ご先祖様が聖女様かどうかも疑わしい私が王子様達の獲物にされてます。【第一部完結済み 26話(忍者失格)まで】  作者: クワトロばなな


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第三部・第2話:不用意なアクアマリン、あるいは心のさざなみ

港町での狂乱や、サム・ペンサーによる魔法生物筆頭への勧誘といった、帰国早々に巻き起こった「メレンヘア学園の聖女スピカ騒動」。


全校生徒がスピカを見るなり拝み出すという異様な光景はしばらく続いたが、それも数日が経過し、ようやく徐々にではあるが収束の兆しを見せ始めていた。


それはひとえに、ミルキーウェールズ王国が誇る第一王子シリウス、その参謀カノープス、そして特権外交官ゼダルという有能すぎる面々による、巧みな政治交渉の成果であった。彼らは、各国政府や教会関係者に対し、


「『おそらく聖女』であるスピカ・マセット君は、まだ学業の徒である。緊急時以外の公的な聖女活動の開始は、彼女がメレンヘア学園を正式に卒業した後とするべきだ」

という、極めて合理的かつ反論の余地のない合意を取り付けてみせたのだ。


サミット閉会式での三大王子による怒涛のプロポーズ事件は、なぜか真相が曖昧なまま「お偉方による冗談のようなもの」として片付けられ、とりあえずは落ち着きを見せている(落ち着いてはいないが)。


とにかく、スピカは当面の間、何処かの国に連れ去られることもなく、これまで通りの学園生活を送れることになった。スピカは心の底から安堵の溜息を吐き、机に突っ伏した。


「――とりあえず、学園に残れて良かったわよね。ニュースを聞いた時は、本当に何処か遠くの人になっちゃうかと思ったわよ」


昼休憩の教室で、心配そうに覗き込んできたのは、同級生のクレアだった。その隣で、同じく同級生のナンシーもコクコクと頷いている。


「本当に心配かけたわね。クレア、ナンシー……これからも、よろしくね」


スピカが力なく笑うと、続けてナンシーが、少し申し訳なさそうに声をかけてきた。


「……あの、スピカ。その……『メレンヘア学園四天王美女(、、、、、、、)』の認定。これ、おめでとうって言っていいのかしら……?」


「――それねー!!」


スピカは思わず絶叫し、再び机に顔を埋めた。

そうなのだ。あのサム・ペンサーによる騒動の裏で、勝手に結成されたファンクラブやら親衛隊やらといった謎の団体による、凄まじい規模の署名活動が行われていた。


その結果、スピカは「四天王美女」の一角として正式に認定されてしまったのだ。


「もう……ベガ様や、デネブ様と比べて、スペックが違い過ぎるでしょうー!? 私なんて、あの完璧なお二人に挟まれたら、ただの一般人Aよ!? 聖女より、こっちの方がスペック詐称だわ! これだけは、本気で勘弁してほしかったんだけど……!」


スピカが枕(机)を濡らして嘆いていると、教室の空気が、ふっと冷たくなった。


スペック詐称だ何だと嘆いてはいるが、実際のところ、学園内におけるスピカの立場は複雑だった。


概ね好意的な男子生徒たちの評判に対し、女子生徒たちの間では、憧れを抱く生徒や中立の生徒が多いものの、一部には明らかに「嫉妬」の感情を向ける生徒も少なからず存在していたのだ。


その最たる一人、デュポン侯爵家の令嬢であり、高飛車な性格で知られるイザベラが、お供の女子生徒を二人従え、スピカの机の前に扇子をパシャリと鳴らして立った。


「あら。メレンヘア学園四天王美女の認定。……おめでとう、スピカさん?」


イザベラは、その少しキツめの瞳でスピカを見下し、嫌味な笑みを浮かべた。


「貴女……『おそらく聖女』みたいだけど。実際のところ、どうなのかしら? 我が学園が誇る至宝、ベガ・ドウイン侯爵令嬢やデネブ・アーテュス侯爵令嬢と、ご自分が肩を並べられると思っておいでかしら? ……厚顔無恥にも、ほどがあるわよ」


スペックの詐称っぷりなら、今まさにスピカが嘆いていたところだ。


グサリと刺さる言葉にスピカが言葉を失っていると、


「ちょっと、イザベラ様!」

すかさずクレアがスピカの前に立ち、庇うように声を張り上げた。


「スピカはそんな図々しい子じゃありません! 自分なんかが四天王美女に相応しくないって、ちゃんと自覚しています!」


(……そ、そこまで全否定しなくてもいいんじゃないかしら、クレア?)


クレアの庇い方が絶妙にスピカのHPを削っていることに気づかぬまま、イザベラは「ふん!」と鼻を鳴らした。


「ふん! どうだか! そうやって謙虚なふりをして、案外『自分はイケてる』なんて勘違いしているんじゃなくて? ……第一、スピカさん。貴女、シリウス王子だけでなく、ロメーダのレグルス皇帝陛下や、ブリデンのヘンリー王子までたぶらかしたっていうじゃありません?」


イザベラは扇子でスピカの顔を指し、その物言いは次第に露骨で、下俗なものへと変わっていった。


「三大王子のプロポーズ……! 貴女、ゾウムハーバーで、どれだけお盛んだったのかしら? ……あ、そうか! 貴女が得意な、あの『一緒にお風呂に入る作戦(、、、、、、、、、、)』かしら? そうやって、皇帝陛下や第3王子にも、お安い色香を振り撒いて取り入ったのかしら!?」


「――イ、イザベラ様!! その発言は……少しお上品ではないかと!!」


あまりに露骨で、淑女としてあるまじき物言いに、後ろに控えていたイザベラのお供が慌てて進み出た。


彼女たちの必死な制止に、イザベラは「ハッ」と我に返り、頬を赤く染めた。


「……コホン!」


イザベラはわざとらしい咳払いでその場を誤魔化すと、再びスピカを睨みつけた。


「とにかく! 『おそらく聖女』の立場を利用して、常に国益を考えるシリウス殿下に取り入ろうなんて、その卑しい考えが許せないのよ! 貴女のような者が、なんでこのスペック詐称の美女四天王として、この学園にいられるのかしら!?」


「――お取り込み中、失礼するよ」


その場に、冷ややかでありながらも、絶対的な気品に満ちた声が響いた。


教室内を埋め尽くしていた生徒たちの間から現れたのは、第一王子――シリウスだった。


しなやかなブロンドの髪を揺らし、そのアクアマリンの瞳には、いつもの余裕ある微笑みではなく、感情の読めない冷徹な色が浮かんでいた。


「で、殿下――!!!」


イザベラは一瞬で顔を真っ赤にし、扇子を落とさんばかりに狼狽した。


「あ、あのー……その、そのー……殿下やレグルス皇帝陛下がお盛んとか、そういうことではなくて! ……一緒にお風呂作戦が気になるとか、そう言うのでもなくて……! ……殿下とシマフクワイアン(大国ミドルドアの高級リゾート地)で一泊したいとか、そういうのでもなくて……!!」


完全に自爆(墓穴)を掘り始め、淑女としての評判を自ら粉砕していく主人を見て、お供がそっと彼女の肩を引いた。


「イザベラ様! イザベラ様、少し混乱されてます! ……ここは一度、引き下がりましょう」


シリウスは、狼狽えるイザベラたちを一瞥すると、すぐにスピカへと視線を向けた。


その瞳は、ゾウムハーバーのビーチでスピカを見つめた、あの熱を帯びたアクアマリンの輝きではなかった。


「……スピカ君」


シリウスは、スピカに語りかけた。その声は、驚くほど静かで、他人行儀だった。


「僕の、あの場での……『不用意な発言(、、、、、、、)』が。……君に、これほど多くの迷惑をかけていることを、心苦しく思っている」


「……え?」


不用意な……発言?


「あの時の言葉は……忘れてくれてもかまわない。僕は、君の重荷にはなりたくないんだ。……失礼する」


シリウスはそれだけを告げると、スピカの答えを待たずに、スッと背を向けてその場を去ってしまった。


「不用意な……発言……」


教室内が静まり返る中、スピカは立ち尽くしたまま、その言葉を繰り返した。


サミット閉会式での、あのプロポーズ。

「私が愛し、我が国の未来を共に築くと誓うのは、そこにいる君だ。」

そう言ったシリウス王子の、真剣で、熱を帯びたアクアマリンの瞳。


あれは――全部、スピカの立場を利用して国益を守るための、『不用意な発言』だったの?

ただの、政治的なパフォーマンスだったの?


胸の奥が、チクリと、痛い。

それは、スピカ自身が最も恐れていた「政治利用」そのものだったはずだ。なのに、シリウス王子から「忘れてくれてもかまわない」「重荷にはなりたくない」と、スピカを想うがゆえの言葉で突き放された瞬間。


スピカは、自分でも驚くほど、激しい心のさざなみ(、、、、、、)に抗うことができなかった。

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