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ご先祖様が聖女様かどうかも疑わしい私が王子様達の獲物にされてます。【第一部完結済み 26話(忍者失格)まで】  作者: クワトロばなな


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第ニ部 第29話:氷結の円舞曲、そして規格外の神聖結界

「――第一防衛ライン、弓隊! 石弓台!放てっ!!」


総指揮官レグルス皇帝の鋭い号令が夜の港湾に轟いたその瞬間、世界を揺るがす未知の怪物との、壮絶なる死闘の幕が切って落とされた。


闇を切り裂いて放たれた無数の矢が、雨あられとクラーケンへと降り注ぐ。続けて、レグルスはさらに声を張り上げた。


「第一防衛ラインのウィザード諸君! 躊躇うな、あらゆる属性の呪文をその巨体に叩き込め!」


「「「おおおおおっ!!」」」


火、雷、水、氷、腐食、風――。

各国の若き魔導士たちが練り上げた、ありとあらゆる属性の攻撃呪文が一斉に解放された。夜空を色鮮やかな魔力の光が埋め尽くし、それらがすべて、うねるクラーケンの巨体へと着弾して爆発を起こす。


だが――海の魔王は、その激しい矢の雨も、空間を歪めるほどの魔法の暴風も、まるで心地よい大雨でも浴びているかのようにモノともしなかった。傷一つ負うことなく、冷酷な金色の眼光を爛々と輝かせながら、じわじわと港へと這い進んでくる。


その時、一人の腕利きの勇士が、一縷の望みを懸けてクラーケンの巨大な目を目がけて渾身の矢を放った。矢は一直線にその瞳へと向かったが、直前で空間に現れた不気味な透明の膜にカツンと阻まれ、渦巻く金色の眼球に届く前に虚しく海へと落ちていった。


(やはり、事前の伝承通り魔法も矢も通用せぬか……!)


前線に立つカノープスが歯噛みする。しかし、総指揮官であるレグルス皇帝は、この程度の絶望で揺らぐ男ではなかった。


「第二防衛ラインのウィザード! 衛士と共に前へ!」


レグルスがあらかじめ第二防衛ラインに配置していたのは、各国使節団の中でも一際高い魔力量を誇る高位の術者たちだった。


ミルキーウェールズ王国が誇る3人の『アークウィザード』――デネブ、ジョーンズ、メアリーの面々は、大楯を構えた『パラディン』のルスカ、シャーロット、オリバーの3人に鉄壁の守りで周囲を固められながら、クラーケンが佇む荒れる海のすぐ間際へと一気に距離を詰めた。


レグルスは眼下の黒い海を見据え、全軍へ次の絶対命令を下す。


「全ウィザード、標的の肉体ではなく――海そのものを凍らせろ!」


第一防衛ラインの背後から、空間そのものを凍てつかせる凄まじい冷気の奔流が渦巻き始める。クラーケンの無数の巨大な触手が、いよいよ港の防波堤にかかったまさにその瞬間、一斉に高位の氷結呪文が放たれた。


『ブリザード・ウォール(吹雪の防壁)』!!

『フロスト・バインド(氷結の鎖)』!!


バキバキバキバキッ! と凄まじい音を立てて、ゾウムハーバーの海面が一瞬にして白く凍りついていく。分厚い氷の層がクラーケンの巨体をがんじがらめに縛り付け、その動きを完全に止めた――かに思われた。


だが、ズゥゥン……という地響きと共に、凍りついた海の隙間から、クラーケンが力任せに別の触手を突き出してきた。大樹のような触手が容赦なく氷の表面を叩き割ると、せっかくの結界がガラスのように砕け散っていく。並のウィザードたちが次々と呪文を放ち、魔力を消耗していく中――。

未だに呪文を放たず、魔力を限界突破の精度で練り上げ続けている、二人の傑出したアークウィザードがいた。


一人は、ルスカの大盾に守られ、指輪と首飾りの魔法石を眩く輝かせるミルキーウェールズのデネブ。


もう一人は、ロメーダの重装騎士アダフェラに守られ、銀髪を夜風に揺らす天才アルギエバ。


二人は完全に息を合わせ、同時に、この世界に存在する最高位の禁忌魔導を詠唱した。


「――『アブソリュート・ゼロ(絶対温度零滅)』!!」


ドォォォォンッ!!!


世界から全ての「熱」が消え去ったかのような、絶対的な静寂と白銀の光が弾けた。

波打っていた海水だけでなく、湾内の海底の最深部に至るまで、クラーケンが佇む海域の全てが、文字通り完全に凍てついた。超巨大な氷の塊となった海の中で、さしもの海の魔王も完全にその動きを封じられた。


しかし、知性なき怪物の真の恐怖は、ここからだった。


肉体の自由を完全に奪われ、氷の中に閉じ込められたクラーケンは、激しい怒りと共に、頭部からさらに奥に隠されていた無数の隠し触手を、力任せに四方八方へと一斉に伸ばしてきたのだ。


メリメリ、バキィィンッ! と、海底まで凍っていたはずの絶対零度の氷塊が、怪物の規格外の筋力だけで内側から粉砕されていく。


バシャアァァッ! と砕け散る氷の破片と共に、数十本もの巨大な触手が、防波堤を守っていた第一防衛ラインの兵士たちをあっさりと薙ぎ払い、文字通り紙切れのように突破して、スピカたちのいる第二防衛ラインへと津波のように押し寄せてきた。


「チッ、これほどか……! プリースト陣、第二防衛ラインにただちに防壁を強化せよ!敵の突進を食い止めるのだ!」


レグルスの焦りを含んだ指示が飛ぶ。各国のプリーストたちが一斉に防魔の結界を多重展開しようとした、その時。


第二防衛ラインの最前線で、聖女候補のスピカは、完全に一人で大パニックに陥っていた。


(え〜〜。何アレ、あのうにうにしてヌルヌルした気持ち悪いやつが、こっちに向かってものすごい勢いで飛んできてるわ!! 防衛壁!? 壁を作ればいいのね!?)


押し寄せる巨大な触手の群れへの恐怖と、生理的な嫌悪感。


それらが極限に達した瞬間、スピカは我を忘れ、己の体内に眠る莫大な聖女の魔力を、文字通り力任せに一気に振り絞って叫んだ。


「――『バリアコンストラクション・ラージ(広域多重結界陣)』!!」


ゴゥッ!!! という、大気を震わせる凄まじい風圧と共に、スピカの小さな身体から、常識を遥かに逸脱したまばゆい光の奔流が噴き出した。


その光は、第二防衛ラインのほんの一部を守るはずの当初の予定を遥かに超え、港全体、白砂のビーチの大半、さらには遥か後方に位置する第三防衛ラインの全域までもをすっぽりと包み込む、超・超巨大なドーム状の結界となって出現したのだ。


あまりの規格外のスケールに、周囲のプリーストたちが呪文の詠唱を忘れて呆然とする中、スピカはさらに涙目で魔力を上乗せする。


「えー、えっと効果付与?――効果付与、『ホーリー・シールド(神聖なる盾)』!!」


キィィィィン――ッ!!!


巨大な光のドームが、一瞬にして神々しい純白の輝きを放つ、強固極まりない「神聖防壁」へと変貌を遂げた。


直後、押し寄せてきたクラーケンの巨大な触手群がその結界に激突したが、パァン! と聖なる光の火花を散らし、怪物の皮膚をジュウジュウと焼き焦がしながら、完全にその場から弾き返したのである。

防衛ライン全体を一人で守り抜いた、文字通りの絶対防御。


その信じられない光景を、すぐ隣で見ていたミルキーウェールズの先輩アークプリースト、ベガ。


彼女は、自分が大事に抱えていた対邪神龍用の赤いケースを落としそうになりながら、引きつった表情で、冷や汗を流しながら隣の少女を凝視した。


(……は? 何、この子……!?一人で国軍の全防衛ライン以上の結界を張った上に、神聖属性のエンチャントまで同時にこなすなんて……)


(バケモノなの……!?)


戦場を支配する覇王レグルスですら目を見開く中、パニックになりながら世界を救うレベルの奇跡を起こしたスピカは、「はぁ、はぁ……っ、うにようにょするやつ!止まった……?」と、自分のしでかしたことの重大さに気づかぬまま、荒い息を吐いて胸をなでおろすのだった。



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