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ご先祖様が聖女様かどうかも疑わしい私が王子様達の獲物にされてます。  作者: クワトロばなな


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第二王子 リゲル・ランスター

学園の掲示板。そこには「スピカ・マセットを生徒会庶務に任ずる」という公示が貼られていた。

それを苦々しく見つめる一人の男がいた。第二王子、リゲル・ランスターである。

「スピカ・マセット……。こいつが、あいつの新しいお気に入りか」

リゲルは背後の影に呼びかける。

「スティーブ!」

「はい」

「この女を監視しろ。何か変わったことがあったら、俺に知らせろ」

「イエス・マイ・ロード」

別の日。スピカは緊張した面持ちでアークプリーストの教室の門を叩いた。

「失礼します……あ、校長先生! ベガさんも」

「やぁスピカ君。アークプリーストの授業は今日が初めてだね」

ドン・ウイリー校長が温和に笑う。

「まずは君に、アークプリーストの加護を与えるよ」

ベガが横から補足した。

「上級ジョブの加護を与えられるアークプリーストは、国内でも数名しかいないわよ」

校長は空を仰ぎ、何やらぶつぶつと呟き始めた。

「えーと、アークプリーストの加護神は何処におられましたかな……。おっ、そこにおられましたか。はい、いつもお世話になっております。ええ、うちの生徒が一人。はい、お願いします」

(なんか……すごく事務的……)

直後、スピカの体が眩い光に包まれた。

「これで君はアークプリーストのスキルを習得できるようになった。ミスター・トグへもんの診断は正しかったようじゃな」

「適正がなければ、加護は授かれないのよ」

スピカが光の余韻に浸っていると、校長が問いかけた。

「早速だがスピカ君。プリーストとアークプリーストの違いは何か、わかるかな?」

「ええと……大きな愛、とか?」

「メンタルじゃ! アークプリーストとは、圧倒的なメンタルの持ち主のことなのじゃ!」

校長がベガに視線を向ける。

「ベガ君、カーライム君は今日はどうしたのかな?」

「ミスター・カーライムは……メンタル不調のため欠席です」

「…………」

スピカは言葉を失った。アークプリーストですら病むほどの何かがあるのか。

「コホン。とにかく、メンタルを徹底的に鍛えてもらうぞ!」

そこから始まったのは、想像を絶する修行だった。

激流に身を投じる「滝行」。

無数の虫が蠢く「毒虫部屋」。

不気味な笑い声が響く「呪いの部屋」。

「ひ、ひえぇぇ……教育方針、間違ってませんかこれ!?」

スピカが恐怖に震えていると、ベガが冷淡に告げた。

「あなた、肩に人形が乗っているわよ」

「……私、スピカちゃんとお友達になりたい」

耳元で囁く人形。

「ひぎゃあああ!」

「『デ・ソウル(解呪)』」

ベガが呪文を唱えると、人形は煙のように消えていく。

「あ、あっさりと……」

「スピカちゃんと……お友達に……なりたかっただけなのに……」

消え際の悲しげな声に、スピカは胸を痛める。

「なんか、後ろめたいです!」

「悪霊に情けは無用よ!」

そう言い放ったベガの胸元に、別の霊がしがみついていた。

「あっ、ベガさん! なんかおっぱい揉まれてますよ!」

「なんですって?」

スピカは必死に手をかざした。

「デ・ソウル!」

「……ふぅ。やるわね、スピカ」

「私にもできました!」

校長が満足げに頷く。

「しばらくはメンタルトレーニングが主じゃ。呪文についてはおいおい教えていこう」

(アークプリーストの修行、ハードすぎる……)

修行の帰り道、一匹のネズミがリゲルの元へ紙を届けた。

『スピカ・マセットが一人で裏庭へ』

「ふん。編入生の子猫ちゃんの顔でも拝みに行くか」

裏庭。一人で歩くスピカの前に、傲慢な雰囲気の青年が立ちふさがった。

「あんたかい、シリウスのお気に入りは」

「あの……どなた様でしょうか?」

「俺はこの国の第二王子、リゲル・ランスターだ。シリウス会長の腹違いの弟さ」

スピカは丁寧にお辞儀をした。

「スピカ・マセットと申します。……私に何か御用でしょうか?」

「ただの挨拶さ。だが、俺は欲しがり屋でね。シリウスが欲しがるものは特に……女も、王位もな」

リゲルが威圧的に一歩踏み出す。

「クリエイトウォール!」

スピカは咄嗟に、リゲルをの目の前に防御壁を展開した。

ドゴン! 壁にぶつかるリゲル。

「……で!」

「クリエイトウォール!」

さらにリゲルを、挟み込むように展開。

「……いででっ!」

鼻を押さえるリゲルに、スピカは凛と言い放った。

「一角の殿方であられるなら、奪うことではなく、貴方にしかできないことがあるんじゃないですか?」

「…………」

「失礼します!」

スピカが駆け出す。

「スティーブ、逃がすな!」

リゲルが苛立ちまぎれに叫ぶ。

「御意!」

リゲルの影から、黒い疾風のごとくスティーブが飛び出した。スピカの背中にその手が届こうとした、その時――。

「――『鎖分銅・影縫い』」

どこからか放たれた鋼の分銅が、空中で蛇のようにうねり、スティーブの右足首に完璧な精度で絡みついた。

「えっ……あ、ぶ――」

加速していたスティーブは、逃れようのない慣性に引きずられ、無常にも石畳へとダイブした。

「……いで」

鈍い音と共に、スティーブは石畳に熱烈なキスを贈ることになった。

顔を上げた彼の前に、音もなく一つの影が立ちふさがる。

「な、なんだ!? ……カノープス君、何の真似だ?」

鼻を赤くしたスティーブが、信じられないものを見る目で親友を見上げた。そこには、普段の「無機質な庶務」とはかけ離れた、冷徹な忍びの顔をしたカノープスが立っていた。

「彼女に手を出すのはやめろ」

カノープスの手元では、スティーブを転倒させた分銅の鎖が、チリ……と冷たい音を立てて巻き取られていく。

「あれ? お前、あの子が好きなわけ?」

スティーブが皮肉っぽく笑いながら立ち上がるが、カノープスの鋭い視線は微塵も揺るがない。

「……シリウス会長から、彼女の監視を命じられているだけだ」

「ふーん。まあ、そんなに熱くなるなよ。どうせあの子は、王子様たちの『獲物』なんだからさ」

スティーブが肩をすくめて土を払っている間に、スピカの姿はすでに遠くの角を曲がって見えなくなっていた。

「あーあ、逃しちゃった。なんて言い訳しようかな。……この貸しは高くつくぞ、カノープス」

スティーブは衣服の埃を払い、リゲルの元に戻った。

「スティーブ、女はどうした」

「カノープスに妨害されました。第一王子の監視がついていたようです」

「……抜け目のない奴め。しかし、あいつがそこまで執着するとはな。ますます興味深い」

リゲルはふと、自分を挟み込んで圧迫している見えない壁に気づいた。

「……ところで、これって外せるのか?」

「……呪文の効果が解けるまで待ちましょう」

夕暮れの学園に、第二王子の虚しい声が響いていた。 

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