メレンヘア学園生徒会
放課後のメレンヘア学園。黄金色の夕日が差し込む生徒会室で、学園の頂点に立つプリンス、シリウス・ランスターは編入生であるスピカを迎え入れていた。
「スピカくん、他のメンバーも紹介するよ」
シリウスが促すと、傍らに控えていた凛とした佇まいの偉丈夫が一歩前に出た。
「こちらが副会長のルスカ・ルマンディーだ」
「どうぞよろしく」
ルスカが「鋼鉄のプライド」と称されるに相応しい、隙のない礼を執る。スピカは居住まいを正して頭を下げた。
「どうぞよろしくお願いします、ルスカ・ルマンディー様」
続いて、シリウスは優雅に椅子に腰掛けている美貌の令嬢を示した。
「書記のミス・デネブ・アーテュス」
「お会いできて光栄ですわ、ミス・スピカ・マセット」
魔法庁長官の令嬢であり、学園四天王の一人。その完璧な立ち振る舞いにスピカは気圧されそうになる。
「こちらこそ、よろしくお願いします。デネブ・アーテュス様」
「編入して間もないなかでの重責、お手並み拝見いたしますわ」
デネブの微笑みに、スピカの背筋に冷たいものが走った。
(えっ、圧かけられてる? 彼女はまさか、噂に聞く「悪役令嬢」ってやつ……?)
不安に駆られるスピカに、もう一人の美女が声をかけた。
「初めまして、ミス・スピカ・マセット。私は生徒会会計のベガ・ドウィンよ。よろしく」
「よろしくお願いします、ベガ・ドウィン様」
「鋼鉄のアークプリースト」と称されるベガ。スピカは内心で感嘆のため息をついた。
(流石は四天王美女……お二人とも、ため息が出るほどお美しいわ)
「さて、カノープス君」
シリウスが、影のように控えていた庶務のカノープスを振り返る。
「各ジョブ訓練所や部活動の紹介も兼ねて、スピカくんに学園の案内をお願いしても良いかな。案内が終わったら、今日は二人とも寮に戻っていいよ」
「承知しました」
カノープスが短く応じ、スピカに向き直る。
「それでは参りましょう、スピカさん」
カノープスに連れられ、スピカは学園の広大な敷地を歩き始めた。
「まず、ここは軽食の取れる食堂兼、ミニギルドになっています。ここでパーティを組み、クエストを受けることができるのです」
「クエストは薬草探しやネズミの退治、荷物の輸送など色々ありますよ」
活気ある食堂。そこには一際異彩を放つ「凄い人」が座っていた。
「へっ、ねーちゃん見かけねー顔だなぁ。……天国の一丁目へようこそ」
スピカは愛想笑いで受け流す。
「あ、はい、どうもー」
カノープスは淡々と案内を続けた。
「続いては各ジョブ訓練所です。空き時間は自由に修行して構いません。授業中にはマスターがいます。基本ジョブ――剣士、プリースト、魔法使い、格闘家、弓使い、レンジャー、吟遊詩人、冒険者は、適性がなくても自由に選択できますよ」
さらに歩みを進めると、多様な部活動の部室が見えてきた。
「部活動も盛んです。社交、ダンス、乗馬、チェス……魔法薬や魔法生物部などもあります」
「魔法生物部……? 魔法生物部があるなら魔法生物飼育委員会は必要あるの?」
スピカが首を傾げると、聞き覚えのある声が響いた。
「やぁ、スピカ君。また会ったね」
現れたのは魔法生物部部長、サム・ペンサーだった。
「魔法生物の素晴らしさに惹かれて入部希望かな?」
「いいえ、違います」
スピカの即答に、サムは苦笑いした。
「はは、いつでも見学しにきてよ。魔法生物は君を待っているよ」
案内はさらに奥、厳かな雰囲気の漂う「プレミアム」なエリアへと入る。そこは上級ジョブの訓練所だった。
「け、見学だけでも……!」
食い下がる生徒を、見張りの門番が冷たくあしらう。
「お前のような者が来る所ではない!」
(こんな所にも格差が……)
スピカが圧倒されていると、見張りの態度が豹変した。
「カノープス様、こちらへどうぞ。……君、名前は?」
「スピカ・マセットです」
「適性ジョブはアークプリーストですね。お通りください」
「ここには適性がないと入れないんですか?」
「ええ。適正意外でも、サムライ以外は研鑽を積んでマスターに認められれば昇格できますが、加護を授からなければ見習いのままです。そして加護は、適性がなければ授かれません」
(私は適性がある……はずよね)
カノープスは各訓練施設を紹介していく。
「ここにはソードマスター、パラディン、アークウィザード、アークプリースト、魔法剣士、忍者、サムライの施設があります」
「ここがアークプリースト訓練所……」
スピカがそっとドアを開けると、そこには激しい滝に打たれ、無心に祈る者の姿があった。
……パタン。
「気のせい、気のせい!」
スピカは静かにドアを閉めた。
次に案内されたのは、奇妙な仕掛けの多い「忍者屋敷」だった。
「ここは自分の訓練施設です」
天井からスルスルと一人の男が降りてくる。カノープスの同期、スティーブだ。
「よおカノープス! 可愛い子連れてるね、彼女?」
「彼女は新しい生徒会役員です」
「そう。はいこれ、お近づきの印。忍者飴」
スピカが手を伸ばそうとした瞬間、カノープスが飴を叩き落とした。
「スティーブ、彼女に惚れ薬を飲ませるな!」
「ちぇーっ」
「ひえーっ!」
スピカは思わず後ずさる。
「こちらが師匠のアレクサンダーゴトウ上忍です」
「忍者マスターのゴトウです。まぁゆっくり見学なさってください。お茶でもどうぞ」
「パシッ!」
「お茶に惚れ薬を入れるのはやめてください!」
「薬が切れるまで夢を見させてくれてもいいじゃん」
「良くない!」
(忍者、こわすぎる……!)
最後に案内されたのは「サムライ屋敷」だった。
「伝説のジョブ、サムライの訓練施設です。師匠のデューク・サナダと弟子のアルタイル・バロワ。この学園でサムライの適性を持つのは彼一人です」
アルタイルが鋭い眼光でスピカを射抜く。
「…………(ギロリ)」
「ひっ、睨まれた……?」
「修行中のようです。挨拶はまた今度にしましょう」
一通りの案内が終わり、カノープスは丁寧にお辞儀をした。
「学園の施設はこんなところです。わからないことがあれば、いつでも聞いてください」
「今日はありがとう」
「どういたしまして。では、これで」
カノープスの後ろ姿を見送りながら、スピカは息をつく。
(カノープス君、親切だったなぁ。惚れ薬からも守ってくれたし)
ふと、スピカは何かの気配を感じた。
「……うん? 見慣れない小動物が私の周りに……」
くるっと振り返る。
……ササッ。
そこには誰もいない。ただ風が吹き抜けるだけだ。
てくてくと歩き出しながら、スピカは確信する。
(女の勘よ。……誰かいるわね)
「クリスタルウォール!」
防護壁を張りつつ、スピカは足早に寮へと向かった。
(やっぱり忍者、こわいわ!)
※この世界の話です。実際の忍者とは
異なります。
ページ下部の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると励みになります!」




