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ご先祖様が聖女様かどうかも疑わしい私が王子様達の獲物にされてます。【第一部完結済み 26話(忍者失格)まで】  作者: クワトロばなな


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第ニ部 第21話:ロメーダ生徒会の俊英達と、物見の涙

「――お久しぶりね、カノープス君」


すれ違いざま、艶然とした微笑みと共に、山吹色の髪を揺らして声をかけてきた二重スパイ、ミラ・グラダス。


周囲にロメーダ帝国の猛者たちがひしめく緊迫した車寄せにおいて、その一瞬だけ、まるで時が止まったかのような錯覚をカノープスは覚えた。


「お久しぶりです……ミラさん」


カノープスは、かつて共に死線を潜り抜けた「相棒」へ、自然と声を返す。


「ふふ、また会えたわね」


ミラは勝気な茶色の瞳を細め、カノープスの動揺を見透かすようにイタズラっぽく笑った。


「はい。……僕も、また貴女に会えて嬉しいです」


偽らざる本心を口にしてから、カノープスはハッと我に返り、ずっと抱いていた疑問を投げかけた。


「……しかし、どうして貴女がこちらに? 確か貴女は――」


「あら、知らなかった? 私はレグルス皇帝と同じ、ロメーダ随一のエリート校『アルメキオン学園』の代表よ。明日のサミットはよろしくね、カノープス君!」


そう言ってミラは楽しげにウインクをしてみせた。


(……知らなかった。そんな情報は事前に降りてきていなかったぞ……!)


カノープスは内心で舌を巻いた。

ミルキーウェールズ側に事前に共有されていたロメーダ帝国の公式代表は、わずか「5名」。

アルメキオン学園生徒会長であり、国を統べるアークウィザード、レグルス皇帝。


同生徒会副会長であり、長身の仕立ての良い制服に身を包み、メガネの奥に冷徹で鋭い眼光を宿す、現皇帝の若き頭脳たる

アークプリースト――デネボラ。


同じく書記を務める、見る者を魅了する銀髪碧眼の圧倒的な美女であり、若くして宮廷魔導士並みの魔力を誇る

アークウィザード――アルギエバ。


同じく会計、黒髪を短く切りそろえた男装の令嬢であり、その腰の細剣一振りで軍をも退けると言われる

ソードマスター――ゾズマ。


そして生徒会庶務、あの不気味な『ロメーダの三連星』にも決して劣らない見事な体躯の持ち主である、

重装聖騎士(パラディン)――アダフェラ。


誰もが若くしてその名を世界に轟かせる、ロメーダ帝国が誇る次世代の俊英達。

事前に知らされていた名簿には、彼ら5名の本名の後に、ただ一言『その他5名』とだけ、いかにも事務的に書き添えられていたのだ。ミラはその隠された『その他』の枠に滑り込んで、このサミットへと潜入(、、)してきたに違いなかった。


そんな、一人一人が世界を揺るがすほどのプレッシャーを放つロメーダ生徒会の面々を前にして、スピカは完全に目を丸くしていた。


(ロメーダ代表の皆様も、本当に凄い……! みんなそれぞれ、半端じゃないオーラを放ってるわ……!)


スピカがゴクリと息を呑み、怯えながらも彼らの堂々たる佇まいを観察していると――ふと、黒髪の男装の令嬢、ソードマスターのゾズマと視線がぶつかった。


「あ……」

スピカが緊張に身を硬くした、その瞬間。

なんと、ゾズマはスピカに向けて、不敵かつ非常にサマになる極上のウインクをパチンと飛ばしてきたのだ。


(へ? ――え、ええぇぇぇっ!?)

スピカの思考回路が完全にフリーズする。

その間にも、レグルス皇帝はシリウス王子とのドス黒い睨み合いをフッと自ら解消し、面白そうに肩をすくめて話を切り上げた。


「――ミルキーウェールズの諸君! 我が帝国使節団への、温かい出迎えに感謝する!」


整ったプラチナブロンドの髪をかき上げ、レグルスは全使節団に聞こえよがしに高らかに告げる。


「明日は、国際サミットの本番だ。お互い、存分に議論を戦わせようではないか! ……では、これにて失礼する」


傲然と言い放ち、レグルス皇帝は三連星とエリート生徒会を従え、ミルキーウェールズ一行の前を堂々と通り過ぎて迎賓館の中へと入っていく。


その列の最後尾で、ミラもまた「じゃあ、またね」と小さく手を振り、カノープスたちの前を通り過ぎていった。


「…………」

カノープスとミラ。その二人の間に流れていた、かつての戦友ならではの「独特の甘酸っぱい空気(、、、、、、、、、、)」。

その一連の流れを――ハダルは、一言も発することなく、ただ呆然とした表情で見つめていた。その瞳の奥の光が、急速に陰っていくのにも気づかずに。


◇◇◇

その後、各自の部屋へと案内され、スピカは自分の客室のふかふかのベッドに腰を下ろしていた。


窓の外を見つめながら、先ほど対峙したロメーダ代表の面々の顔を一つずつ思い出す。


(デネボラ様に、アルギエバ様、ゾズマ様、アダフェラ様……。みんなもの凄く強くて、怖い雰囲気の人たちだったけれど……よく考えたら、私と同じ年代の、これからの世界を生きる若者たちなんだよね。決して、生まれながらの悪人とか、敵とか、そういうわけではないと思うんだけどな……。やっぱり、お互いにじっくり話し合えば、分かり合うことが出来ないのかなぁ……)


スピカは小さく溜め息をつく。世界を良くしたいという純粋な願いは同じはずだと、彼女は信じたかったのだ。


――が。

その直後、あの黒髪の男装の令嬢、ゾズマの凛々しい顔が頭をよぎる。


(……それにしても、あのお方は一体何だったのかしら。私、完全にウインクされちゃったんだけど……。女の子、だよね? 男装、だよね……?)


じわじわと顔が熱くなるのを感じながら、スピカはぶんぶんと首を振ってベッドに身を沈めた。


(う、ううん、深く考えちゃダメ! ああいうタイプの人とは……あまり深く分かり合わない方が、私の心臓(プライバシー)のために良いかもしれないわ……!)


そんなふうに、一人で妙な物思いに耽っていた、その時。


「トントントン……」


静かな客室の扉を、遠慮がちに、しかしどこか切迫した様子でノックする音が響いた。


(あれ? 誰だろう、こんな時間に。シリウス様か、カノープス君かな?)


スピカはベッドから立ち上がり、ドアに近づいて隙間からそっと外を覗き込んだ。


「――っ! ハダルちゃん!?」


スピカは慌てて扉を大きく開け放った。

そこに立っていたのは、他ならぬハダルであった。


今回の過酷な旅の途中でも、どんなに恐ろしい豪傑や暗殺者に襲われた時でも、常に


『冷静な物見(スカウト)』としての誇りを胸に、一時も気を緩めることなく凛と戦い抜いてきた彼女。


そんな気丈なハダルが――今にも大粒の涙を溢れさせそうな、捨てられた子犬のような顔をして、激しく肩を震わせていたのだ。


「ハ、ハダルちゃん……どうしたの!? とりあえず、中に入って!」


スピカは慌ててハダルの小さな手を引き、彼女を自分の部屋へと迎え入れた。

国際サミットの幕が上がる前夜、少女たちの部屋で、政治の嵐とは全く異なる「もう一つの大嵐」が吹き荒れようとしていた。

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