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ご先祖様が聖女様かどうかも疑わしい私が王子様達の獲物にされてます。【第一部完結済み 26話(忍者失格)まで】  作者: クワトロばなな


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第ニ部 第20話:宿命のレグちゃん、あるいは若鮎と三連星の来襲


「――久しぶりだな、シリウス!」


大迎賓館の車寄せに響き渡ったその声の主こそ、超大国ロメーダ帝国の頂点に君臨する男、第24代帝国皇帝レグルスであった。


まばゆい陽光を浴びて輝くプラチナブロンドの髪。その美しい顔立ちのなかで、冷酷な光を放つエメラルドの瞳。


我が国のシリウス王子が「至高の美」を体現しているならば、このレグルス皇帝は誰もがその姿に憧れと、同時に息を呑むような強烈な畏怖を感じずにはいられない、圧倒的な覇王のオーラを全身から放っていた。


その神々しいまでの姿を間近で見たスピカは、不覚にも一瞬、心を奪われそうになりながら思わず胸の中で呟いた。


(……なんて、なんて綺麗な御仁なの。――でも、こんな少女漫画から飛び出してきたような美しい人が、裏で色々と悪巧みをして、世界中を困らせている張本人なの……!?)


そんなスピカの内心の困惑をよそに、レグルス皇帝はシリウス王子に向けて、獲物をいたぶるような勝ち誇った、挑発的な声を投げかけた。


「フハハ、俺はロメーダ帝国の『全て』を手に入れたぞ、シリウス!」


それは、先の帝国における大規模な政変において、前皇后派の勢力を完全に粛清し、名実ともに帝国の絶対的な実権をその両手に掌握したことを指しているのだろう。

※スピンオフ参照


明らかにシリウスに対してマウントを取りにきている言葉であった。


だが、ミルキーウェールズの天才チェスプレイヤーが、そんな安直な挑発に怯むはずがなかった。


シリウス王子は、いつものように非の打ち所のない完璧な、どこか楽しげな微笑みを浮かべると、鈴を転がすような美声でこう返したのだ。


「それはそれは、おめでとうございます。――『レグちゃん』ロメーダ皇帝陛下!」


「…………は?」

スピカの顔が、文字通り綺麗に引きつった。


(えっ……? いま、シリウス様、この超大国の恐ろしい皇帝陛下のことを……レグちゃん、って言った……!?)


同時に、それまで不敵な覇王の笑みを浮かべていたレグルス皇帝の顔も、まるで時が止まったかのようにピキィィィンと派手に引きつった。


エメラルドの瞳が激しく小刻みに揺れ、額に青筋が浮かぶ。


(……なっ、何故その名前をシリウスが知っている……!? あの忌々しい前皇后が、俺を裏でそう呼んでいた暗黒歴史の幼児退行ニックネーム(、、、、、、、、、、)は、我が帝国の極一部の人間しか知らないはず……。――いや、待て、まさか……あの男(、、、、)か……ッ!!)


レグルス皇帝の殺気混じりの鋭い視線が、シリウスの背後に控える使節団の指揮官へと突き刺さる。


かつて外交官としてレグルスと顔見知りであり、帝国の政変時に偶然にも前皇后が彼のことを「レグちゃん」と呼んでいた修羅場を目撃してしまっていた男――カノープス中尉は、皇帝からの凄まじい睨みを察知するなり、全力で音もなくフイッと目を逸らした。


「……相変わらずだな、シリウス」


レグルスはガリッと奥歯を鳴らし、無理やり元の不敵な笑みに表情を戻すと、再びドスの利いた声で切り出した。


「ところで君は、我が帝国の最高機密である『大事な宝物庫の中身(賢者の書)』を、ネズミのようにコソコソとのぞき見しようとなんて、まさか企んでいないよね?」


「おや、そちらこそ」

シリウス王子は細められた瞳の奥に冷徹な光を宿し、一切の引けを取らずに微笑みを返した。


「どこの馬の骨とも分からない物騒な密偵たちを遠隔操作して、我が国の未成年の、まだ幼くて無辜な少女を『誘拐』しようとなんて、まさかそんな野蛮なことはしていないよね?」


バリバリバリッ!!!


二人の美男子の視線が交錯する空間に、目に見えるほどの激しい黒い火花が散る。


(えぇ……何これ、怖い……。美形タヌキ同士の、ものすごくドス黒い腹の探り合いが始まっちゃったんですけど……!)


スピカは引き気味に冷や汗を流しながら、じりじりとハダルの背後へと身を隠した。

だが、そんな二人が火花を散らす背後で、ロメーダ使節団の面々が続々と高級馬車から降りてきた。その一団を一瞥した瞬間、カノープスの全身の血の気が一気に引いた。


そこには、カノープスにとって強烈な「心当たり」のある人物が、計4名含まれていた。


まず、前列を進む、見事な体躯をした三人の大男たち。その尋常ならざる筋肉の威圧感と、歩法。――間違いない。ロメーダ帝国が誇る紛争鎮圧の死神、『ロメーダの三連星(ミツラボシ) 』。

そして何より、あの禍々しい体付きを、カノープスが忘れるわけがなかった。彼らこそが、あのロメーダ帝国馬車駅Dポイントで、ミルキーウェールズ一行を容赦なく襲撃し、壊滅寸前まで追い詰めた【汚れた鎧の三騎士】の正体そのものだったのだ!


(なんという、ことだ……! レグルスは、遊びで聖女候補を奪いに来たわけじゃない……本気だ!)


カノープスは内心で激しい戦慄を覚えていた。


単なる外交の揺さぶりなどではない。レグルスは最初から、ミルキーウェールズの聖女候補(スピカとベガ)の強奪計画に、帝国最高戦力である「三連星」のカードを直接投入していたのだ。


自分の見積もりを遥かに上回る帝国の冷徹な大計画に、カノープスは背筋が凍るような驚愕を禁じ得なかった。


しかし――。

降りてきたロメーダ一行の残りの「一人」の姿が視界に入った瞬間、カノープスの脳裏に、今度は全く別の、どこか甘酸っぱくも危険な思い出が鮮烈に蘇った。


山吹色の鮮やかな髪に、すべてを見透かすような勝気な茶色の瞳。

まるで若鮎のようにしなやかで、均整の取れた美しい肢体。


先の極秘ミッションにおいて、その妖艶な魅力と天才的な計略で散々カノープスを翻弄し、しかし最後には共に死線を潜り抜け、帝国最高機密である『賢者の書』の秘密を暴き出した相棒。


ロメーダ帝国、そしてソビヤ王国の狭間で暗躍する、妖艶なる二重スパイ――。

ミラ・グラダス。


その彼女が、驚きに目を見開くカノープスに向けて、すれ違いざま、不敵で、しかしどこか懐かしむような艶っぽい微笑みを向けた。


「――お久しぶりね、カノープス君」


サミット開幕前夜、宿命のライバルと、かつての「危険な女(元カノポジション?)」の同時来襲により、ミルキーウェールズ使節団を巡る情勢は、さらなる大混乱の渦へと巻き込まれていく――。

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