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ご先祖様が聖女様かどうかも疑わしい私が王子様達の獲物にされてます。【第一部完結済み 26話(忍者失格)まで】  作者: クワトロばなな


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第二部 第8話:荒野のトラップデータ(Dポイント)と、狙われた一号馬車

ロメーダ帝国との国境を超える前。

ミルキーウェールズ使節団が陣取る宿泊施設の一室では、全権使節ゼダル卿、第一王子シリウス、カノープス中尉、そして主要な外交官たちによる、急遽決定した「作戦変更」の最終擦り合わせが行われていた。


スピカの素朴な疑問からカノープスが昇華させた、『聖女の存在を世界の公益事項として国際社会に主導させる』という逆転のウルトラC戦略。


「――素晴らしい変更です。帝国の出鼻をくじくだけでなく、我がミルキーウェールズが次の時代の主導権を握る最高の布石となる。……素晴らしい着眼点だ、カノープス」


ゼダル卿は外交官としての鋭い目で書類を一瞥すると、満足そうに頷いた。


「早速、王宮へこの変更内容を伝える伝書鳩を飛ばします」


ゼダルが素早く背後の配下に指示を出すと、国家の命運を握る小さな影たちが、密かに本国へと飛び立っていった。


翌朝、宿泊施設を出発した一行は、ついにロメーダ帝国の領内へとその足を踏み入れた。


厳重な国境の関門を全権使節の権限で鮮やかに潜り抜け、初日は帝国籍でありながら親ミルキーウェールズ派として知られる公爵家の領地に一泊。続いて予定の宿泊施設に一泊、そして旅の三日目、遮るものの何一つない、見晴らしの良い広大な荒野の街道に出た時のことだった。


旅団の先頭を行く『前物見席』。

風に亜麻色の髪をなびかせながら周囲を警戒していたハダル伍長は、並走する配下のレンジャーエージェント(斥候兵)へと、鋭い声でテキパキと指示を出した。


「――中尉の言っていた『Dポイント』ね。この先にある馬車駅レストステーションに、怪しい馬影がないか確認して。もし酒場周辺の馬影が【10騎以上】だったら、私を経由せず、直接中尉に報告を!」


「了解しました!」


指示を受けたレンジャーエージェントは、即座に手綱を引いて街道のルートから外れ、ブワリと砂煙を上げて目的地の馬車駅へと騎馬で駆けていった。初ミッションとは思えないハダルの見事な指揮っぷりであった。


◇◇◇

その頃、最重要人物を乗せた『特等馬車』の車内では、ゼダル卿、カノープス、シリウス王子の3名が、サミット本番に向けた各国のパワーバランスについて静かに談義を続けていた。


やがて、ひと通りの真面目な話が途切れ、車内に少しだけ緩やかな沈黙が流れた。

すると、何を思ったのか、父親のゼダル卿がニヤニヤとした表情を隠しもせず、シリウス王子に向かって唐突に切り出したのだ。


「――ところでシリウス殿下! ついでと言ってはなんですがね、そこにいるこいつ(カノープス)のことで、少し殿下にお願いがありまして」


「ん? 何かな、ゼダル」


シリウスが優雅に首を傾げる。カノープスは無表情のまま、嫌な予感に背筋を凍らせた。


「いやぁ、こいつは諜報部の仕事はそこそこ出来るんですがね……悲しいかな、色恋の事に関してはさっぱり右も左も分からない超ヘタレでしてね。是非とも、麗しの殿下から直々に、女心の掴み方について手解きをお願いできませんでしょうか?」


その言葉を聞いた瞬間、カノープスの脳内でこの遠征で何度目か分からない爆発が起きた。


(なッ……!? 何を急に殿下に向かってお願いしてんだよ!!! お前は国を代表する全権使節だろうが! 息子をダシにするな、この底なしのバカ親父がッ!!!)


胸の中では烈火のごとくブチギレつつも、周囲の護衛にも気配を悟らせないのがトップエージェントの擬態だ。カノープスは至って冷静に、いつもの「死んだ魚のような目」のまま、低い声で慇懃に返した。


「……父上のお戯れです。殿下、どうか気に留めなくて結構でございます」


しかし、我らが完璧王子は違った。シリウスはフッと楽しそうに美しい唇を歪めると、きらきらとした瞳でカノープスを見つめた。


「へぇ。僕も色恋に関しては、偉そうに他人に教えられるような経験はないけれど……カノープス君の恋愛事情なら、非常に興味があるなぁ」


さらに、シリウスは確信犯的な笑みを浮かべて畳みかける。


「――それって、さっき前物見席に行った、ハダル君のことかな?」


(王子まで乗っかって食いついてこなくていいから!!! 頼むからそこは王族のスキルで華麗にスルーしてくれよ!!!)


普段は冷徹に任務をこなすカノープス中尉だったが、主君と父親の二大巨頭からの容赦ない恋愛追及(精神攻撃)を前に、さすがに顔をわずかに引きつらせた。


「あの、それは……その……なんと言いますか、つまり……」


真面目さゆえに、どう返答すべきか本気で迷って言葉を詰まらせていると――。

タッタッタッタッ!!

突如、馬車の外から、並走する騎馬の激しい蹄の音と、先ほどハダルが放った配下のレンジャーの声が飛び込んできた!


「――報告します、カノープス中尉! 前方のDポイント、馬車駅周辺の確認された馬影は……【25騎】です!」

「25……!?」


その報告を聞いた瞬間、カノープスの「平凡な少年の顔」から、一瞬にして一切の感情が消え失せた。中肉中背のモブの姿のまま、放つオーラだけが、戦場を支配する冷徹な指揮官(中尉)のそれへと完全に変貌する。

(25騎だと……? 通常の馬車駅の警備や一般の旅人にしては、あまりにも数が多すぎる。やはりロメーダ帝国、サミットを前になりふり構わず仕掛けてくる気か……!)

カノープスは即座に馬車の窓を開け、並走する通信兵へ間髪入れずに鋭い指示を飛ばした。

「ハダル伍長へ伝達! 馬車列のルートを北へ大きく迂回させ、あの馬車駅を完全に避けるようにと伝えろ! それから――旅団全体の護衛の者たちにも、迎撃の警戒を怠らぬよう至急伝言を頼む!」


「了解いたしました!」


偵察兵がすぐさま反転し、大旅団全体へ緊迫した指示が伝わっていく。

瞬く間に、ミルキーウェールズ王国使使節団の全体に、ピリピリとした「警戒令」が敷かれた。カノープスは素早く隠密装束に着替え、覆面を被った。

◇◇◇

「えっ……? あれ、何? 馬車が急に道を外れて走ってない……? え、ええっ!? 何ですか、この物々しい『警戒令』って!?」


『一等一号馬車』の車内では、急激にスピードを上げて荒野を迂回し始めた馬車の揺れに、スピカがパニックを起こして戸惑っていた。


窓の外を見れば、周囲の騎馬護衛たちが一斉に武器の柄に手をかけ、殺気立っているのが分かる。


そんなスピカの隣で、ツンデレ公爵令嬢のベガ様は、一切の動揺を見せることなく、酷く冷ややかに、けれど確かな事実を告げるように答えた。


「呑気な貴方は気がついていないかもしれないけれどね、スピカ。……貴方がメレンヘア学園にやってきた、ちょうどあのくらいの時期から、学園全体の衛兵の『数』と『質』が、異常なほどに跳ね上がっていたのよ。私の周りにもね、常に不自然なほど熟練した護衛の気配がつきまとっていたわ」


「え……? ええっ!?」


ベガ様は静かに視線を落とし、自嘲気味に微笑む。

「そして、今私たちが乗っているこの『一等一号馬車』の周りを見てごらんなさい。王国最強の聖騎士パラディンが二騎、さらに、あの学園最強のサムライ(アルタイル)までが直接張り付いて護衛しているわ。……これが何を意味するか、分かるかしら?」

「それって……」

ゴクリ、とスピカは喉を鳴らした。ベガ様は、窓の外の荒野を睨みつけながら言った。


「――つまり。この馬車そのものか、あるいは……『私たちの中の誰か』が、明確に命を狙われているということよ」


(ええええーーーーーっっっ!? どういうこと!? なんで私が狙われるの!? いや、まだ私とは決まってないけど、この流れは絶対に私じゃん!! ご先祖様が聖女(自称)なだけで、なんでこんなハードな命のやり取りに巻き込まれなきゃいけないのー!?)


スピカが心の中で絶叫し、完全にキャパオーバーを起こして頭を抱えた、その時。

「――馬車駅方向から! 所属不明の未確認の騎馬、約20騎、こちらへ急速に接近してきます!!」


見張り兵の張り裂けんばかりの絶叫が、荒野の風に乗って木霊した。迂回ルートを先読みされ、完全に強襲の網にかかったのだ。

「フン……。なりふり構わず、力ずくで奪いに来たか」

近づいてくる20の獰猛な馬影を見据えながら、特等馬車のカノープス中尉は、覆面の奥の瞳を冷酷無比に細め、静かにそう呟くのだった。

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