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ご先祖様が聖女様かどうかも疑わしい私が王子様達の獲物にされてます。【第一部完結済み 26話(忍者失格)まで】  作者: クワトロばなな


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第ニ部 第6話:一等馬車のお姫様と、夕餉に混ざる不穏な火種

「うわぁ……! 凄い、立派な馬車……!」

カノープス先輩の(物理的な)絶叫が朝の学園に響き渡る少し前。


王宮から差し向けられた、ミルキーウェールズ王国外交使節団の馬車列を目の当たりにしたスピカは、その豪華絢爛な佇まいにパチクリと目を丸くしていた。


最高級の木材に金色の細工が施され、まるで移動する王宮の小部屋のような気品を放っている。


「国の面子がかかっている遠征よ。このくらい当然だわ」


隣でベガ様が、さも当たり前といった風に美しいお顔でフンと鼻を鳴らし、優雅な足取りで馬車へと乗り込んでいく。


今回の旅団は、まさに国家規模の大所帯だった。

先頭を行く前物見席(偵察席)には、くノ一のハダルちゃんが単身で陣取っている。

その後ろに続く、最も防備の固い最高級の『特等馬車』には、全権使節のゼダル卿、カノープス先輩、そしてシリウス王子の3名。


スピカたちが乗り込んだのは『一等一号馬車』で、同乗するのはベガ様、スピカ、そして護衛役のあの人。


続く『一等二号馬車』にはデネブ先輩、ルスカ先輩、そして外務省の幹部2名が。

さらに『一等三号馬車』には、今回合流した国内の他の二大学園の代表4名が乗り込み、その後ろに物資や随行員を乗せた十数台の馬車が連なるという、壮観な大旅団の行進となっていた。


「――おはようございます、スピカさん。……それから、おはようございます。黒幕のお姫様」


馬車の扉が開き、車内に滑り込んできた爽やかな声と、圧倒的な存在感。

身の丈六尺五寸(約百九十五センチ)もある見事な体躯をしたその偉丈夫は、眩しいほどの笑顔を浮かべてスピカたちに一礼した。


彼の名は、アルタイル・バロワ。

あの伝説の英傑『デュークサナダ』の元で、これまた伝説のジョブ【サムライ】の猛特訓に励む、我がメレンヘア学園が誇る最強の武の象徴だ。


先の学園祭の武術立会では、聖騎士パラディン筆頭のルスカ先輩、アークウィザードのジョニー先輩、さらには国内外にその名を轟かせるソードマスターのジョン・フィリップ卿をもことごとく退けたという、生きてる伝説みたいな人である。


「おはようございます、アルタイルさん!」


スピカがいつも通りの明るい笑顔で挨拶を返すと、その直後、私のすぐ隣から、蚊の鳴くような、ひどくか細い声が聞こえてきた。


「……お、おはよう。……アルタイル君」


「へ?」

スピカの思考が、一瞬で完全停止した。

(――え? 黒幕のお姫様……? アルタイル“君”……!? ええっ!? 今の消え入りそうな可愛い声、もしかして、あの唯我独尊なベガ様のお口から出たの……っ!?)


慌てて隣を見ると、ベガ様はいつもならツンと上を向いている綺麗な顎をすっかり引き、真っ赤に染まった両頬を隠すようにして俯いている。

スピカの頭の中では、驚天動地の嵐が吹き荒れていた。


(ちょっと待って!? 学園祭のあの裏舞台で、一体全体この二人になにがあったのー!?)


※気になる方は第一部を要チェック!

そんな、あれこれと妄想の翼を広げて大混乱しているスピカをよそに、アルタイルさんは相変わらず爽やかなお兄さんスマイルのまま言葉を続けた。


「シリウス会長とカノープス庶務から、道中のお二人の護衛を直々に頼まれておりましてね。国の正式な使節団の旅ですから、少し不自由を強いることもあるかもしれませんが……いざという時は、僕の指示に従ってもらいます。まぁ、それ以外は楽しくのんびり過ごしましょう!」


「……ええ。よろしくお願いするわ」


ベガ様は顔をこれ以上ないほど真っ赤に染めたまま、ぷいっと窓の外の景色を見るようにして、小さな声で返答した。

(わー、アルタイルさん、相変わらず天然の男前で爽やかさんだなぁ。……っていうか、真っ赤になってるベガ様、めちゃくちゃ可愛いんですけど!? いつもの高飛車な女王様はどこへ行ったの!? 一体何があったのか、後で根掘り葉掘り聞き出さなきゃ……!)


何やらニヤニヤとした不敬な笑みが止まらないスピカを乗せて、馬車はガタゴトと心地よい音を立てながら、ゆっくりと走り出した。


◇◇◇

馬車に揺られること丸一日。旅団は大きなトラブルもなく順調に進み、ロメーダ帝国との国境付近に位置する、王国が管理する重厚な宿泊施設へと到着した。


長旅の初日ということもあり、その日の夕食の席は、参加者一同の顔合わせを兼ねたささやかな宴の場となった。


大きな長テーブルを囲み、まずは私たちメレンヘア学園の8名(シリウス王子、ベガ様、デネブ先輩、カノープス先輩、ルスカ先輩、アルタイルさん、ハダルちゃん、そして私スピカ)が順番に挨拶をしていく。

それが終わると、ついに他校の代表たちの自己紹介が始まった。


ミルキーウェールズ王国が誇る二大最高峰の一角、魔法学園『ゼンビヤ』の代表として選出されたのは、最高位の魔導士であるアークウィザードのジョーンズくんと、メアリーさん。


そして、王国の防衛の要たる騎士団防衛学園『ギルマッシュ』の代表は、若き聖騎士パラディンのオリバーくんと、シャーロットさん。


さすがは国を代表して国際サミットに送り込まれる精鋭たちだ。誰もが若いながらに洗練された身のこなしと、確かな実力を感じさせるオーラを放っている。


一通りの自己紹介が終わり、給仕の手によって温かい料理やワインが運ばれ、和やかな歓談の空気が流れ始めた――その時だった。


カチャ、と静かにナイフを置いたゼンビヤ魔法学園の代表、ジョーンズくんが話を切り出した。


彼はメガネの奥の細い目をきらりと光らせた、いかにも利発そうで、少し理屈っぽそうな小柄な少年だった。


「シリウス殿下。まずは、未来を担う若者たちのサミットというこの歴史的な場に、我らゼンビヤの代表をお招きいただきましたこと、その栄誉、誠に身に余る思いです」


まずは丁寧な礼を述べるジョーンズくん。シリウス王子も「うむ、我が国の未来の頭脳たる君たちの参加を嬉しく思う」と、穏やかな笑みを浮かべて頷いた。


しかし、ジョーンズくんの本番はここからだった。彼はメガネのブリッジを指先でくいっと押し上げると、一気に声のトーンを落とし、鋭い視線を真っ直ぐに第一王子へと向けたのだ。


「――しかしながら。不躾を承知で、一点、我が国の行く末を担う王子であらせられる殿下へ、お考えをお聞かせいただきたい。……今回の一件、帝国の所持する『賢者の書・追加項』の開示を、我がミルキーウェールズが強く追求しないというのは、いかがなものでしょうか?」


その言葉が放たれた瞬間、食堂全体の空気が、目に見えてピキリと凍りついた。


「ジョーンズくん?」

隣に座る同じ魔法学園のメアリーさんが、ハッとして彼の袖を引くが、ジョーンズくんは止まらない。


「確かに、帝国との不要な摩擦を避けるという外交上の配慮は理解できます。しかし、あの追加項に記された情報は、世界のパワーバランスを根底から覆しかねない禁忌の知識。たとえ一時的に我が国の国益に反する、あるいはロメーダ帝国との緊張が高まるリスクがあるとしても……世界の風通しを良くするため、ひいては真の平和のため、我が国こそがリーダーシップを取り、帝国に対して毅然と情報の全面開示を求めるべきではないでしょうか? 殿下、この状況における殿下の『真のご意図』をお聞かせください」


それは、ただの学生の質問の域を超えた、極めて痛烈で、かつ危険な政治的踏み込みだった。バックに控える外務省の幹部たちの顔が、一瞬で青ざめる。


つい先ほどまで流れていた和やかで温かい夕食の宴の空気は、一瞬にして、刃物を突きつけ合うかのような緊迫した戦場へと変貌した。


誰もが息を呑み、ごくりと唾を飲み込んで、長テーブルの最上席に座るシリウス王子の反応を待った。


隣で、カノープス君の目が、いつもの「死んだ魚の目」から、一瞬で鋭い「プロの密偵」のそれに切り替わったのを、スピカは見逃さなかった。

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