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ご先祖様が聖女様かどうかも疑わしい私が王子様達の獲物にされてます。【第一部完結済み 26話(忍者失格)まで】  作者: クワトロばなな


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第二部 第5話:動き出す最高機密(使節団)と、トップエージェント達の不名誉な作戦会議

ついに、リンデア王国へと旅立つ運命の朝が訪れた。

今回の目的地であるリンデアまでの旅程は、なんと馬車に揺られて丸十日間。


ロメーダ帝国、そしてミドルドア王国の二つの大国を駆け抜け、ようやくリンデアの港湾都市ゾウムハーバーへと辿り着くという、長大にして険しい道のりだ。


早朝の学園正門前。メレンヘア学園の生徒会役員6名と、護衛を務めるアルタイル、ハダルの2名は、ミルキーウェールズ王国が誇る公式の外交使節団が連ねる豪華な馬車へと乗り込んだ。


馬車の車内には、すでに別行動で合流していた、国内の他の二大学園から選出された代表の4名も顔を揃えている。


「未来を担う若者たちだけのサミット」という華やかな名目ではあるが、その実態は国家の威信をかけた情報戦の場だ。どの参加国も、バックには一国を代表する超一流の外交使節団と各分野の最高の頭脳を控えさせ、あらゆる不測の事態に対処できるよう万全の備えを何重にも施している。


何せ、今回はあのロメーダ帝国の現皇帝レグルスが自ら参戦するのだ。一瞬の油断が、そのまま国家の命取りになりかねない。


そして――ミルキーウェールズ王国が誇る外交使節団を率いるのは、当然、この男だった。


表向きはミルキーウェールズの全権使節アンバサドールとして各国の王族と渡り合い、その裏では、国家の闇を統べる諜報部最高司令官の顔を持つ男。


カノープスの実の父親――ゼダル・チュワートス卿である。


馬車から厳かに降り立ったゼダル卿は、周囲の外交官たちを従えながら、生徒会長である第一王子シリウスの前に進み出ると、これ以上ないほど慇懃に一礼した。


「――お久しゅうございます、シリウス殿下。また一段と英気を研ぎ澄まされたご様子。このゼダル、心より頼もしく存じます」


「ゼダル、お前も相変わらず息災なようで何よりだ。今回も我が国の舵取りをよろしく頼むぞ」


シリウスが王族の余裕と親しみを込めて声をかけると、ゼダルは完璧な、絵に描いたような外交官の笑みを崩さぬまま、滑らかに言葉を返した。


「はっ。勿体なきお言葉にございます。今回は殿下が世界にその名を轟かせる、またとない絶好の機会。このゼダル、身を粉にしてお支えいたす所存です」


並び立つ二人の天才が言葉を交わす中、ゼダル卿の鋭い視線が、カノープスのすぐ横に直立不動で並んでいた後輩くノ一――ハダルへと向けられた。

ハダルはゼダルを見るなり、いつもの密偵としての警戒心をどこへやら、嬉しそうにトトトッと駆け寄って挨拶をした。


「ゼダル卿、お久しぶりです! 今回の遠征、新任の若輩者ではございますが、精一杯務めさせていただきます。よろしくお願い申し上げます!」


ハダルの健気で可憐な挨拶を受けると、それまで国家の最高権力者としての重厚なオーラを放っていたゼダル卿は、急にその表情をニヤニヤとしたものに変えた。


「いやはや、ハダル嬢。今回の遠征へのご協力、誠にいたみいります。なぁに、何か困ったことや分からないことがあれば、何でもそこにいるうちの愚息カノープスに尋ねてください。なんなら、面倒な仕事は全てあいつに丸投げしてしまっても構いません。……それにしても、ハダル嬢。私は貴方とこうしてご同行出来るだけでも嬉しくてね。昨日から胸の高鳴りを抑えるのに、いささか難儀している次第でございますよ」


ゼダル卿が放った、あまりにも歯の浮くような熱烈な外交お世辞(?)を聞いた瞬間。

後ろに控えていたカノープスは、「特徴のない平凡な少年」の無表情を、ピキピキと激しく引きつらせた。


(……この親父の奴!!! 仮にもお前はミルキーウェールズの全権使節で、僕とハダル君の『上官(最高責任者)』だろうが!!! なんでまだ初ミッション前のハダル君に対して、そんなただのナンパ親父みたいなセリフを吐いてるんだ……っ!?)


カノープスが内心で早くも実の父親への猛烈な敵対心を燃え上がらせていると、ハダルは顔をほんのり赤くしながら、クスクスと楽しそうに笑った。


「まぁ。チュワートス卿ったら、本当にお上手ですこと。……ですが、カノープス先輩は決して『愚息』なんかじゃありませんよ。私にとっては、とても頼りになって尊敬できる、最高の、素敵なお手本なんです」


ハダルはカノープスの方を振り返ると、どこか熱っぽい、可愛いらしい視線で悪戯っぽく合図を送った。


「――それでは私は、本番に備えて前物見席(偵察席)の方へ参りますので、これで失礼いたしますね」


ハダルが風のように軽やかに去っていくのを見送りながら、カノープスは心の中で(ハダル君、天使か……!?)と、その言葉の破壊力に人知れず大ダメージを受けていた。

◇◇◇

シリウス王子が他の大物外交官たちと挨拶を交わしている間、使節団の最奥にある特等客車の馬車へと、ゼダル卿とカノープスの二人が乗り込んだ。

制服に身を包んだ「平凡な少年」のカノープスが席に着くのを見るなり、父親のゼダルは先ほどまでの公式な冷徹さをどこへやら、柔和で、かつ非常に悪巧みの気配がする笑みを浮かべて口を開いた。


「元気そうだな、カノープス」


「――父上もお変わりなく、何よりです」


カノープスは、絵に描いたような模範的な「有能な息子(部下)」の無表情な態度で、懃懃に返した。しかし、そんな息子の鉄壁のポーカーフェイスを、父親が逃すはずもない。ゼダル卿はニヤァ……と、最高に意地の悪い笑みを唇に刻んで問いかけた。


「随分と、あのハダル君と仲良くなっているようじゃないか。教育係の職権乱用か?」


ピク、とカノープスの眉が跳ねる。だが、そこはトップエージェント。カノープスは完全に父親を無視し、手元の書類に目を落とした。


「おや、そう無視するなよ。寂しいじゃないか」


ゼダルはさらに身を乗り出し、声を潜めて耳元で囁いた。


「安心しろって。……前回のミッションで、お前をこれでもかと弄びまくったあの凄腕くノ一、『ミラ』さんのことについては、ハダル君には絶対に黙っておいてあげるからさぁ」


「――それ言ったら、コロス」


カノープスは資料から顔を上げると、冷徹極まりない、文字通り実の父親を地の果てまで呪い殺しそうな恐ろしい眼光で睨みつけた。

前回のロメーダ帝国潜入ミッションで、あの妖艶なくノ一・ミラに完全に翻弄されまくった記憶は、カノープスにとって、今はハダルには知られたくはない、甘酸っぱい黒歴史なのだ。


だが、上官(バカ親父)の精神攻撃はこんなものでは終わらなかった。


「いやぁ、今。思い返しても面白い話なんだが。あの時、ロメーダ帝国のアンドロメダ皇后の寝室に潜入した、お前のあの『プランAダッシュ』……あれも、もう使えない(ダメ)か?」


「…………っ!! それ以上口にしたら、僕の持つ全ての暗殺スキルを、今ここでオマエに叩き込む……っ!!」


カノープスの中のプロの理性が、音を立てて消し飛んだ。


『プランAダッシュ』――それは、カノープスが秘密の惚れ薬『コイイモリ』を用い、ハニートラップを仕掛けてロメーダ帝国のアンドロメダ皇后から賢者の書の秘密を聞き出そうとするも、皇后の圧倒的な大人の色気と強力な魔法の前に完膚なきまでに屈し、大失敗に終わったという、これまた最悪の不名誉極まりないミッションコードである。※スピンオフ参照


カノープスが凄まじいガンを飛ばして脅すも、ゼダル卿は「わかってるよ、わかってる」と肩をすくめて笑った。


「そんな野暮なことを、可愛いハダル君に言うわけないだろ。安心しろ。……」


「…で、実際のところ、ハダル君とはどこまで進んだんだ? 抱擁ハグか? それとも、もうそれ以上か?」


ブチッ。

カノープスの脳内で、何かが完全に爆発した。

「――ここで俺と勝負しろ!!! このバカ親父がァァァァァーーーーーーーっっっっ!!!!!」


早朝のメレンヘア学園の敷地内に、普段は気配を完全に消しているはずのトップエージェント(カノープス)による、魂の底からの大絶叫が木霊した。

馬車の外で別の外交官と真面目な話をしていたシリウス王子やスピカたちが、「……何事かしら?」と驚いて馬車を振り返ったが、その車内では、ミルキーウェールズ王国が誇る最強のスパイ親子による、あまりにも低レベルで熾烈なキャットファイト(公私混同の殴り合い)の幕が切って落とされているのだった。

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