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ご先祖様が聖女様かどうかも疑わしい私が王子様達の獲物にされてます。【第一部完結済み 26話(忍者失格)まで】  作者: クワトロばなな


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第二部・第1話:爽やかな朝の、にゅるにゅるとした最悪の予感

柔らかな黄金色の朝日が、女子寮のバルコニーへと穏やかに差し込んでいた。

目の前に広がるのは、朝露に濡れてきらきらと輝く学園自慢の美しい庭園だ。

「お嬢様、朝食をお持ちいたしました」

「ありがとう、パメラ」

寮付きの専属メイドであるパメラが、手際よくテーブルに温かい料理を並べていく。

バスケットに盛られた焼きたての香ばしいパンに、湯気を立てるスープ。器を覗き込めば、私の大好物である濃厚なコーンポタージュだった。サイドを固めるのは、程よく塩気の利いた上質なハムと、とろけるようなチーズだ。

素晴らしい景色に、美味しいご飯。

(あぁ……なんて爽やかで、健やかな朝なのかしら……)

――そう。今日、あの**『魔法生物飼育委員』**の活動さえなければ…

「…………」

スプーンを口に運びながら、スピカの脳裏に「何かとてもイヤな予感がするのよねー」という不穏な独白が過ぎる。しかも、その予感はかなり具体的で最悪な部類のものだ。

ちなみにスピカが所属しているこの委員会、主な仕事は学園が管理する『魔法生物に魔力を提供すること』なのだが、毎回ろくな目に遭わない。

スピカはパメラに向けて、令嬢としての最高に美しい笑顔を咲かせながら、その内側に最悪の予感をこれでもかと包み隠すのだった。

◇◇◇

同じ頃――早朝の静まり返った生徒会室。

朝日が斜めに差し込む部屋の片隅で、生徒会書記のデネブ・アーテュスは、生徒会長であるシリウス・ランスターのデスクへと膝を寄せるようにして、静かに言葉を交わしていた。

第一王子であり生徒会長、シリウス・ランスター。

ブロンドの髪からのぞく端正な顔立ちの中のアクアマリンの瞳。

容姿端麗、学業優秀、さらに卓越した剣の腕を持つ魔法剣士でありながら、学生の身で国の政治や外交にも深く関わっているという、非の打ち所がない天才(傑物)だ。

正式な役職は生徒会書記であるデネブは、魔法庁長官を務めるアーテュス侯爵家の令嬢。ブロンドの髪にブルーグレーの瞳。

適正ジョブ『アークウィザード(大魔導士)』を冠し、学園四天王美女の一人に数えられる美貌と、完璧超人と称される立ち居振る舞いで、学園内外を問わずシリウス王子の忠実な右腕として手助けをしていた。

デネブの報告をじっくりと聞き終えたシリウスが、革張りの椅子に深く腰掛けたまま、静かに口を開いた。

「――そうか。日時と場所が、正式に決まったか」

「はい。先方からの裏の返答も、すべて滞りなく」

「デネブ君、この件の複雑な調整を任せてすまなかった。ありがとう。……『リンデア王国』か。生徒会役員を全員、緊急招集する必要があるな。デネブ書記、この件をベガ会計とルスカ副会長にも伝えてくれ」

シリウスの瞳に、国政に携わる冷徹な政治家としての鋭い光が宿る。

「かしこまりました」

デネブは懃懃に一礼し、それから少しだけ首を傾げて、含みを持たせた微笑みを浮かべた。

「……殿下。スピカ庶務もご同行させるのですか?」

「あぁ。彼女も連れて行く」

シリウスが迷いのない口調で即答すると、デネブはどこか含みをもたせた妖艶で美しい笑みをその唇に刻んだ。

「ふふ……。今回も賑やかな催しとなりそうですね、殿下」

朝焼けの生徒会室で、二人の天才は静かに未来のチェス盤を動かし始めていた。

◇◇◇

放課後。

スピカは制服から動きやすい運動着に着替え、重い足取りで生物飼育室へと向かっていた。その途中、廊下の曲がり角で、聞き覚えのある低くて快活な声に呼び止められた。

「よう! スピカ!」

「ひゃいっ!?」

変な声が出た。振り返ると、そこにいたのは黒髪に情熱的な黒い瞳。この国の第二王子であり、シリウスの異母弟でもあるリゲル・ランスター殿下だった。若干十七歳にして『ソードマスター』の称号を持つ、この国最強の武闘派王子様だ。

彼の姿を見た瞬間、先日のあの華やかな舞踏会での出来事が頭を過り、スピカの頬が不覚にもポッと赤くなる。

「ご、ご機嫌麗しゅうございます、リゲル殿下……」

「なんだよ、堅苦しいな。いつも言ってるだろ、リゲルでいいって」

「そんなっ、そんな馴れ馴れしくお呼びするなんてできません……っ!」

スピカが戸惑いながら身を引くと、リゲル殿下はなぜか真剣な、少し責めるような眼差しでジリッと距離を詰めてきた。

「なぁ、スピカ。……俺たち、もう『友達』でいいんだよな?」

「ええ、まぁ……(舞踏会であれだけ色々ありましたし)」

スピカが曖昧に頷くと、リゲル殿下は急に、彫刻のように端正な顔を極限まで近づけてきて、大真面目な顔でとんでもないことを口にした。

「なぁスピカ。――友達って、キスしていいんだっけ」

「ち、ち、違います!!!!」

あまりの至近距離とセリフの破壊力に、スピカの顔面は一瞬で沸騰した。

両手をブンブンと振り回しながら、必死に抗議の声を上げる。

「友達というのは、その! 悩み事を打ち明け合ったり、お互いの喜びや悲しみを分かち合ったりするものだと思いますっ!」

スピカが顔を真っ赤にして真面目に熱弁すると、リゲル殿下はポカンとした後、「悩み事かぁ……」と呟き、その整った顔立ちに、どこか寂しげな影を落とした。

「カッコ悪い愚痴に聞こえるかもしれないけどさ……。スピカは、シリウスの奴が国政の外交や、裏の諜報に携わっているのを知っているか?」

「はい、何となく……(えっ? そうだったかしら?)」

心の中で曖昧に答えを返す私を余所に、リゲル殿下は不満そうに声を潜めた。

「親父(国王)の奴さ、俺には『農政』を割り当ててんだよ。なんで奴はあんなに派手派手な外交諜報で、俺は地味な農政なんだよ」

「――リゲル殿下!」

スピカは思わず、一歩前に出て彼の言葉を強い口調で遮っていた。表情を引き締め、王子の目を真っ直ぐに見つめる。

「農政は、国の『礎』です! 陛下はその大事な部分を、貴方に託されたのです!」

「スピカ……」

「たぬきの腹の探り合いよりも、よっぽど立派なお仕事だと私は思いますよ」

スピカの勢いに圧されたのか、リゲル殿下は一瞬目を見開いた後、みるみるうちに耳まで真っ赤にして視線を逸らした。

「そ、そうか……」

「はい、とっても!」

「……それはそうと、これからデートをしないか?」

「へ?」

あまりの急な話の方向転換に、スピカの思考が一瞬停止する。

スピカはきらんと目を光らせると、これ幸いとばかりに笑顔で提案した。

「魔法生物飼育委員を変わっていただけるのなら、そのお誘い、喜んでお受けしますわ」

私の渾身の交渉に対し、リゲル殿下は凄まじい速度で、一ミリの躊躇もなく右手を突き出した。

「ごめん、それだけは勘弁!」

(――勘弁なのかーーーい!!!!)

世界最強クラスのソードマスターですら恐れおののく、飼育委員の闇。

スピカの盛大な心のツッコミを置き去りにしたまま、リゲル殿下は爽やかに去っていった。しかし、スピカを見送った直後、リゲルはスッと表情を真剣なものに変え、自らの影に潜む忍びのスティーブを呼び寄せた。

「――スティーブ。悪いが、我が国の農政に関する資料を集めてくれ。あと農政大臣とも話が聞きたいと、段取りをつけてくれ」

闇から現れたスティーブは、我が主のあまりの急なやる気に驚きつつも、どこか嬉しそうに笑顔で懃懃に頭を垂れた。

「はっ、仰せのままに」

◇◇◇

そんな男たちの裏の動きなど知る由もないスピカはついに悪寒渦巻く、生物飼育室へと足を踏み入れていた。

部屋に入るなり、飼育委員長を務めるサムが、満面の眩しいビジネススマイルで私を出迎えてくれた。

「やあ、スピカ君! 今日はミスタートグへもんの魔力提供はいいよ。今日の君にはね、もっと重要な仕事をやってもらおうと思っているんだよ」

(重要な仕事? いや、嫌な予感しかしないんですけど……!!!)

嫌がるスピカをスルーして、サム先輩は楽しげに私を奥へと案内していく。

連れて行かれたのは、ガラス張りの巨大な地下温室だった。入り口のキャットウォークから下の半地下スペースを覗き込んだ瞬間、私は自分の目を疑った。なにやら巨大で不気味な生き物が、粘り気のある音を立てて蠢いている。そしてなぜか、他の男子委員たちがキャットウォークに陣取っているのだ。

サム先輩は、我が子を自慢するかのように胸を張って言った。

「紹介しよう! 我がメレンヘア学園が誇る魔法生物――『いもづる姫』だ!!」


それは、巨大なサツマイモのような瑞々しい葉と、無数の太いつるを持つ、おぞましくも奇怪な植物型魔法生物だった。

中心部には巨大なアサガオに似た赤紫色の花が咲いており、なんとその花の中心には、ギロリと蠢く爬虫類のような『目』が存在している。そして、その周囲で粘液を滴らせながらにゅるにゅるとのたうつ大量の触手(蔓)は、どう見ても健全な全年齢対象の少年漫画には不適切極まりないビジュアルをしていた。


「……なんか、にゅるにゅると触手みたいなのが蠢いてますね」


スピカが引きつった声で問いかけると、サム先輩は解説を続けた。


「彼女は半年に一度、大量の魔力を外部から直接補給する必要があるんだ。……しかしね、スピカ君。その魔力提供の方法なのだが、提供者の『穴という穴』から、彼女の蔓を受け入れて魔力を流し込まなければならないんだよ」

スピカの思考が、最悪の方程式を瞬時に組み立てていく。


彼女は冷や汗をダラダラと流しながら、確認のためにサムへ言葉を返した。


「……つまり。整理しますと、あの、粘液で濡れたにゅるにゅるの触手みたいなやつが、私の身体の『穴という穴』ににゅるにゅるっと入り込んで、中から魔力を吸い取る、と。そういうことですか?」


「そう! にゅるにゅるっとね!」


サムが満面の笑みで親指を立てた、その瞬間。


「絶対にイヤですーーーーーー!!!!(絶叫)」


スピカの、新章・第2部における本当の受難の幕が、今ここに切って落されたのだった。

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