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ご先祖様が聖女様かどうかも疑わしい私が王子様達の獲物にされてます。【第一部完結済み 26話(忍者失格)まで】  作者: クワトロばなな


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忍者失格

忍者は目立ってはならない。

それは、闇に生きる者にとって絶対の鉄則である。

――しかし、現在のカノープスは、その鉄則の対極にいた。

昨日のシャワー室での大惨事のあと、カノープスは身の回りの整理もそこそこに、大急ぎで忍者訓練施設へと赴いた。ハダルに直接会い、あの世にも恐ろしい誤解を解くためだ。だが、施設に彼女の姿はなかった。ハダルは意図的に、カノープスとの接触を避けているようだった。

明くる朝。早朝の冷気が満ちる生徒会室に、カノープスは一人赴いた。シリウス会長へ、魔法生物部の後処理に関する正式な報告を淡々と済ませる。

用件を終え、カノープスが退出を告げて踵を返したその時、デスクの後ろからシリウスが静かに声をかけてきた。

「ところで……カノープス君」

「はい、何でしょうか」

「君とスピカ君について、少々……いや、かなり妙な噂を耳にしたのだが。それは事実かな?」

シリウスの冷徹な、しかしどこか心配そうな瞳がカノープスを射抜く。カノープスは一切表情を変えず、直立不動のまま答えた。

「問題となるような事実は一切ございません」

「そうか」

シリウスは小さく息を吐き、ペンを置いた。

「僕は君たちを信じているよ。だが……万が一にも、退学処分になるような事態だけは避けて欲しい。僕は、君たちを失いたくはないんだ」

「お気遣い、ありがとうございます。しかし今回の件に関しましてはご心配には及びません。ご安心ください」

慇懃に一礼し、カノープスは生徒会室を退出した。廊下に出た瞬間、カノープスは小さく眉をひそめる。

(……どんな噂だ?)

その疑問の答えは、一般生徒が行き交う廊下に出た瞬間、嫌というほど耳に飛び込んでくることになった。

「おい、見ろよ。例の『エロ忍者』だぜ!」

「マジかよ……カノープスとスピカさんが、昨日一緒にシャワー室で朝までハッスルしてたって本当なのか!?」

「いや、俺が聞いた話じゃ、奴が強引に女子シャワー室の壁をぶち破って押し入ったらしいぜ!」

「え? 私はカノープスと、あの編入生のモブ君が一緒にシャワー浴びてたって聞いたけど……」

「やだ、忍者ってそういうアブノーマルな人が多いのかしら……」

好き勝手な妄想の尾ひれがつきまくった最悪のデマが、学園中を駆け巡っていた。

忍者は目立ってはならない。それは鉄則である。にもかかわらず、現在カノープスは全校生徒の注目を一身に集め、目立ちまくりの晒し者状態だった。俺は忍者失格だ。

(みんなも好き勝手言いおって……! そもそも、モブ君とシャワーを浴びることの何が問題だというんだ!?)

内心のツッコミも虚しく、今はそんなことよりもハダルの誤解を解くことが最優先だった。カノープスは好奇の視線が突き刺さる人混みの中で、必死にハダルの姿を探した。

だが、ハダルを探す途中で、運悪く(あるいは幸運にも)スピカと正面から出くわしてしまった。

スピカはカノープスの顔を見るなり、ひどく恐縮した様子で駆け寄ってきた。

「カノープス君! 変な噂が立っちゃってるけど、カノープス君は全然悪くないから! 気にしないでね!」

「……ありがとう、スピカさん」

短い会話だったが、周囲からの「何だあのエロ忍者は」という鋭い視線が痛いほど突き刺さる。二人はそれ以上言葉を交わすこともできず、そそくさと距離を置いた。

(スピカさんだって、僕と同じ……いや、僕以上のデマの被害者だというのに、それなのに僕のことを心配してくれるなんて……。うーん。また惚れてしまうではないかコノぉ……!)

湧き上がる未練を必死で頭から振り払い、カノープスはハダル捜索を再開した。

そして、中庭へと続く渡り廊下で、ついに求めていたハダルの姿を捉えた。

「ハダル君!」

カノープスが声をかけた瞬間、ハダルは明確に身体を硬くした。彼女は冷たい視線を一瞬だけカノープスに向けると、すぐにフイと視線を逸らし、なんと、隣にいたスティーブのたくましい腕をギュッと掴んだのだ。

「――行きましょう、スティーブ先輩」

「お、おう? 悪いなカノープス!」

スティーブは状況がよく分かっていないようだったが、鼻の下を伸ばしながらカノープスに向けてひらひらと手を振り、ハダルに連れられて歩き出す。

「待ってくれ、ハダル君! 話を聞いてくれ……!」

カノープスの必死の訴えは、ハダルの頑なな背中には届かなかった。

一人、中庭に取り残されたカノープスは、ハダルが自分を一瞥した時の目を思い出して立ち尽くした。

(あー……。完全に、ゴミを見るような目だった……)

あのミゾミミズは、乾燥させて粉にされたわけでも、煎じられたわけでもないというのに、カノープスとハダルの間に完璧な「離間の計(仲違わせの罠)」を成功させてみせたのだ。

(ハダル君と過ごした、あの夜の壁紙の温もりは、一体何だったんだろう……)

カノープスの切れ気味の目に、じわりと涙が浮かぶ。

そうだ。僕は光の当たらない影に生きる忍者。少しだけ、分不相応な甘い夢を見ていただけなのだ。そう自分に言い聞かせ、痛む胸を抑えていると、背後から無神経極まりない声が降ってきた。

「よーよー、お出ましだな。学園公認の『エロ忍者』さんよぉ」

振り返ると、そこには不敵な笑みを浮かべた第二王子、リゲル・ランスターが立っていた。

「お前、スピカのシャワー室に強引に入り込んで、情けない悲鳴をあげさせたってのは本当か?」

カノープスは視線すら合わせず、リゲルの言葉を完全に無視して歩き出そうとした。その態度が、王子のプライドを逆撫でする。

「おい! 聞いてんのか! 俺はな、舞踏会の時の借りを忘れたわけじゃねえんだよ!」

リゲルはカノープスの胸ぐらを力任せに掴み上げた。

その瞬間、カノープスの瞳から感情が完全に消えた。

「……(しのび)スキル、『金縛り』」

至近距離から放たれた精神干渉の術に、リゲルの身体の自由が一瞬にして奪われる。しかし、そこはさすがの第二王子。天才的なソードマスターとしての直感が危険を察知し、即座に技を発動させた。

「『マインド・リセット(精神回復)』――っ!」

術を破り、身体の自由を取り戻した、まさにその刹那。

リゲルの喉元には、いつの間にか冷たい鋼の感触が押し当てられていた。

「っ……!?」

カノープスはリゲルの背後を取り、片方の手でクナイを王子の喉仏にミリ単位の距離で突きつけていた。暗殺者の暗い瞳が、リゲルの急所を冷徹に見据えている。

「――『クリティカル・サーチ(致命傷探査)』」

リゲルは冷や汗を流しながら、苦し紛れに言葉を絞り出した。

「……貴様、王族に刃を向ける気か……!?」

カノープスは冷ややかに口元を歪めた。

「ふーん。自分が不利になると、そうやって『王族』を盾にするんだ。……かっこいいですね、第二王子殿下」

トドメの皮肉を突き刺すと、カノープスはクナイをスッと懐に収め、リゲルに一瞥もくれずにその場を立ち去った。

解放されたリゲルは、去りゆく忍者の背中に向かって、悔し紛れに怒鳴り散らした。

「お、覚えていやがれッ!!」

(……うわ、今の俺のセリフ、めちゃくちゃだせーぇ……)と、自分で自分の小物っぽさに激しく凹みながら。

その頃、ハダルが一人、忍者訓練施設で鬱憤を晴らすように激しくクナイを的に投げ込んでいると、そこへ滅多に訪れることのない珍しい来客が姿を現した。

「ハダルさん、今、少しだけお話を聞いてもらえるかな」

「……スピカさん?」

ハダルは驚いて手を止めた。スピカは真っ直ぐにハダルの前へ進み出ると、昨日のシャワー室で起きた「ミゾミミズの襲来」「壁を越えて助けてくれたカノープスの行動」「そして一糸まとわぬ状態で遭遇してしまった事故」の、事の一部始終を包み隠さず丁寧に説明した。

話を聞き終えたハダルは、驚きと共に、目の前の少女に尋ねた。

「どうして……わざわざ私に、このことを話しに来てくださったんですか?」

スピカは少し照れくさそうに、優しく微笑んだ。

「あの時ね、カノープス君、貴方に誤解されたら本当に困るって感じで、もの凄く必死だったから。彼の名誉のためにも、ちゃんと言っておきたくて」

ハダルの胸の奥の支えが、スッと消えていくのが分かった。

「……ありがとうございます、スピカさん」

ハダルは深く頭を下げると、すぐに顔を上げた。

「私、先輩を探してきます……!」

ハダルがカノープスを見つけるのは、そう難しいことではなかった。

彼は、あの二人で壁紙にくるまって暖をとった、思い出の大きな木の下に、小さくなって座り込んでいたからだ。

「――カノープス先輩!」

ハダルが息を切らせて声をかけると、カノープスは弾かれたように顔を上げた。

「ハ、ハダル君……!?」

見上げれば、ハダルは呆れたような、しかしどこか愛おしそうな目で彼を見つめていた。カノープスはといえば、先ほどまでの絶望のあまり、鼻の頭を真っ赤にして、目には涙をなみなみと溜めていた。

「なんですか、その情けないお顔は。これじゃ『凄腕忍者カノープス』が台無しじゃないですか」

「……ハダル君、色々……本当に、色々とごめんよ。…」

ハダルの優しい声を聞いた瞬間、せき止めていた感情が崩壊し、カノープスの目から大粒の涙がどっと溢れ出た。

「もう……本当にしょうがない先輩ですね」

ハダルはカノープスの前にしゃがみ込むと、呆れ混じりに小さく笑い、白い指先で彼の涙を優しく、丁寧に拭い取った。

(本当に……僕は忍者失格だな……)

カノープスはハダルの指先の温もりを感じながら、情けなくも、心からの安心感に包まれて泣き続けるのだった。闇に生きるはずの忍者の心は、今、夕暮れ前の木漏れ日よりも温かく満たされていた。

これで

第一部完結となります。好評であれば(無くても?)

続けたいと思いますがいかがでしょう。

(書くとするとサブタイトル「忍者エージェントカノープス」仮)

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