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ご先祖様が聖女様かどうかも疑わしい私が王子様達の獲物にされてます。  作者: クワトロばなな


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23/25

ミゾミミズとコイイモリ

「……カノープスさん?」

不意に正面から鈴の鳴るような声で呼ばれ、カノープスはハッと我に返った。

目の前では、スピカが不思議そうに首を傾げて彼を覗き込んでいた。ハダルへの誓いを胸に、自室で勝手に一人でシリアスな世界に没入していたカノープスは、小さく咳払いをして影の薄い「生徒会庶務」の顔に戻る。

スピカはそんな彼の様子を気にする風もなく、魔法生物部部長のサムに向き直った。

「サム部長! こちらの施設には、もう一つ問題が発生しているのですよね?」

「そうなんだよ、スピカ君!」

サムは待ってましたとばかりに、展示室の奥にある巨大なスチール製の棚を指差した。

「魔法生物の立体展示を行っていた水槽の一つが、金属製の外枠にガッチリと挟まってしまってね。部員たちが何人がかりで力任せに挑戦しても、ビクともしなくて困り果てていたんだ」

スピカはふむ、と顎を小さく引くと、隣に立つ忍者の青年を見上げた。

「カノープスさん、ちょっと見ていただけますか?」

「はい、お任せください」

カノープスは短く答えて棚へと近づいた。忍者の業務において、隠密侵入や特殊工作、罠の解除といった物理的な解体作業は日常茶飯事だ。この程度の噛み合わせの不具合など、技術的には造作もないことだった。

カノープスが構造を調べている間、スピカは水槽の中でうごめく妙な生き物たちに興味を惹かれたようで、サムに質問を投げかけた。

「ちなみに、この水槽にいる魔法生物は何という生き物なんですか?」

サムは胸を張り、どこか得意げに解説を始めた。

「この生き物たちは『ミゾミミズ』と『コイイモリ』さ。……おっと、カノープス君なら、裏の任務で嫌というほど知っているだろう? 僕たち魔法生物部は、この可愛い生き物たちをあくどい『道具』にしたりはしないけどね」

サムの言葉に、カノープスは内心で苦い鉄の味を感じていた。

知っているどころの話ではない。コイイモリといえば、あの忌まわしき「惚れ薬」の主原料だ。火で炙って乾燥させ、粉末にするだけで強力な媚薬が完成する。服用した者は、効果が発動した瞬間に目の前にいる対象に対し、性別や種族を問わず猛烈な好意(狂気)を抱くようになるという、極めて危険なシロモノだ。

そしてその対となる「ミゾミミズ」は、真逆の効果を持つ。

服用した者は、効果発動時に目の前にいる対象へ、制御不能な激しい「敵意」を植え付けられるのだ。古くは戦国時代、敵対陣営の結束を内部から崩壊させる「離間の計」として、暗殺者たちが好んで使用したという、陰湿な防諜用の毒物だった。

(他国の情報収集のため、一度コイイモリを使わされたことがあったが……あの時は本当に酷い目に遭った……)

ハダルには「ハニートラップは忍者に必要ない」などと格好をつけてみせたものの、実際のところ、カノープスは過去の任務でハニートラップの過酷さに心底懲りていた。彼の極端な女性への奥手さと臆病さは、この裏稼業のトラウマにも起因していると思われる。

サムから一通りの惚れ薬の恐ろしい説明を聞いたスピカは、ぷくーっと不満そうに両頬を膨らませた。そして、作業中のカノープスの背中に向けて、チクリと恨みがましい視線を送る。

「……忍者施設の人たち、視察のときにこんな怪しいお薬を私に飲ませようとしたなんて。本当に酷いわ」

背中に突き刺さる彼女の冷ややかな非難に、カノープスは思わず作業の手を止め、深々と頭を下げた。

「……組織の不手際、誠に面目ございません」

「ふん。まあ、カノープス君のせいじゃないからいいんだけどね」

スピカは小さく笑うと、すぐに気持ちを切り替えた。

水槽は少し高い位置にあり、枠から外すには微妙な角度調整と踏ん張りが必要だった。

「スピカさん、念のため下から足場を支えておいていただけますか」

「うん、任せて!」

スピカが快く返事をしてスチール棚を両手で固定したのを確認し、カノープスは再び水槽の分析に入った。

水槽はその自重によって外枠のバリにガッチリと噛み込んでいる。だが、ほんの一瞬、上方に向けて爆発的な力を加えれば、噛み合わせを外して一気に引き抜けるはずだ。

(瞬間的に身体能力を限界突破させる、"気合い"のスキルを完全に制御して発動させれば――よし、今だ)

カノープスが脳内で完璧な物理計算を終え、体内のエネルギーを集中させた、まさにその刹那。

足場を支えていたスピカが、ふと思いついたような、純粋で無邪気な疑問を彼に投げかけた。

「――ねえ、あのさ。カノープス君自身は、その『惚れ薬』って使ったことあるの?」

「っ!?!?!?」

よりによって、過去の最大級の黒歴史トラウマをピンポイントで抉るような質問だった。

あまりの動揺に、カノープスの脳内計算は一瞬で消し飛び、発動しかけていた"気合い"のスキルが派手に暴発した。

――ガガガガッ、バシャァァァァァン!!!

上方に「優しく」加えるはずだった衝撃力は、リミッターを解除された怪力となって水槽を直撃した。水槽は派手に跳ね上がり、中の水ごと完全にひっくり返った。

そして、その真下にいたカノープスとスピカの頭上へ、容赦なく生臭い大量の水が降り注いだ。

「「…………」」

一瞬の静寂。

二人は頭からつま先まで、絵に描いたようなずぶ濡れになって立ち尽くしていた。コイイモリとミゾミミズが泳いでいた水は、独特の、なんとも言えない水生生物特有の生臭さを放っている。

カノープスはあまりの失態に、顔を真っ白にして震えた。

「ご、ごめん……完全に自分のコントロールミスです……スピカさん、本当に申し訳ない……」

スピカは、自分の前髪からポタポタと滴る生臭い水を手のひらで拭いながら、死んだような魚の目でカノープスを見つめた。

「あー……。うん……そーね。私が……変なところで、変な質問をして声をかけちゃったのが悪かったわね。うん……」

なんとも言えない、完全に魂の抜けた返事をするスピカ。

そこに、一部始終を見ていた部長のサムが、おずおずといった様子で後に続いた。

「オ、オーノー……なんていう大惨事だ。でも、怪我の功名というか、おかげさまで水槽は完全に外枠から外れたよ! ありがとう!」

サムは申し訳なさそうに、近くの棚から大きなバスタオルを二枚引っ張り出して二人に手渡した。

「あとは僕たちで片付けるから! 生徒会の方々は、その……かなり生臭いし、風邪をひくといけないから、今すぐ共同のシャワー室へ行って洗い流してきておくれ!」

「……はい」

「……分かりました」

タオルを受け取った二人は、お互いに一言も口をきけないまま、トボトボとした足取りで学園のシャワー室へと向かうのだった。

不意に正面から鈴の鳴るような声で呼ばれ、カノープスはハッと我に返った。

目の前では、スピカが不思議そうに首を傾げて彼を覗き込んでいた。ハダルへの誓いを胸に、自室で勝手に一人でシリアスな世界に没入していたカノープスは、小さく咳払いをして影の薄い「生徒会庶務」の顔に戻る。

スピカはそんな彼の様子を気にする風もなく、魔法生物部部長のサムに向き直った。

「サム部長! こちらの施設には、もう一つ問題が発生しているのですよね?」

「そうなんだよ、スピカ君!」

サムは待ってましたとばかりに、展示室の奥にある巨大なスチール製の棚を指差した。

「魔法生物の立体展示を行っていた水槽の一つが、金属製の外枠にガッチリと挟まってしまってね。部員たちが何人がかりで力任せに挑戦しても、ビクともしなくて困り果てていたんだ」

スピカはふむ、と顎を小さく引くと、隣に立つ忍者の青年を見上げた。

「カノープスさん、ちょっと見ていただけますか?」

「はい、お任せください」

カノープスは短く答えて棚へと近づいた。忍者の業務において、隠密侵入や特殊工作、罠の解除といった物理的な解体作業は日常茶飯事だ。この程度の噛み合わせの不具合など、技術的には造作もないことだった。

カノープスが構造を調べている間、スピカは水槽の中でうごめく妙な生き物たちに興味を惹かれたようで、サムに質問を投げかけた。

「ちなみに、この水槽にいる魔法生物は何という生き物なんですか?」

サムは胸を張り、どこか得意げに解説を始めた。

「この生き物たちは『ミゾミミズ』と『コイイモリ』さ。……おっと、カノープス君なら、裏の任務で嫌というほど知っているだろう? 僕たち魔法生物部は、この可愛い生き物たちをあくどい『道具』にしたりはしないけどね」

サムの言葉に、カノープスは内心で苦い鉄の味を感じていた。

知っているどころの話ではない。コイイモリといえば、あの忌まわしき「惚れ薬」の主原料だ。火で炙って乾燥させ、粉末にするだけで強力な媚薬が完成する。服用した者は、効果が発動した瞬間に目の前にいる対象に対し、性別や種族を問わず猛烈な好意(狂気)を抱くようになるという、極めて危険なシロモノだ。

そしてその対となる「ミゾミミズ」は、真逆の効果を持つ。

服用した者は、効果発動時に目の前にいる対象へ、制御不能な激しい「敵意」を植え付けられるのだ。古くは戦国時代、敵対陣営の結束を内部から崩壊させる「離間の計」として、暗殺者たちが好んで使用したという、陰湿な防諜用の毒物だった。

(他国の情報収集のため、一度コイイモリを使わされたことがあったが……あの時は本当に酷い目に遭った……)

ハダルには「ハニートラップは忍者に必要ない」などと格好をつけてみせたものの、実際のところ、カノープスは過去の任務でハニートラップの過酷さに心底懲りていた。彼の極端な女性への奥手さと臆病さは、この裏稼業のトラウマにも起因していると思われる。

サムから一通りの惚れ薬の恐ろしい説明を聞いたスピカは、ぷくーっと不満そうに両頬を膨らませた。そして、作業中のカノープスの背中に向けて、チクリと恨みがましい視線を送る。

「……忍者施設の人たち、視察のときにこんな怪しいお薬を私に飲ませようとしたなんて。本当に酷いわ」

背中に突き刺さる彼女の冷ややかな非難に、カノープスは思わず作業の手を止め、深々と頭を下げた。

「……組織の不手際、誠に面目ございません」

「ふん。まあ、カノープス君のせいじゃないからいいんだけどね」

スピカは小さく笑うと、すぐに気持ちを切り替えた。

水槽は少し高い位置にあり、枠から外すには微妙な角度調整と踏ん張りが必要だった。

「スピカさん、念のため下から足場を支えておいていただけますか」

「うん、任せて!」

スピカが快く返事をしてスチール棚を両手で固定したのを確認し、カノープスは再び水槽の分析に入った。

水槽はその自重によって外枠のバリにガッチリと噛み込んでいる。だが、ほんの一瞬、上方に向けて爆発的な力を加えれば、噛み合わせを外して一気に引き抜けるはずだ。

(瞬間的に身体能力を限界突破させる、"気合い"のスキルを完全に制御して発動させれば――よし、今だ)

カノープスが脳内で完璧な物理計算を終え、体内のエネルギーを集中させた、まさにその刹那。

足場を支えていたスピカが、ふと思いついたような、純粋で無邪気な疑問を彼に投げかけた。

「――ねえ、あのさ。カノープス君自身は、その『惚れ薬』って使ったことあるの?」

「っ!?!?!?」

よりによって、過去の最大級の黒歴史トラウマをピンポイントで抉るような質問だった。

あまりの動揺に、カノープスの脳内計算は一瞬で消し飛び、発動しかけていた"気合い"のスキルが派手に暴発した。

――ガガガガッ、バシャァァァァァン!!!

上方に「優しく」加えるはずだった衝撃力は、リミッターを解除された怪力となって水槽を直撃した。水槽は派手に跳ね上がり、中の水ごと完全にひっくり返った。

そして、その真下にいたカノープスとスピカの頭上へ、容赦なく生臭い大量の水が降り注いだ。

「「…………」」

一瞬の静寂。

二人は頭からつま先まで、絵に描いたようなずぶ濡れになって立ち尽くしていた。コイイモリとミゾミミズが泳いでいた水は、独特の、なんとも言えない水生生物特有の生臭さを放っている。

カノープスはあまりの失態に、顔を真っ白にして震えた。

「ご、ごめん……完全に自分のコントロールミスです……スピカさん、本当に申し訳ない……」

スピカは、自分の前髪からポタポタと滴る生臭い水を手のひらで拭いながら、死んだような魚の目でカノープスを見つめた。

「あー……。うん……そーね。私が……変なところで、変な質問をして声をかけちゃったのが悪かったわね。うん……」

なんとも言えない、完全に魂の抜けた返事をするスピカ。

そこに、一部始終を見ていた部長のサムが、おずおずといった様子で後に続いた。

「オ、オーノー……なんていう大惨事だ。でも、怪我の功名というか、おかげさまで水槽は完全に外枠から外れたよ! ありがとう!」

サムは申し訳なさそうに、近くの棚から大きなバスタオルを二枚引っ張り出して二人に手渡した。

「あとは僕たちで片付けるから! 生徒会の方々は、その……かなり生臭いし、風邪をひくといけないから、今すぐ共同のシャワー室へ行って洗い流してきておくれ!」

「……はい」

「……分かりました」

タオルを受け取った二人は、お互いに一言も口をきけないまま、トボトボとした足取りで学園のシャワー室へと向かうのだった。

ep.23いかがだったでしょうか?

次回!エッチな展開になると思う人!

貴方も好きねぇ。

お楽しみに。

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