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ご先祖様が聖女様かどうかも疑わしい私が王子様達の獲物にされてます。  作者: クワトロばなな


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シャワー室の告白

その頃、後輩くノ一のハダルは、カノープスの姿を追い求めて魔法生物部の展示現場を訪れていた。

「あのー……お取り込み中すみません。カノープス先輩がこちらに来ていると生徒会室で伺ったのですが……」

散らかった室内を片付けていた部員たちにハダルが声をかけると、部長のサムが雑巾を片手に振り返り、なんの気なしに答えた。

「ああ、カノープス君なら、さっきスピカ君と一緒にシャワー室へ向かったよ」

「――えっ?」

ハダルの動きがピタリと止まった。

(先輩が……スピカさんと、二人で、シャワー室……?)

ハダルは胸の奥をキリキリと締め付ける妙な胸騒ぎを感じながら、弾かれたようにシャワー室へと足を向けていた。

一方、そんな修羅場が迫っているとは露知らず、カノープスとスピカの二人は、一言も交わさぬままトボトボと廊下を歩いていた。

頭から滴るミゾミミズとコイイモリの水は、歩くたびに鼻を突く生臭さを放っている。

(……水槽の水は、作業の前にあらかじめ掻き出しておくべきだった。完全に自分の失策だ)

カノープスは己の手際の悪さと、何より守るべき対象であるスピカをこんな最悪なトラブルに巻き込んでしまった現状を、影の薄い背中で深く深く反省していた。

だが、それと同時に彼の頭を占めていたのは、ハダルのことだった。

スピカへの想いに決別を告げるにあたり、ハダルの存在をどう切り出すべきか。それをあれこれと思案しているうちに、二人はいつの間にか学園の共同シャワー室の前までたどり着いていた。

「……あのー、カノープス君。レディーの入り口はこっちなんだけど」

「はっ!?」

スピカの呆れたような声に、カノープスは跳び上がって我に返った。見上げれば、自分がまさに足を踏入れようとしていたのは「女子更衣室」の暖簾だった。

「す、すみません……!」

カノープスは完全に心ここにあらずといった様子で、ロボットのように硬い返事をして隣の男子更衣室へと逃げ込んだ。

しかし、更衣室に入って服を脱ぎ始めても、カノープスの思考の迷路は終わらなかった。

(ハダルに誠実であるために、まずはスピカさんに自分の口から気持ちを伝えて、全てをはっきりさせなければならない。……だが、一体どう言えば……)

そんな不器用な男の思案を乗せて、カノープスは脱衣を終え、シャワーの蛇口をひねった。

実は、スピカはカノープスよりも一歩早く更衣室を抜け、誰もいない静かな女子シャワー室へと入っていた。

身につけていたものをすべて脱ぎ去り、さあ、この生臭い水を早く洗い流そうとシャワーの蛇口に手を伸ばしかけた――まさに、その瞬間のことだった。

薄い壁を隔てたすぐ隣の男性用シャワー室に、カノープスがバタバタと入ってきた気配に気づいた。

(あ、そうだ……ここのシャワー室、男女の境界の壁がめちゃくちゃ薄いんだったわ……)

スピカは心の中で小さく不満の愚痴をこぼした。

(っていうかカノープス君、普通はレディーが使い終わってから入るものでしょーに。お互いの音が丸聞こえになっちゃうじゃない。もう、男の子ってこれだから……)

その時、ぼんやりと思案に暮れていたカノープスもまた、すぐ隣から聞こえる衣擦れの微かな余韻と気配で状況を察知した。

(あ……スピカさんも、今まさに隣のシャワー室にいる……)

壁一枚隔てた向こう側で、これからシャワーを浴びようと完全に無防備な裸体でいるスピカ。

その事実を脳内補完してしまった瞬間、カノープスの純情な精神に凄まじい負荷がかかった。何とも言えない羞恥と緊張が全身を駆け巡り、心臓が爆音を立て始める。

しかし、極限状態に陥った忍者の思考は、なぜか恐ろしい方向へと舵を切った。

(待てよ……誰もいない、まだ水の音さえしないこの静寂な閉鎖空間。お互いの顔も見えないこの状況こそ……スピカさんに想いを告白し、決別を告げる最大のチャンスなのでは……!?)

それは、常人には到底理解できない「吊り橋効果」のバグだった。

カノープスは全細胞の勇気を振り絞り、ゴクリと唾を飲み込むと、薄い壁の向こうにいるスピカへと声を張り上げた 。

「――スピカさん! 僕の話を、聞いてもらってもいいですか!?」

静まり返ったシャワー室に響き渡った、突然の、あるいは異様な緊迫感を孕んだ問いかけ。

壁の向こうで、まだお湯にも触れていなかったスピカは思いきり戸惑った。

(えっ!? なに!? なんでカノープス君、このタイミングで話しかけてきたの!? っていうか、こっちもそっちも今完全にスッポンポンよ!? 恥ずかしすぎるわ!!)

スピカは顔を真っ赤に染め、戸惑いからか細くなった声で、必死の抵抗を試みた。

「あのー、ねえ、カノープス君。……そのお話、シャワーを浴びた後じゃダメかなぁっ!?」

「――ッ!!」

スピカのその至極真っ当な一言が、カノープスの脳天を直撃した。

その瞬間、青年の顔は爆発したかのように赤面へと変わった。

(自分は……一体全体、何をしようとしていたんだ……!?)

冷徹な忍者としての理性が、一気に引き潮のように戻ってくる。

場所も、タイミングも、相手の都合も、現在の衣服の有無さえも無視して、自分は独りよがりに何を語ろうとしていたのか。

自分のスピカへの過去の想いを、あるいはハダルへのこれからの誓いを、今この状況でスピカに話したところで何になるというのだ。自分は胸の内をぶちまけてスッキリするかもしれないが、まだシャワーを浴びてもいないスピカにとっては「今全裸で聞く話じゃない」どころか、ただただ大迷惑で心を乱されるだけではないか。

(これは……自分が満足したいだけの、あまりにも身勝手なエゴだ……!)

スピカへの想いは、誰に告げるでもなく、この胸の奥に静かに墓を建てて隠せばいい。ただこれから、ハダルに対して誠実に、真っ直ぐに向き合えば、それだけで良いはずなのだ。

カノープスは自分の浅はかさと恥ずかしさのあまり、更衣室の床に頭をめり込ませたい衝動に駆られながら、消え入りそうな声で壁に頭を押し付けた。

「……あの、その……大変申し訳ありませんでした。今のことは、どうか、忘れてください……!」

壁の向こうで、スピカは伸ばした手の形のまま虚空を見つめて固まった。

(えっ……? 『忘れてくれ』って……何それ……!?)

「話を聞いてくれ」からの「やっぱり忘れてくれ」。

まだ一滴のお湯も浴びていない極限状態も手伝って、スピカの好奇心とモヤモヤ感は一瞬で限界値を突破した。

(いやいやいや! 逆にめちゃくちゃ気になるんですけど!! 何を言おうとしたのよカノープス君ーーー!!)

悶々とした理不尽な怒りに駆られながら、スピカは勢いよくシャワーの蛇口を捻り、勢いよく溢れ出た温かいお湯の嵐で、己の雑念を力任せに洗い流そうとするのだった。

ep.24いかがだったでしょうか?

次回こそ!エッチな展開になると思う人!

そんな君!嫌いじゃないよ。フッ。

お楽しみに。

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