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ご先祖様が聖女様かどうかも疑わしい私が王子様達の獲物にされてます。【第一部完結済み 26話(忍者失格)まで】  作者: クワトロばなな


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第四部 第28話:撤退訓練と、空の上の密着作戦

【賢者の書】に『ep.117』が刻まれてから25日目。


空からの厄災発生予想日まで、いよいよあと3日――。


本日は、シャオハイユ救出作戦における重要工程――「総員撤退訓練」の日である。

最終防御ラインに指定された、シャオハイユ南壁。


地上から高さ十五メートルにも及ぶ頑丈な石造りの城壁の上に立ち、スピカは眼下に広がる街並みを見下ろしていた。


人っ子一人いなくなったシャオハイユの街は、どこか寂しげで、静まり返っている。


しかしそこには、住人たちが長年積み重ねてきた生活の匂いや、温かな歴史がしっかりと残されていた。


(……私たちが守らなきゃいけない、大切な街……)


もし、津波の防衛に失敗してしまえば、多くの人々が思い出の詰まった家や財産を瞬く間に失うことになってしまう。


自分に与えられた役割は、第一聖女候補としての「防御壁結界」の展開だ。自分の責任はあまりにも重い。けれど、避難した住人たちが再びこの街へ笑顔で戻ってこられるよう、できる限りのことを尽くしてあげたい――。


スピカが新たな決意を胸に宿し、ぐっと拳を握りしめて意気込んでいると、すぐ近くから何やら穏やかではない言い合いが聞こえてきた。


「……シリウス王子。そういうのは“抜け駆け”と言うんじゃないか?」


不満げに眉をひそめているのは、ロメーダ帝国の頂点に立つレグルス皇帝だ。


その視線の先に立つミルキーウェールズ第一王子シリウスは、涼しげな笑みを浮かべたまま、少しも臆することなく返答していた。


「とんでもございません。ミルキーウェールズ陣営における人員の避難計画は、こちらで責任を持って策定したまで。総指揮官であるレグルス殿のお手を煩わせるわけには参りません」


「ふん、白々しい。要するにスピカ殿を己の魔法陣に乗せたいだけだろう」


「国主たる貴方が、わざわざ他国の聖女候補の送迎にまで気を配る必要はないと言っているのです」


(((えっ、私を誰の飛行魔法で運ぶかで揉めてるの……!?)))


優雅な微笑みの裏でバチバチと激しい火花を散らす二人を見て、スピカは引きつった顔で後ずさった。


なお、スピカを巡る男たちの攻防が繰り広げられるその横では、もう一つのドラマ(?)が生まれていた。


「ベガさん! 貴女の身は是非とも俺が、この赤髪のジョニーが命に代えてもお守りします!」


熱烈にアピールしているのは、メレンヘア学園の赤髪ジョニーだ。


しかし、第二聖女候補のベガは困ったように頬に手を当て、やんわりと微笑んだ。


「ありがとう、ジョニー君。そうやって言ってもらえるのはとても嬉しいけれど……私はもう、デネブ書記官にお願いすることになっているの。またの機会にね」


「ガーーーン!?」


あっさりと、しかし完璧に断られてショックで石化するジョニー。そんな彼の肩を、後ろからポンと優しく叩く者がいた。メレンヘア学園校長のドン・ウイリーである。


「ジョニー君……私のこと、よろしく頼むね?」


「校長先生えええええっ……!!」


ジョニーの悲壮な叫びが城壁の上に虚しく響き渡った。


一方、スピカを巡る王子同士の争いは一向に決着がつく気配がなかった。


「えーい、シリウス君! ここは公平に行こうじゃないか! 一国の皇帝たる余と、王国の第一王子、条件は等しいはずだ!」


引き下がる気配の全くないレグルスに対し、シリウスは一瞬だけ呆れたように息を吐くと、提案を持ちかけた。


「……分かりました。では、もっとも公平で崇高な方法で決着をつけましょう。『ジャンケン』で」


「よし! 望むところだ!」


大陸の未来を担う二人の最高権力者が、至極真面目な顔で向かい合う。


「「ジャン・ケン……ポン!!」」


レグルスが出したのは『パー』。シリウスが出したのは『チョキ』。


「……僕の勝ちですね」


「ぬぅぅ……っ!!」


見事な勝利を収めたシリウスが、フッと満足げな笑みを浮かべてスピカの元へと歩み寄ってきた。負けたレグルスは悔しそうに歯噛みしながら、苦々しい表情で二人を見つめている。


こうして、各人員の避難割り当てが正式に確定したのだった。


今回の撤退計画において、ウィザードたちが展開する飛行魔法陣は、その魔力容量によって運搬可能人数が分かれている。


大型の飛行魔法陣を展開可能なのは、デネブ書記官と魔法庁のエリートであるアルビレオの二人。彼らは自分以外に「三名(計四名)」の避難要員を運ぶことができる。


中型の飛行魔法陣を展開可能なのは、魔法学園ゼンビヤのメアリーとジョーンズ、そして魔法庁の女ウィザード・イマイの三人。彼女たちは自分以外に「二名(計三名)」の運搬が可能だ。


そして、小型の飛行魔法陣を展開するのが、赤髪ジョニーとシリウス王子。彼らは自分以外に「一名(計二名)」を運ぶ役割を担う。


まとめられたミルキーウェールズ陣営の避難要員割り当ては、以下の通りとなった。


【デネブ班】(4人乗り):デネブ、アルタイル、ベガ、ルスカ

【アルビレオ班】(4人乗り):アルビレオ、デルバ、ヴィンデミア、ザニア

【メアリー班】(3人乗り):メアリー、オリバー、ハダル

【ジョーンズ班】(3人乗り):ジョーンズ、カノープス、シャーロット

【イマイ班】(3人乗り):イマイ、ベクルックス、シーパラ

【ジョニー班】(2人乗り):ジョニー、ドン・ウイリー

【シリウス班】(2人乗り):シリウス、スピカ


「さて……スピカ、準備はいいかい?」


振り返ると、いつの間にかスピカの真後ろにシリウスが立っていた。


吐息が届きそうなほどの至近距離に、スピカの胸がどきんと跳ね上がる。心臓の音がうるさいほどに脈打ち、顔が一気に熱くなっていくのが自分でも分かった。


シリウスは優しく微笑むと、スピカの耳元で静かに囁いた。


「緊張しなくていいよ。気持ちを楽にして……視線は遠くを見てごらん」


「は、はい……っ」


その時、演壇の中央からレグルス皇帝の重々しい号令が城壁全体に響き渡った。


「――全ウィザード、魔法陣展開!」


号令と同時に、各ウィザードたちの足元から鮮やかな光の紋様が浮かび上がった。


シリウスの足元からも、美しく輝く青白い魔法陣が勢いよく広がり、二人を包み込んでいく。


次の瞬間、シリウスが背後からそっと両手を伸ばし、スピカの細い腰に腕を回した。


「……僕の腕に捕まって」


「あ……っ」


背中に触れるシリウスの体温。耳元で聞こえる低く甘い声。


ドギマギしながらも、スピカは自分の腰に回されたシリウスの力強い腕に、そっと自分の両手を重ねた。


「――総員、退避っ!!」


レグルスの決断の号令が下った。


瞬間、浮遊感とともに青白い魔法陣が一斉に城壁を離れ、大空へと躍り出た。


浮き上がる反動と同時に、シリウスは腕の力を強め、スピカの体を後ろからギュッと強く抱きしめた。


「きゃっ……!?」


背中にしっかりと伝わる、シリウスの鍛え上げられた胸板の感触。


包み込まれるような安心感と強烈な密着感に、スピカの頭の中は真っ白になりそうだった。


一気の加速とともに、二人は風を切って空高く上昇していく。


街並みがみるみるうちに小さくなっていく中、耳元でシリウスがぽつりと呟いた。

「……ずっと、こうしていたい……」


「〜〜〜〜〜〜っ!?」


あまりにも甘く、本気の籠もった囁きに、スピカの顔は爆発しそうなほど赤く染まった。


眼下には、陽光を受けて輝くシャオハイユの街並みが広がり、その向こうには青い海がどこまでも続いている。


二人を乗せた青い光の魔法陣は、流星のような軌跡を描きながら、一次退避先である「ニータイザンの砦」を目指して大空を駆け抜けていくのだった。

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