第4部 第26話 イケメン司祭と、エロ聖女の証明
【賢者の書 ep.117 発生から24日目 ―― 厄災発生予想日まで、あと4日】
ミルキーウェールズ一行を乗せた最新鋭の高速船は、静かにシャオハイユの船着場へと接岸した。
作戦に必要な莫大な物資と人員を下ろすと、船は津波による破壊を避けるため、すぐさま遠く離れた安全な港に向けて再出航していく。
船着場に残り、沖へ遠ざかっていく船を涙ぐみながら見送る人物が一人。
名門ガンデッシュ家の令嬢、シャーロット少尉である。
「……私の可愛い、赤ワイン、白ワイン、シャンパン、ウイスキー……っ。しばしの……しばらくのお別れね……っ!!」
(※船内に預けたまま密輸を阻まれた愛酒たちである)
そんな無駄にセンチメンタルなシャーロットお姉さんをよそに、一行は手際よく荷物を馬車へと積み替え、南門からシャオハイユの街へと足を踏み入れた。
一般住民の避難は既に完了しており、各国の救援組織や軍関係者の行き来を除けば、この巨大な城塞都市は不気味なほどの静寂に包まれていた。
嵐の前の静けさと、戦闘準備の喧騒が入り混じる独特の空気感の中、一行は割り当てられた大型宿泊施設へと到着した。
◇
広々とした宿泊施設のロビー。
荷物の搬入を見守りながら、スピカは隣に立つハダルへこっそり耳打ちした。
「……ハダルちゃん。ちょっと前から気になってたんだけど……あの方、すごく素敵じゃない?」
「……実は私も、船で見かけた時から少しそう思っていました」
ハダルも珍しく即座に同意する。
二人の視線の先に立っていたのは、ミルキーウェールズ司祭でありアークプリーストのベクルックスであった。
長身に仕立ての良い上質な法衣を纏い、さらりと揺れる銀髪。銀縁の眼鏡の奥からは、知的でミステリアスなグリーンの瞳が覗いている。
「……お年は20代後半くらいかしら?」
スピカの呟きに、少し離れた場所にいたヴィンデミアの護衛・ザニアまでもが「ふむ」と聞き耳を立てて深く頷いていた。
すると――スピカたちの視線に気づいたのだろうか。
ベクルックス司祭がふっと優しく微笑み、こちらへとゆっくり歩み寄ってきた。
「えっ、どうしようハダルちゃんっ、こっち来るよ!?」
スピカ、ハダル、ザニアの三人が思わず緊張でカチコチに固まる。
……しかし、ベクルックスは固まる彼女たちの横をすっと通り過ぎ、その奥にいた第二聖女候補ベガの前で足を止めた。
「……お久しぶりですね、ベガお嬢様」
ベガもまた、少し懐かしそうな、けれど気恥ずかしそうな笑みを浮かべて応じた。
「お久しぶりです……ベクルックス先生」
(((((ベ、ベクルックス先生ーーーーーっ!?!?)))))
スピカ、ハダル、ザニアの脳内で衝撃の叫びがハモった。
【シャオハイユ救出作戦・タイムスケジュール】
・1日目(本日)夕刻:シャオハイユ大議事堂にて最終作戦会議
・2日目:津波防衛不可時を想定したアークプリーストおよび要員の避難訓練
・3日目〜厄災発生:最終調整および総員配置完了、各自待機
シャオハイユ初日となる本日は、夕刻の最終会議まで各自宿泊施設での待機となった。
今回は「対津波」という特殊作戦ゆえに護衛の人数が極力絞られており、宿泊部屋の割り当ても特殊な形となっていた。
結果として、スピカ、ベガ、ヴィンデミアの聖女候補3人が豪華なスイートルームで同室となり、護衛としてハダル、ザニア、シャーロットの3人が同居する形となったのである。
部屋に入り、豪華にしつらえられたクローゼットで荷物の整理を始めたベガ。
その背後から、スピカがすーっと寄ってきて、上目遣いで問いかけた。
「あのー……ベガ様ぁ? ベクルックス先生とは、一体どのような『ご関係』なのでしょうか……?❤️」
背後で聞き耳を立てていたハダルとザニアも、待ってましたと言わんばかりに身を乗り出してくる。
ベガは引きつった顔で三人を見返し、呆れ交じりに答えた。
「……昔、我が家に家庭教師として来ていただいていた先生よ。……随分とお世話になったわ。まあ、その頃は彼に少し憧れていた時期もあったかもしれないけれど」
(((((か、家庭教師の先生とのお噂ーーーーっ!!!)))))
三人分の心の叫びが再びハモる。
第一聖女候補スピカは、頬をぽっと赤く染め、モジモジと指先を絡めながらさらに追撃した。
「あのー……そのー……俗に言う『禁断の関係』というやつですか……!?❤️」
ついにベガの忍耐の限界が突破した。
「――あんたら私を何だと思っているのよっ!! その無駄な想像力を他に使いなさい!! このエロ聖女っ!!」
ベガの怒声がスイートルームに響き渡った。
(……エロ聖女。……全くもって矛盾した言葉なのでは……?)
少し離れたソファーで静かに本をめくっていた第三聖女候補ヴィンデミアは、感情を露わにするベガと、怒られてもどこかうへへと笑っているスピカを見つめながら、心の中で冷静にツッコむのであった。
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