第四章・第24話:特別の重みと、等身大の少女
防御壁展開訓練が終了し、慌ただしく撤収作業が進む訓練場。
その喧騒から少し離れた場所で、第3聖女候補ヴィンデミアはぽつりと一人、佇んでいた。
どこか思い詰めたような背中に、スピカがトコトコと歩み寄って声をかけた。
「ヴィンデミアちゃん、どうしたの?」
スピカの声に振り返りながらも、ヴィンデミアの脳裏には先ほどデネブが放った言葉が重くこだましていた。
(……あの子は特別なのよ……)
幼少の頃から非凡なアークプリーストとしての才能を発揮し、「未来の聖女」と周囲からもてはされ続けてきた自分。
世界を救うべき存在としての重責も、覚悟も、常に背負い続けてきたという自負があった。自分こそが「特別な存在」なのだと疑わなかった過去。
――だが、目の前に現れたのは、そんな自負や積み重ねてきた努力を易々とひっくり返してしまう、ごく普通の少女だった。
努力や研鑽では到底届かない、常識を遥かに超えた圧倒的な実力差。
そんな「真の特別な存在」が、自分と同じ聖女候補として目の前に立っているのだ。
ヴィンデミアは、まっすぐなサファイアブルーの瞳でスピカを見つめ、静かに尋ねた。
「……スピカさん。あなたは今回のシャオハイユ救出作戦……一体どんなつもりで臨んでいるの?」
「え……?」
スピカは予期せぬ問いに驚き、少し眉を下げてうーんと頭を悩ませた。そして、ゆっくりと自分の言葉を紡ぎ出す。
「ううん……私はね、自分が出来ることを精一杯やるだけかな」
「……出来ることを、精一杯?」
「うん。クラーケン退治の時もそうだったでしょう? 私一人の力だけじゃ、あんな怪物は絶対に倒せなかったわ。」
「レグルス皇帝が凄まじい指揮をとってくれて、ウィザードのみんなが海を氷にして、プリーストのみんなで港を守って……」
「シリウス王子や騎士様、忍者のみんなが勇気を出して戦ったの。みんなが、それぞれの『出来ること』を精一杯やったからこそ、あの巨大な怪物を倒せたんだって、私は思うの」
スピカは優しい笑みを浮かべ、自身の胸にそっと手を当てた。
「だから今回も同じ。私は、私に出来ることを精一杯やるだけだわ」
「……自分が出来ることを、精一杯……」
ヴィンデミアは、スピカの言葉を噛みしめるように呟いた。
胸の中に渦巻いていた暗い霧が、すうっと晴れていくような感覚がした。
そうか……役割の大きい、小さいなんて関係ないのだ。他者と比べて己の不甲斐なさに打ちひしがれる必要など、どこにもなかった。
自分に課された役割を全うし、自分に出来ることをただただ尽くせば良い。その積み重ねの中にこそ、自分にしか果たせない何かが絶対に存在するはずだ。
呆然としていたヴィンデミアの瞳に、誇り高き気高い魂の光が力強く蘇った。
「……そうね。スピカさん、私達で絶対にシャオハイユの町を助けましょう!」
「うん! 一緒に頑張ろうね!」
スピカも嬉しそうに頷いた。
――と、そこまで力強く返事をした直後。スピカは急に頬をぽっと赤らめ、指先を絡めながらモジモジと身体を揺らし始めた。
「あ……あのね、ヴィンデミアちゃん。私も……ひとつ聞いてみたいことがあるんだけど……」
誇りを取り戻したばかりのヴィンデミアは、少し首をかしげた。
「なにかしら?」
「え、えっとね……言いにくかったら、全然言わなくてもいいんだけどね……?」
スピカはチラチラと視線を泳がせながら、意を決したように尋ねた。
「……ヴィンデミアちゃんと、レグルス皇帝陛下って……一体どういうご関係なの……!?」
(((……えっ??)))
世界中が期待を寄せる「規格外で特別な少女」は、いざ術法を解けば、どこにでもいるごく普通の恋する少女だった。
拍子抜けするような甘い問いかけに、ヴィンデミアは思わず呆気にとられてしまうのだった。
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