第四章・第22話:密着の帰還と、山積みの準備
ナスティーヤ王女から正式にテレポート(転移魔法)の使用許可を得て、カノープスとデネブは直ちにミルキーウェールズへの帰国準備に入った。
転移魔法――それはエキティカ大陸全土を見渡しても、ごくわずかな天才と呼ばれるアークウィザードしか扱えない超高等魔法である。一人を同伴させるのが限界であり、空間を固定するための小さな魔法陣の中に、二人はかなり密着して収まらなければならなかった。
魔法陣の中心で、カノープスは必然的にデネブに抱きつくような格好となった。
密着した身体から伝わる熱量に、デネブはピクッと眉を揺らし、すかさずカノープスへ釘を刺した。
「……カノープス庶務! 変なところ触るのも、変なこと考えるのも禁止ですからね!」
「触りませんし考えませんっ!」
反射的に言い返したカノープスも、至近距離で見つめ返してきたデネブも、互いに顔を真っ赤に染め上げた。デネブは上気した頬を誤魔化すように、すぐさま呪文を詠唱する。
「――『テレポート(転移魔法)』!」
光の柱が立ち昇り、目の前で瞬時に姿を消した我が子たちの残光を見送りながら、取り残されたゼダルはポツリと呟いた。
「……ふむ。役得だな、カノープス」
◇
一瞬、頭の中が真っ白になるような感覚の後、視界が明転した。
気がつくと、そこは見慣れたメレンヘア学園の生徒会室であった。
目の前には、豪華な椅子に深々と腰掛け、腕を組んで二人を迎える第一王子・シリウスの姿がある。
デネブは慌ててカノープスから身体を引き剥がすと、乱れた衣服と体裁を素早く整え、凛とした佇まいで姿勢を正した。
「殿下、只今戻りました! 全権使節ゼダル卿の見事な働きにより、レーシア王国を取り込むことに成功いたしました!」
シリウスは安堵の表情を浮かべ、二人へ労いの言葉をかけた。
「二人とも、本当によくやってくれた。ゆっくり休んでくれ……と言いたいところなのだが、色々と準備が山積みでな。早速、力を貸してほしい」
「「心得ました!」」
ミルキーウェールズの頭脳と称される二人は、息を合わせて力強く返答した。
――と、そのやり取りを、部屋の隅からハダルとスピカがじーっと見つめていた。
ハダルがトコトコと歩み寄ってくると、カノープスの隣でぽつりと呟いた。
「……カノープス先輩。デネブ先輩と、随分と密着されていましたね?」
カノープスは冷や汗を流しながら必死に弁解する。
「ち、違うんだハダル君! これはテレポート移動のために仕方のない体勢だったんだよ!?」
ハダルは静かな瞳でカノープスを見つめ、淡々と返す。
「わかっています。ただ……この前ミラさんに抱きつかれていた時と、全く同じようなお顔をされていたので、少し気になっただけです」
「((ギクッ!!)))」
「私も作業がありますので、これで失礼します」
ハダルはそれだけ言い残すと、くるりと背を向けて去っていった。
(絶対まだ怒ってるーーーっ!?)
滝のような冷や汗をかくカノープスに、シリウスがどこか申し訳なさそうに声をかける。
「……カノープス中尉、早速だが仕事を頼んでもいいかな?」
「は、はいっ!」
ハダルの機嫌を気に病みつつも、カノープスはシリウスが机の上に広げたシャオハイユ周辺の地図へと視線を落とした。……だが、ふと隣を見ると、シリウスをじっと情熱的な瞳で見つめるデネブの視線も気になってしまい、カノープスの胃は痛むばかりだった。
◇
ミルキーウェールズから決戦の地・シャオハイユまでは、船を使っておよそ4日の行程。
【賢者の書】に『ep.117』が刻まれてから13日目。
空からの厄災発生予想日まで、あと15日――。
シャオハイユへの現地集合日時は、11日後。
ミルキーウェールズ本国で残された準備期間は、あとわずか一週間であった。
防波堤の構築確認、聖女候補たちを含むプリースト陣の防御結界構築サポート、対策総員の訓練計画、そして未知の怪物に対する戦闘想定。さらにはそれらに必要な膨大な物資と人材の確保……なすべき作業は山ほどあった。
慌ただしく資料を整理しながら、カノープスはふと足を止め、自分の記憶を振り返った。
(……あれ? 僕って今回のレーシア外交遠征で、一体何をしてたんだっけ……?)
親父にいじられ、デネブ先輩に抱きついて帰ってきた記憶くらいしか思い浮かばず、自分自身の不憫な貢献度に一人ひっそりと白目を剥くカノープスであった。
ページ下部の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると励みになります!」
ブックマークも大歓迎!!お願いします。




