第四部 第21話:氷の女帝との駆け引きと、二度目のテンプレ
「氷の女帝」と恐れられる第一王女ナスティーヤ=ノマロフの放つ圧倒的なオーラの前に、カノープスが思わず気後れしていた――その時である。
隣に並ぶ父親であり、使節団長を務めるゼダルが、微塵の気後れも見せることなく極めて滑らかに、そして堂々たる平伏の姿勢から言葉を切り出した。
「ナスティーヤ王女殿下におかれましては、ご多忙の折、このようにお目にかかる機会を賜り、心より光栄に存じます」
ゼダルは慇懃に頭を下げたまま、朗々とその声を響かせる。
「公務とはいえ……エキティカ大陸におきましても『その美貌において右に出る者はいない』と噂されるナスティーヤ王女殿下との拝謁が叶いましたこと、このゼダルにとって僥倖と言わずして何でありましょうか」
その言葉を聞いた瞬間、控えていたカノープスとデネブの脳裏に同じツッコミが駆け抜けた。
(((その言い回し、船の上で聞いたやつーーーーっ!?)))
(((テンプレかーーーーい!!)))
心の中で激しくずっこける二人であったが、当のナスティーヤはいたくご機嫌な様子で、唇を小さく綻ばせてゼダルを見下ろした。
「ふふっ……ゼダル、お主なかなか面白い男よのう。……して、本日の用件は何であるかな?」
「はっ。申し上げます。エキティカ聖女機構についてでございます」
ゼダルは表情を引き締め、核心へと切り込んだ。
「最近、ロメーダ帝国よりレーシア王国に対し、何らかの働きかけがあったと推察いたしますが……帝国の提示してきた条件は、如何ようなものでございましたでしょうか?」
ナスティーヤはアメジストの瞳を薄め、静かに答えた。
「……帝国からは、『シャオハイユの厄災が過ぎ去った後、聖女候補を機構本部(帝国首都アルメキオン)に留置する』という議題を出すゆえ、賛成票を投じるよう打診があったわ」
「見返りは……如何ほどで?」
「国境付近にある魔法石鉱山の共同開発じゃ。ミドルドアとの結託もあるゆえ、我が国もその申し出に賛同しようかと思っていたところじゃな」
ゼダルの眼光が鋭く光る。
「ナスティーヤ王女殿下におかれましては、帝国の申し出をお断りいただき、こちら――『聖女候補を出生地に留めておく方針』に2票を投じていただきたく存じます。その見返りといたしましては……我が国の友好の印に、エキティカ随一の造船技術を誇るミルキーウェールズより、最新鋭の大型船舶2隻を無償進呈いたしまする」
一瞬の沈黙。ナスティーヤは愉快そうに口元を釣り上げた。
「……良いでしょう。ミルキーウェールズの申し出、お受けしよう。元より、何から何までロメーダの思い通りになるのは気に食わなかったところじゃ」
北の覇者は扇を優雅に揺らしながら言葉を継いだ。
「ミドルドアも同じ思いであろうが……あの国は今回の津波でロメーダに大きな借りができるゆえ、賛同せざるを得まい。ミドルドアへは妾から上手く説明しておこう。それに、クラーケンが倒された今、これからは海の時代じゃ。船は一隻でも多く欲しい。……何より、ミルキーウェールズが我が国を重く見て、ゼダルのような優秀な者を遣わしてきたことが嬉しいではないか」
「ありがたきお言葉、恐悦至極に存じます」
見事に極秘交渉を成立させたゼダル。……しかし、またしてもこの男は余計な一言を付け足した。
「……時に、話を少し変えますが。ナスティーヤ王女殿下は良き伴侶をお探しとお聞きしております。……ここに居ります我が家の愚息など、如何でございましょう?」
カノープスが「またか!」と凍りつくなか、ナスティーヤは冷たい視線を投げかけた。
「……その者、面を上げよ」
カノープスは恐る恐る顔を上げた。
ナスティーヤはカノープスを一瞥するやいなや、即座にぽつりと呟いた。
「……それは遠慮しておこう」
(((これもテンプレかーーーーい!!!!)))
本遠征二度目の完璧な不採用通知に、心の中でのツッコミが全く止まらないトップエージェント・カノープス中尉であった。
ページ下部の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると励みになります!」
ブックマークも大歓迎!!お願いします。




