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ご先祖様が聖女様かどうかも疑わしい私が王子様達の獲物にされてます。【第一部完結済み 26話(忍者失格)まで】  作者: クワトロばなな


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第四部 第19話:朝の惨状と、シリウスの電撃外交

【賢者の書】に『ep.117』が刻まれてから8日目。

空からの厄災発生予定日まで、あと20日――。


翌朝。ベガによる鉄壁の検問がようやく解かれ、スピカは警護のレンジャーSPを伴ってスイートルームを出ると、迎賓館の広いロビーへと降りていった。


だが、階段を下りきったスピカの視界に飛び込んできたのは、あまりにも凄惨(?)な光景だった。


ソファーの中央で精根尽き果てた顔をしているカノープス。そして、その両脇には一晩中ピッタリと腕を抱え込み、逃亡を阻止し続けていたハダルとミラの姿。


力なくスピカに気づいたカノープスが、瀕死の低音で挨拶を送ってくる。


「……お、おはようございます。スピカさん……」


スピカの登場により、ようやく「停戦協定」を満了したハダルとミラがカノープスから手を離し、立ち上がって微笑んだ。

「おはよう、スピカちゃん」


目の前の惨状に、スピカは引きつった笑いを浮かべながら、一歩後ずさった。


(えっ……!? ちょ、ちょっと待って、朝までずーーーっとあの状態でいたの……!? カノープス君ってば、冴えない地味な顔して一体裏でどんな生活送ってるのよ……!?)


ドン引きの白い目を向けられたカノープスは、反論する気力すら残っておらず、ただただ天を仰ぐばかりであった。

◇

ロメーダ帝国での緊迫したサミットを終え、ミルキーウェールズ一行は早朝のうちに帝国を後にした。


一行は一度本国ミルキーウェールズへと戻り、防衛戦の準備を万全に整えた上で、決戦の地であるミドルドアのシャオハイユへと向かう手はずになっている。


ガタゴトと揺れる特等馬車の中。

一晩中の「生殺し」による深刻な睡眠不足に耐えながら、カノープスは同乗する父・全権使節ゼダルと、第一王子シリウスに向かって真剣な面持ちで切り出した。


「……シリウス殿下。ロメーダ帝国による『聖女機構』への裏の働きかけについて、至急対策を講じる必要があります」


カノープスは脳内で素早く票数を弾き出しながら、懸念を口にする。


「聖女機構における意思決定には、全7ヵ国の代表による多数決と、聖女の出身国――すなわち我がミルキーウェールズ王国の承認が必要です。仮にどちらかが否決した場合であっても、後日再投票が行われ、『全体の3分の2以上の可決(14票以上)』を得られれば決定事項となります。各国の持ち票は3票、全21票で争われるわけですが……」


カノープスは窓の外を見つめ、声を潜めた。


「もしロメーダ帝国が今回の津波被害を盾に取り、被災国であるミドルドアの代表を抱き込んだ場合……ロメーダ、リンデア、ミドルドアの3ヵ国で『9票』が確定します。さらに、現在ミドルドアと一時的な同盟関係にあるレーシアの票を取り込めば『12票』。そうなれば、ロメーダとレーシアの二大国に挟まれたソビヤ王国も保身のためにロメーダ陣営に寝返り、一気に『15票』に達してしまいます」


15票――可決ラインである14票を超える数字だ。このまま手を打たなければ、聖女機構の主導権は完全にロメーダ帝国の手へと落ちてしまう。


「可決を阻止するには、敵陣営と見られる票の中から最低でも『2票』を切り崩さねばなりません。そして……その鍵を握るのは」


カノープスが呟くと、シリウスが即座に反応した。


「……レーシアか」


シリウスは特等馬車の窓から、北の空を見上げた。軍事大国であり、独自のスタンスを貫くレーシア王国。


「決まりだな」


シリウスは躊躇することなく羊皮紙を取り出すと、その場で素早く直筆の書状を走り書きし、交渉に必要な破格の譲歩条件を書き加えていった。そして、印章を押すと鋭い手つきで指示を飛ばす。


「レーシア国内では緊急事態を除き、転移魔法(テレポート)の使用は法で厳しく禁止されている。ロメーダの国境を越えたら、デネブ書記の馬車へ移動せよ。カノープス中尉とゼダル全権使節は、明後日ミルキーウェールズの港へ向かい、海路二日でレーシアの港『ラジオドッグ』へ入れ。この書状を使って正式な入国許可を得るのだ」


シリウスの青い瞳が、的確に次の手順を刻む。


「そこから馬車で一日、レーシアの首都『レイシングラド』へ入り、レーシア上層部との極秘交渉を頼む。交渉成立後、カノープス中尉とデネブ書記はテレポートでメレンヘア学園へ緊急帰還。ゼダル全権使節は陸路と海路で帰国し、父上(国王)へ事後報告を頼む!」


「「御意!」」


……睡眠不足で朦朧とする頭の中、カノープスは密かに心の中で血の涙を流していた。


(昨夜……もしミラのハニートラップに引っかからずに済んでいれば、極秘裏にレーシアの外交官と接触できて、この過酷な移動工程を全部省略できたなんて……口が裂けても言えない……!)


表向きは冷静な顔を保ちつつ、自分の不覚(と昨夜の修羅場)を猛烈に後悔する、ミルキーウェールズ最強のトップエージェント・カノープス中尉であった。

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