表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ご先祖様が聖女様かどうかも疑わしい私が王子様達の獲物にされてます。  作者: クワトロばなな


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/23

学園祭前夜祭

陽光が優しく差し込むメレンヘア学園の生徒会室。学園祭を明日に控え、室内には前夜祭特有の、どこか浮き足立ったような活気と心地よい緊張感が満ちていた。

「会長は生き物に優しいのですね」

ふと、書類を整理していた編入生の少女、スピカ・マセットが感心したように呟いた。前回のトグへもんの鎖の件を思い返してのことだろう。

「ん?」

学園の頂点に君臨するプリンス、シリウス・ランスターが美形な顔をわずかに傾げた。

(……トグへもんの事か?)

彼が心の中でそう首を傾げているとも知らず、スピカはシリウスの頭上を見つめて目を輝かせている。

「何というお名前なのですか?」

「……僕は、シリウスだが?」

大真面目に自分の名前を答えたシリウスだったが、スピカの視線は彼の顔ではなく、そのさらに上へと注がれていた。

その疑問に答えたのは、室内の物陰からいつの間にか姿を現した生徒会庶務の少年だった。

「ケロ吉です」

カノープス・チュワートスが淡々と告げると同時に、シリウスの頭頂部から「ゲコ!」と小気味よい鳴き声が響いた。

「……っ!?」

シリウスの全身が硬直する。そっと頭の上に手をやると、そこには見事な緑色をした一匹の蛙が鎮座していた。

「カノープス君……なにかな、これは?」

引きつった笑みを浮かべるシリウスに、カノープスは表情一つ変えずに答える。

「ケロ吉は会長の頭が気に入ったようです」

「可愛い! ケロ吉君、よろしくね!」

スピカが目を輝かせてカエルに指を差し出す。シリウスは微妙な表情を浮かべたが、スピカの純粋な笑顔に毒気を抜かれたのか、溜息をついてそれを受け入れたところへ、副会長ルスカが割って入る。

「スピカ君! お遊びはそこまでだ。外来向け資料の作成を手伝ってもらえるか?」

「はい!」

スピカが背を向けたところをみて、シリウスは頭からケロ吉をそっと降ろした。

シリウスは全員に向き直り、改めて表情を引き締めた。

「学園祭まで日はない! 申し訳ないが、みんなにはもうひと頑張りしてもらう事になる。よろしく頼むよ!」

主の言葉に、ルスカが眼鏡の奥の瞳を頼もしげに光らせて頭を下げた。

「何をおっしゃいます。ここにいる者はみんな喜んで働いております。ご心配は無用です」

「ルスカ副会長ありがとう。それは頼もしいよ。……さて、当日は生徒会役員が生徒会室に常駐することにする。シフトを組んだので確認してくれ」

シリウスが提示した羊皮紙には、整った文字で以下のようなスケジュールが記されていた。

【学園祭当日・生徒会室常駐シフト】

• 09:00 〜 11:00 シリウス / スピカ

• 11:00 〜 13:00 カノープス / デネブ

• 13:00 〜 15:00 ルスカ / ベガ

• 15:00 〜 16:00(学園祭休憩時間) カノープス

• 16:00 〜 17:00(舞踏会第1部) シリウス / デネブ

• 17:00 〜 18:00(舞踏会第2部) シリウス / スピカ

(……えっ、会長と二人きり!?)

最初と最後の時間帯を見て、スピカの心臓がドクリと跳ねた。そんな彼女の動揺に気づく様子もなく、シリウスは穏やかな笑みをたたえて言葉を続ける。

- [ ] 「シフト以外の時間は、何か突発的な問題があればご足労願うけれど、基本的には自由時間だ。各自、学園祭を楽しんでくれたまえ」

ひとまず全員への通達を終えると、シリウスはスピカに視線を戻した。

「スピカ君! 今日は各出展希望施設の見回りをお願いするよ。一人で大丈夫かい?」

「はい、大丈夫です!」

「何か問題があれば、こちらに持ち帰っていいからね」

「はい、行ってまいります!」

スピカは資料を抱え、緊張と期待を胸に生徒会室を後にした。

まず最初にスピカが訪れたのは、屈強な生徒たちが汗を流す剣士(兵士)訓練施設だった。

「わあ……気合いが入ってる」

本番さながらの熱気に、スピカは思わず圧倒される。

(会計のベガさんの厳しい叱咤が効いたのかな?)

彼女のそんな推測は、あながち間違いではなかったようだ。近くにいた男子生徒にスピカが声をかける。

「何か問題はありませんか?」

「あぁ」

パンカイニーは汗を拭い、ニカッと笑ってスピカを見た。

「ベガ様につたえてくれないか? 『俺の最高を見せてやる』ってな!」

「ふふ、わかりました。伝えておきますね!」

ベガへの対抗心と憧れが入り混じったような言葉に、スピカは笑みをこぼしながら、次の施設へと向かった。

続いて訪れたのは、厳かで静謐な空気が漂うプリースト訓練施設。

「スピカ!」

中に入ると、親友のクレアが嬉そうに手を振って駆け寄ってきた。

「クレア! そちらは順調?」

「ええ、順調よ! 『守護の宝珠』作りで魔力を使いすぎちゃって、ちょっとくたくただけどね!」

クレアは手元で淡く光る美しい宝珠を自慢げに掲げた。

「これ、すごく便利なのよ! 一日1回しか使えないんだけど、中程度のダメージならすべて魔力に変換して無傷にしてくれるの!」

「それは心強いわね!」

ひとしきり業務の確認を終えたところで、クレアが急に声をひそめ、身を乗り出してきた。

「それより! ねえ、スピカ!」

「な、なあに?」

「学園祭の午後の舞踏会、誰かに誘われた?」

「えっ? 誘われたって……」

きょとんとするスピカに、クレアは「やっぱり分かってないわね」と言いたげに呆れ顔を作った。

「学園の男子が、意中の女子を舞踏会に誘うのがこの学園の慣わしよ! ちなみに、舞踏会は一部と二部があってね。一部に誘われるのは『これからお友達になりましょう』とか『もっと仲良くしたいです』みたいな、ちょっとハードルの低いやつ。でも、二部に誘われるのは『これから真剣にお付き合いください』っていうガチなやつとされているわ」

熱弁を振るうクレアは、スピカの肩を軽く小突いた。

「スピカも、今日の放課後に駆け込みで誘われるかもね!」

「まさかぁ。今のところ、お誘いは全く受けてないわよ」

スピカは苦笑しながら、手帳に出展の進捗を書き留めた。

(……あ、でも、さっきのシフト、会長と第2部だったよね?)

その瞬間、スピカの脳裏にシリウスの端正な顔立ちが浮かび、顔が林檎のように一気に赤くなった。

施設を出て集会所の近くを通ると、賑やかな音楽が風に乗って聞こえてきた。

「吟遊詩人の人たちも演奏に熱が入っているわね……。あれって、もしかして『ツンデレダイナマイツ』の曲かしら?」

バンドのメロディに耳を傾けつつ、スピカは歩みを進めた。

次にやってきたのは、独特の匂いと鳴き声が響く魔法生物部だ。

「スピカちゃん!」

飼育舎の入り口でスピカの姿を見つけるなり、ミスター・トグへもんが嬉しそうにトコトコと駆け寄ってきた。

「おかげさまで、僕は鎖に繋がれずに済んだよ!」

「良かったわね、トグへもんさん!」

スピカは優しくその頭を撫でて微笑んだ。

「また来るわね! サム部長によろしく!」

「うん、ありがとうー!」

トグへもんに手を振り返し、スピカが立ち去ろうとしたその時。ふと足元から、消え入りそうな声が聞こえた。


「あのー……」

傍らで寂しげに佇むクマムシマンの声を背に、スピカは先を急いだ。


続いて、どこか薄暗く張り詰めた空気が漂う忍者訓練施設へ。

「よお! 出展の視察かい?」

声をかけてきたのは、カノープスの同期であるスティーブだった。

「はい、お疲れ様です」

「忍者屋敷、体験してく?」

「いえ! 今日はまだ回るところがあって忙しいので、また明日にします」

丁寧にお断りを入れていると、スティーブの背後から、初々しい装束に身を包んだ少女がひょっこりと顔を出した。

「こんにちは! ハダル・ギレスです」

「こんにちは、生徒会庶務のスピカ・マセットよ! よろしくね」

すると、スティーブがハダルの肩をぽんと叩いた。

「この子はウチの新人! 今、カノープスから色んなことを教わってるよ!」

「ちょっと、なんですかその思わせぶりな言い方!」

ハダルは頬を赤らめてスティーブを睨みつけた後、すぐに居住まいを正してスピカに向き直った。

「お会いできて光栄です、スピカさん」

「私もよ、ハダルさん」

(……こんなに可愛い子が忍者訓練施設にいるなんて大丈夫かしら? まるでケモノの檻に放り込まれたウサギのようだけど……)

スピカは内心でそんな心配をしつつも、書類を確認する。

「うん、特に問題は無さそうですね」

「問題は大ありだよ〜。予算上げて下さ〜い」

スティーブが手を合わせて拝んできたが、スピカは苦笑いで首を振った。

「ごめんなさーい、それは会計のベガさんに言ってね」

「チェッ、つれないねぇ」

スピカが手を振って施設を出ていくのを見送りながら、スティーブは隣のハダルにニヤニヤとしながら囁いた。

「なぁ、知ってるか?」

「何をですか?」

「あの娘……スピカちゃんは、カノープスのお気に入りだぜ」

「えっ……!?」

ハダルは驚きに目を見開き、スピカが去っていった扉を複雑な表情で見つめるのだった。

最後に訪れたのは、厳かな静けさが満ちるサムライ訓練施設。

道場の中では、青年のアルタイルが一人、凄まじい集中力で大弓の訓練に励んでいた。

(……あっ、声をかけちゃあまずいわね。邪魔しちゃ悪いわ)

スピカが足音を立てずに引き返そうとした、その時。

「あっ、スピカさん!」

弦を引く手を緩めたアルタイルが、こちらに気づいて声をかけてきた。

「お邪魔しちゃいましたか?」

「いえ、ちょうど休憩しようと思っていたところです」

アルタイルは爽やかな笑みを浮かべ、弓を置いた。スピカはホッと胸をなでおろしながら本題に入る。

「出展の予算ですが、この前の打ち合わせの通りで問題ないですかね?」

「はい、問題ありません」

「なんだか、大変な出し物になっちゃいましたね……。一人で立ち合いなんて」

デューク・サナダに無理やり決められた無茶な企画を思い出し、スピカが同情の目を向けると、アルタイルは毅然と背筋を伸ばした。

「はい。ですが、出来ないということではなく、出来る事をやるだけですから」

その真っ直ぐで誠実な瞳に、スピカは感心させられる。

「頼もしいですね! それでは、お邪魔しました!」

「はい、またいつでも来てください」

すべての施設を回り終え、夕暮れ時の廊下を歩きながらスピカは充実感に浸っていた。

「みんな学園祭に向けて頑張ってるな。明日、みんな上手く行くといいなぁ」

ふと、そんな心地よい余韻に浸っていたスピカの耳が、微かな音を捉えた。

(ん? 何か気配が……!)

頭上の木々がガサガサと大きく揺れた。

――ボテッ!!

「いでっ!」

突然、頭上の枝からハダルが派手に落ちてきた。ハダルは尻餅をついたまま顔を真っ赤にし、スピカと目が合うなり、慌てて立ち上がってそそくさと物陰へ逃げ去っていった。

「……えっ? 今の、さっきの忍者娘……?」

呆然とその場に取り残されたスピカは、ハダルが消えた曲がり角を見つめながら、ぽつりと呟いた。

「忍者って……みんな、あんなに個性的フリーダムなのかしら……」

明日から始まる学園祭への、少しの不安と大きな期待を胸に、スピカは茜色に染まる生徒会室への道を急いだ。

新米くノ一、イケメン四天王アルタイル再登場。

舞踏会の裏設定が明らかに。

いよいよ次回は学園祭開幕。応援よろしくお願いします。

ページ下部の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると励みになります!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ