メレンヘア学園祭①(開戦ルスカvsアルタイルと第一王子シリウス・ランスターという人)
爽やかな朝の光が、メレンヘア学園の敷地いっぱいに降り注いでいた。いたるところに色鮮やかな装飾が施され、お祭りの独特な熱気が早くも校内に満ち始めている。
「今日は学園祭か……」
スピカは窓の外を眺めながら、ぽつりと呟いた。いつもとは違う賑やかな雰囲気に、胸が小さく高鳴る。そこへ、可愛らしい衣装に身を包んだ下級生の生徒が小走りで近づいてきた。
「スピカ様、お届け物です」
「ありがとうございます」
手渡されたのは、丁寧に梱包された大きめの箱だった。差出人の名前を見て、スピカの顔がほころぶ。
「母上様からだわ! 何かしら?」
期待に胸を膨らませて包みを開けると、中から息をのむほど美しい生地が顔を覗かせた。
「まぁ、素敵なドレス!」
思わず声を弾ませたスピカだったが、すぐに少し困ったように眉を下げてドレスを見つめる。
「でも、着る機会があるかしら……」
今は学園祭の真っ最中、しかも自分は生徒会役員としての仕事がある。嬉しい贈り物に感謝しつつも、スピカはそれをそっと仕舞い、気合を入れ直して生徒会室へと向かった。
生徒会室
カチカチと時計の針が音を立てる生徒会室には、すでに役員たちが集まり、独特の緊張感と高揚感が漂っていた。室内の中心に立つ会長・シリウスが、一同を見渡して厳かに口を開く。
「いよいよ学園祭当日となった」
その声には、確かな信頼と威厳がこもっている。
「みんな今日まで良くやってくれた。その努力が無駄にならぬよう、今日も一日よろしく頼むよ。特に今日は来賓の方々もいらっしゃるので、メレンヘア学園生徒会役員として恥ずかしくない対応をお願いする。そして各自、自分自身も学園祭を楽しむ事を忘れずに! 以上!」
ビシッと朝礼が締まり、役員たちがそれぞれの持ち場へと散っていく。スピカは室内に残り、静かに書類を整理し始めた。
(会長と二人きりだけど、あまり意識する必要はないわね)
自分にそう言い聞かせていると、不意にシリウスから声をかけられた。
「スピカ君は、この学園祭は初めてだったね」
「はい」
スピカが振り返って一礼すると、シリウスはふっと表情を和らげて尋ねた。
「ご家族の方は来られるのかな?」
「はい、招待状を出しております」
そう答えてから、スピカはふと気になって問い返してみることにした。
「会長も、ご家族の方が来られるのですか?」
すると、シリウスの表情が微かに曇り、声音が少し冷たくなった。
「父は来ない」
(あ……)
短いその一言に、スピカは内心で冷や汗をかいた。
(まずい事を聞いてしまったかな。王族の親子関係ってどうなのかしら。きっと色々と複雑な事情があるのね)
重苦しい沈黙が流れる。スピカがどう言葉を返すべきか激しく苦悩した、その瞬間だった。
――ドォン!
けたたましい音を立てて生徒会室の扉が勢いよく開いた。
「やあ、シリウス! パパがサプライズで会いに来たよ!」
きらびやかな衣装をまとい、両手を広げて入ってきたのは、この国の頂点に立つ人物――国王その人であった。国王は満面の笑みでシリウスににじり寄る。
「愛しいわが息子よ!」
「ち、父上!」
あまりの温度差に、シリウスは完全に気圧されて声を裏返した。スピカはといえば、ただただ呆然と「……」と言葉を失うしかない。
王はシリウスをからかうような笑みを浮かべたあと、すぐにスピカの存在に気づいてパッと顔を輝かせた。
「お嬢さん、こんにちは!」
「こ、国王陛下! お初にお目に掛けます、マセット伯爵の長女、スピカと申します」
慌てて完璧なカーテシーを披露するスピカに対し、王は親しみやすすぎる態度で手を振った。
「硬い挨拶はいいよ! シリウスパパでいいよ!」
(えっ、さすがに砕けすぎて呼べない……!)
スピカが内心で頭を抱えていると、王はシリウスの肩に腕を回し、小さな声で耳打ちした。
「なかなか可愛い子だね」
「……っ」
シリウスが顔をしかめると、王はわざとらしくトボトボとした様子で距離を取る。
「あのー、シリウスさん。パパ邪魔だったかな?」
「はい。しかし、そういうのではありません」
にべもないシリウスの返答に、王は「やれやれ」と肩をすくめつつ、楽しそうに笑った。
「リゲルの顔も見ないとな」
そう言い残すと、嵐のようにやってきた国王は、軽やかな足取りで出口へと向かう。
「失礼しました。ごゆるりと」
パタン、と扉が閉まり、再び生徒会室に静寂が戻った。スピカはふう、と息をつき、素直な感想を口にする。
「ざっくばらんな、素敵なお父様ですね」
シリウスは深くため息をつき、頭を痛めるように額を押さえた。
「父の事は尊敬しているが、人に対して距離が近くて困る。大事な御身、もっと慎重になって頂きたいものだ」
不器用ながらも、そこには確かな父親への温かい気遣いがあった。スピカは微笑む。
「お互いに相手を想いあっていて、素敵だと思います」
その言葉に、シリウスは少し驚いたように目を見張ったあと、照れ隠しのようにわずかに口元を緩めた。
「ありがとう。素直に受け取っておくよ」
サムライ訓練施設
一方、学園の一角にあるサムライ訓練施設の前には、大きな看板が掲げられていた。
【サムライに挑戦!】
受付時間 9:00 〜 15:00
『勝ったらあんたが明日のサムライ!』
開始早々、気合の入った足取りでやってきたルスカは、受付にいたアルタイルを見つけて不敵に笑った。
「やぁアルタイル! 一番に並んでやったぞ!」
「おや、ルスカ君」
「負かした後に『疲れていた』と言い訳されたくないからな」
好戦的なルスカの言葉に、アルタイルはひょうひょうとした態度で応じる。
「これはどうも!」
ルスカは一歩前に踏み込み、真剣な眼差しでアルタイルを見据えた。
「お前とは一度、手合わせしたいと思っていたんだ。どちらが殿下の武の右腕に相応しいか、証明してやろうじゃあないか」
バチバチと火花を散らすルスカに対し、アルタイルはいつも通りのマイペースな笑顔を崩さない。
「お手柔らかにお願いします」
審判を務めるデューク・サナダが二人の間に割って入り、厳格な声でルールを告げた。
「面、胴、小手、いずれかに1本打ち込んだ方が勝ちじゃ。武器は好きな物を選んで良いぞ。戦闘中の交換もありじゃ!」
「片手剣と盾を選ばせてもらう!」
ルスカが迷いなく愛用の武具を手に取ると、アルタイルも武器ラックを見回し、一本の武器を手に取った。
「じゃあ、おれはコレで」
アルタイルがチョイスしたのは木太刀だった。二人はそれぞれ面、籠手、胴の防具を身につける。
間合いを取り、互いに武器を構えた。
「では、初め!」
サナダの鋭い掛け声とともに、二人の熱い戦いの火蓋が切って落とされた。
忍者屋敷・周辺
その頃、校舎の裏手にある「忍者屋敷」の近くでは、ハダルがカノープスの後を一生懸命に追いかけていた。
「先輩! 学園祭、一緒に見学しましょうよ!」
カノープスは足を止め、不思議そうに振り返る。
「君は忍者屋敷の看板娘ではなかったか?」
「何やら先輩方が忍者屋敷の仕掛け造りに手間取ってるらしくって、オープンは11時からです」
ハダルはえへへと笑い、少し悪戯っぽく声を潜めた。
「いやらしい仕掛けなのかな?」
「……っ」
カノープスは苦笑しつつ、困ったように首を振る。
「いいけど、僕は生徒会役員だからね。フリーな時間とはいえ、何か問題は無いか見回りも兼ねているんだ。僕と一緒だと退屈するかもしれないよ」
「それでもいいです! 一緒にまわりましょう!」
ハダルは一歩も引かない。それどころか、ぐいぐいとアピールを続ける。
「あと、忍者屋敷のシフト! 16:00から18:00も空いてますから!」
「……」
カノープスは呆れたように、しかしどこか拒みきれない様子で、ただ無言でハダルを見つめるのだった。
生徒会室
賑やかな外の喧騒が、遠くからかすかに響いてくる。スピカは窓の外の盛り上がりを一瞥してから、静かな室内へと視線を戻した。
「外はお祭りなのに、この部屋は静かですね」
「そうだね」
シリウスが書類から目を離さずに答える。その横顔を見つめながら、スピカは以前から感じていた敬意を言葉にした。
「会長は生徒会の仕事もなさっているのに、学業も、ジョブ訓練も優秀だと聞きました。本当に努力家なんですね」
シリウスの手が、ぴたりと止まった。彼は静かにペンを置くと、自嘲気味に、しかし強い意志を込めて語り始めた。
「男をやっていて何が楽しいかって、自分には実力があると感じられることだ。僕は地位や家柄のみにすがるつもりはない」
その瞳には、王族という重圧に決して屈しない気高き魂が宿っていた。
「いろんな事を学んで、多くの事を経験すれば、その事について人に先んずる事ができる。その為の努力を僕は惜しまない。何も分からず、ただ流されるだけの人生はごめんだ」
シリウスの確固たる信念が、言葉の端々から伝わってくる。スピカは深く感銘を受け、真っ直ぐに彼を見つめ返した。
「立派なお考えだと思います」
そして、スピカは悪戯っぽく、だが凛とした声で言葉を付け加えた。
「付け加えるなら! 実力をつけたいと思っているのは、殿方だけではないと思いますよ?」
シリウスはハッとしたように目を見張り、それから少し決まり悪そうに微笑んだ。
「これは失礼。君も僕と同じ考えの持ち主なのかな」
「会長ほど努力は出来ませんが」
スピカは少しはにかみながら、自らの胸に手を当てた。
「自分が頑張って、何かの役に立てるのは嬉しく感じます。そのために出来る事を増やしたいと思っています」
「そうか……」
シリウスは小さく呟き、スピカの瞳をじっと見つめた。そこには、家柄に甘んじることなく、自分の足で立とうとする強い輝きがあった。シリウスの胸に、確かな共感が湧き上がる。
「初めて会った時から思っていた。僕と君は似ている」
二人の間に、外の喧騒とは違う、心地よくて温かい特別な空気が流れていた。
いよいよ学園祭が開幕。ルスカvsアルタイルのバトルが幕をあけ、ハダル&カノープスの学園祭デートも気になるところ、二人きりの生徒会室で一体何が?今後の展開もご期待ください。
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