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第18話 三毛猫は何なのか


 ココアを飲みつつ、私は次の話題を送った。


[それと、今日から一緒に自由に遊べるよ]

[…………]

[あれ?固まった?]

[ちょっと待って]

[うん]

[マジ?って打とうとして手が震えた]

[大げさだなぁ]

[大げさじゃない!!!!]

[そんなに?]

[そんなにだよ!!これでボッチじゃなくなる……!!]

[まって、ガチで今までボッチだったの?]


 いや、待って。今までボッチだったの? 本当に?

 確か三毛猫、私に誘いをかけてきた時、「最初だけ、すぐやめたけど」「寂しかったから……」とか言っていた気がするけど、あれ冗談半分じゃなかったのか。


[いやまあ]

 三毛猫から返ってくる。


[ボッチっていうか……周りに人はいた]

[いたんだ]

[でも知らん人]

[それはまあそう]

[あとβで知ってる奴いてもログイン時間合わんし]

[あー]

[あと俺、意外と一人で黙々とやるのに向いてない]

[知ってる]

[知ってるのかよ]

[三毛猫ずっと喋ってるもん]

「それはそう]

[だから一緒に遊べる相手ほしかったんだよな]

[なるほど]

[しかもお前なら変なこと踏んでも面白そうだし]

[そこ期待されてるのちょっと嫌なんだけど]

[いやもう実際踏んでるじゃん]

[否定できない]

[だろ???]


 そのまま三毛猫は、明らかにテンションの上がった文面で連投してきた。


[じゃあさじゃあさ。明日……っていうか今日の朝?昼?]

[うん]

[合流できる????]

[できると思う]

[思う、なのがちょっと不安だけど前進だ!!!!]

[ただし]

[ただし?]

[私ちょっと普通の初心者プレイヤーではなくなってるから]

[それはなんとなく知ってる]

[見た目も少し変わった]

[は????]

[いや、ちょっと色々あって]

[ちょっと色々で見た目変わることある!?!?]

[あるみたいですね~]

[怖ぁ]

[でもちゃんと格好いい方向だと思う]

[自分で言うんだ]

[客観的事実なので]

[急に自信家になったな]

[なったというか、システムから美形認定された]

[は????]

[称号で]

[やば]

[やばいよ]

[スクショ!スクショはよ!!]

[それはまだ無理]

[ケチ!!]

[ケチじゃない]

[じゃあ後で見る]

[善処します]

[また政治家になってるじゃん]


 私は笑いながら、そのまま少しだけ真面目に打つ。


[でも本当に、今日からは前より自由に動ける。やることは色々あるけど、少なくとも一緒に遊ぶ時間は取れそう]

[よっしゃあああああ!!!!]

[テンションがすごい]

[当たり前だろ!!これで一人で「このNPC何?」とか「この素材売る?取っとく?」[効率のいい稼ぎ方は……]とか延々考えなくて済むんだぞ!?!?]

[思ってたより深刻だった]

[地味に寂しかったんだよ!!]

[可哀想に]

[可哀想と思うなら優しくしろ]

[今してる]

[それはそう]


 そこで私はふと、指を止めた。

 今なら少し聞いてもいいかもしれない。


[Fになったってことは結構ちゃんと遊んでたんだよね]

[まあな]

[どんな感じだったの?]

[普通にギルド登録して]

[うん]

[最初の雑魚狩って]

[うん]

[納品クエやって]

[うん]

[知らん奴に煽られて]

[うん?]

[ちょっとムカついたから先にランク上げてやろって思って]

[動機が若干小さい]

[でもFになった]

[そこはえらい]

[褒めろもっと]

[よしよし]

[犬か]

[さっき犬みたいだったし]

[まだ引っ張るのかよ]


 ココアはもう半分以下になっていた。

 カップの中の熱も少し落ち着いて、飲みやすい温度になっている。

 私はそれを一口飲んでから、少しだけ真面目な気持ちで画面を見た。


 こういう相手がいるのは、やっぱりいいなと思う。ゲームの中で何か濃いことが起きても、こうして現実側で気軽に笑いながら話せる相手がいるというのはかなりありがたい。


 ラウラリア・ラ・ヘルとしては高貴な跡継ぎルートに突っ込んでいるけれど、麗としてはただの女子高生なのだ。そのただの女子高生の部分をちゃんと持っていられるのは、三毛猫とのこういう会話があるからかもしれない。


 その後もしばらく、三毛猫は「明日何時に入る」「どこで合流できる」「見た目が変わったなら一発でわかるのか」みたいな話題をぽんぽん投げてきて、私はそれにテンポよく返した。


 最終的に、「とりあえず入ったら連絡する」「無理なら無理で言う」「でもできるだけ合流する」「イベント中でも笑うな」「あんたが変な反応したら笑う」

みたいな、雑だけど実用的な約束に落ち着く。


 通話が終わる頃には、私はマグカップの中身をすっかり飲みきっていた。

 最後の一口は少しぬるかったけれど、それでもちゃんと甘くておいしかった。


 スマホの画面を閉じる。

 部屋が静かになる。


 私はマグカップを机に置き、ベッドへ戻りながら、ふと妙なことを考えた。


「……そういえば」


 三毛猫とは、これまでだって何度も一緒にネットゲームをやってきた。

 ボイスチャットを繋ぐこともあったし、夜中までだらだら雑談しながら素材集めをしたこともあるし、しょーもない対戦ゲームで無駄に熱くなって二人して笑ったこともある。


 でも――


「三毛猫の性別、知らないな」

 ぽつりと呟いて、私はベッドの上に座り込んだ。


 いや、本当に知らない。

 年齢も顔も知らない。住んでる場所も本名も知らない。知っているのは、ネットの向こうでやたらテンションが高くて、ノリが軽くて、口調はかなり男っぽくて、でも妙に面倒見がよくて、時々びっくりするくらい可愛いものや綺麗なものを嬉しそうに語ることくらいだ。


 たとえば、ぬいぐるみ。

 三毛猫、前に「この前見つけた猫のぬいぐるみの顔が絶妙にぶさ可愛くて最高だった」とか、かなり真剣な口調で語っていたことがある。

 あとガラス細工。小さな青いガラスの鳥とか、光に透かすと色が変わる玉とか、そういうのを集めるのが好きらしい。

 それを語る時だけ、普段の雑なノリと違って丁寧で熱があるのだ。


「……そこだけちょっと女の子っぽいんだよな」


 でも一方で、口調はだいぶ男寄りだし、勢いもあるし、「俺」とか普通に使うし、テンションの上がり方もかなり雑で騒がしい。

 だからといって男と断定できるほどでもない。ネトゲだし、そういうのは割と曖昧だ。

 実際、私だって三毛猫の前では本名ではなくラウラって呼ばれてるし、向こうだって別に本当の自分を全部出してるわけじゃないだろう。


「どっちなんだろ」


 ベッドへごろんと倒れこみ、私は天井を見上げた。

 もし次に本当に会うことになったら、そこは割とびっくりポイントになるかもしれない。


 まあ、どっちでもいいんだけど。

 別に男でも女でも困ることはないし、今さら関係性がどうこう変わるわけでもない。

 ただ純粋に、知らないままだったことに今さら気づいただけだ。


「……これでおっさんとか来たら、ちょっと笑うかもしれない」


 想像した瞬間、じわっと可笑しさが込み上げてきて、私は布団に顔を半分埋めたまま肩を震わせた。


 いや、おっさんはさすがに失礼か。失礼なんだけど。

 でも、ぬいぐるみ好きでガラス細工集めが趣味で、猫のスタンプを多用して、ボッチ回避に全力で喜ぶテンション高めの相手の正体が、渋いおじさんとかだったら、それはそれで面白すぎるでしょう。


「……まあ、会えばわかるか」

 そう小さく呟いて、私は布団をかぶった。


「……明日も、向こうも、こっちも、面白そうだな」

 誰に聞かせるでもなくそう呟いて、私は今度こそ静かに眠りへ落ちていった。

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女の子っぽい感じはしてるね
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