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第25話 侵入と証拠探し

 ミシャーナはフィンと別れてバリトー邸を出ると、手伝うと言ってくれたテレサに案内されて領主の館へとやって来た。


 本邸から見えにくい生け垣から中に侵入すると言われ、二人で館の裏手に回る。テレサの言う生け垣は人の高さを優に超えていて、見上げなければならないほどだった。


「ここをよじ登るのですか?」


 不安になってミシャーナが尋ねると、テレサは人差し指を唇に当て「これは内緒だけれど」と前置きし、何やら生け垣に話しかけた。

 すると「どうぞ」とでも言うように、目の前の生け垣に人が一人通れるくらいの隙間ができた。


「私、大地の妖精の血筋なのよ。私は植物かれらのことを理解しているし、植物かれらも私を理解しているから、お願いするとこうして協力してくれるのよ」


 そう言いながら、先に生け垣の中をくぐる。中に人が居ないか確認したテレサは、ミシャーナに中に入るよう手招きした。

 ミシャーナが生け垣の中をくぐり抜けると、分かれていたことが嘘のように一瞬で生け垣は元の姿に戻った。


「これは()()()()()()だから、秘密にしてくださる?」


 無言で頷くミシャーナを見ていたずらっぽく笑ったテレサは、屋敷の方に向かって指を差した。


「一番上の角の部屋が、領主の執務室から繋がる資料室よ。書類は十中八九あそこに保管されているはずよ」


 テレサが指した場所は三階の左端の窓だ。人力で外から侵入するには無理がある。しかし、テレサの顔には不安の影が一切感じられなかった。

 窓の下に移動するとその場にしゃがみ込み、地面に部屋の見取り図を描いたテレサは、このあたりに書類があるはずだと円を描いて教えてくれる。


「私が植物にお願いして上まであなたの体を持ち上げます。私は隠れて見張りを、その間に中に入ってあなたが見た書類を探す……できますか?」


 ミシャーナは頷くと、その場に立ち上がった。テレサは描いた見取り図を足で完全に消し、細い植物のつるを窓まで伸ばした。植物と感覚を共有しながら器用に操ると、しばらくして植物は元の大きさに戻った。


「大丈夫ですか?」


 不安になったミシャーナが問うと、テレサはウインクをしながら指を折り曲げて見せた。


「窓の鍵を、ちょっとね」


 植物を使って、窓の鍵を開けたらしい。こうした侵入行為に慣れているのではないだろうかとミシャーナが思うくらいに、テレサの行動はスムーズだった。

 意味ありげなミシャーナの視線に気づいたテレサは、また人差し指を口元に当てるとウインクをした。


「さあ、ここからは特に音には気を使って頂戴。何かあったら、お互い臨機応変に動きましょう。何かあった時の待ち合わせ場所は、私の家にしましょうか。それでは、行くわね」


 テレサの掛け声とともに、植物のつるがミシャーナの足元に集まってミシャーナを優しく持ち上げた。そのうちの一束のつるがミシャーナの胸元あたりまで伸び、テレサが捕まるようにとジェスチャーをしたので、それに従う。

 テレサとアイコンタクトを取ると、ミシャーナの体は一気に三階まで持ち上げられた。

 急に重力に逆らって高い場所まで上がる感覚に肝が冷えたが、ミシャーナは出そうになる悲鳴を必死でこらえた。


 三階の片上げ窓に手をかけて持ち上げると、簡単に窓が開いて中に侵入できた。物音を立てないよう、慎重にテレサが示した棚を物色する。

 言われた通り、過去の税収が書かれた書類が収納されていた。少し遡ると、今朝目にした書類よりも多少マシなものが出てくる。五年をかけて徐々に税収を上げて行ったことが良く分かる資料だった。

 今の領主は几帳面なのか、金の流れに付いて丁寧にまとめられている。こんな不正を働いているというのに、曖昧にせず帳簿を付けているあたり、相当金に汚いのかもしれないとミシャーナは考えながら書類をめくった。


 ガタン


 執務室に繋がる扉の方から物音がする。どうやら、領主が執務室に入って来たようだ。ミシャーナはいくつか書類を胸に抱えると、扉にある小さな小窓から執務室をそっと覗いた。

 領主と思われる男はこちらに背を向けていて分からないが、対面している男には面識があった。

 ミシャーナが今朝、町でぶつかった初老の男だ。


「それで」


 領主の怒気を孕んだ声が聞こえ、ミシャーナの心臓が跳ね上がった。


「書類を見られた可能性がある、と?」


 すると初老の男は汗を拭きながら弁明した。


「はい……いえ、旅行者のようでしたし、中身を見てもただの平民に理解できるものではありませんので、問題はないかと」


「本当に大丈夫なんだろうな」


 領主は相当イライラしている様子で、机の上を指でトントンとせわしなく叩いている。ミシャーナは、会話をもう少しよく聞こうと一歩踏み出した。


 キシ


 小さな床のきしみだったが、その音に反応した領主がミシャーナの方を振り向いた。その瞬間、ミシャーナは息をひそめて扉の影に隠れた。


 侵入口の窓までが遠い。


 好奇心が勝り、会話を聞こうとしてしまった自分を責めたが、もう後の祭りだった。

暫く不定期更新になります。

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