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EP.6 - 9

コアンが埋葬された日から二回目の夜が明け、朝日の差すかつてコアンが使っていた部屋でエルミーは目覚めた。


隣で寝息を立てている子に気付いて、心がざわざわし始める。

コアンの部屋に最後に泊まったのはいつくらいだったかと思い出そうとしたら悲しくなってきたので、やめた。


昨日の夜、リニーは遅くまでずっとお話を聞かせてくれていた。

その話はちょっとだけ怖くて、それでいてワクワクさせてくれる、とても楽しい話だった。

恐い人達に連れ去られて海の上で暮らすようになった話。

恐い人達の中に居た、誰よりも強くて綺麗な女の人の話。

いつの間にか皆とも仲良くなって、海のお宝を探す旅に一緒に行った話。

全部本当にあった事だってリニーは言ったけど、多分半分くらいは作り話なんじゃないかな。

そんな風に考えながら話をずっと聞いていて、気が付いたら朝になってた。


今日は村の友達にリニーの事を紹介するって、昨日の夜に約束をした。

色々あって疲れてるけど、何かをしてないと悲しくなっちゃうので頑張ろうと思った。

だから寝ているリニーを起こして、友達の話をしようと思ったんだけど、昨日たくさん話したから疲れてるかもしれないと思って、もう少し寝かせとこうと思った。


一人で考えてると、どうしてもコアンと一緒にいた時の事が出てくる。

楽しい思い出なのに、どうして悲しくなっちゃうんだろう。

溜息が出て、涙も出そうになった時、リニーが手を握ってきた。

起きたのかと思ったら、小さな声で”ご飯を横取りするな”って言ってた。夢を見てるみたいだ。


また、心がざわざわしてきた。

このままじゃダメだと思ったから、ベッドから抜け出してちょっと歩こうと思った。


部屋を出ると、トントンと何かを叩く音が聞こえてきた。

たぶんユーシィが料理をしているんだろう。

手伝いに行こうかなと思ったけど、邪魔になっちゃうかもと思って、やめた。


特に用事は無かったけど、礼拝堂に来てみた。

朝の礼拝堂はキラキラ光ってて綺麗だった。

お祈りをしたり、勉強をしたり、歌を歌ったり、お供え物をつまみ食いしたり、色んな事をここでした。

コアンと一緒に。

とっても楽しかった筈なのに、どうしてこんなに悲しいんだろう。


外に出てみようと思った。

朝の空気は冷たいけど、外に出て深呼吸をするとスッキリした気分になるから。

礼拝堂の扉はちょっと重くて開けるのにコツが要るけど、コアンと何度も練習したからもう簡単に開けられる。

扉を開けたら外が思ってたより眩しくて、目がちゃんと開けられない。

前があまり見えないまま外に出ようとすると、何かを踏んづけて、パキッていう音がした。

なんだろうと思って、しゃがんで足元を見てみた。


――――――木の実がたくさん、置いてあった。


走らなきゃと思った。

思った時にはもう走ってた。

何処に行けばいいのかは分からなかったけど、とにかく急がなきゃと思った。

呼ばなきゃと思った。

思った時にはもう叫んでた。


「コアーーーーーーーーーーン!!」


何処かにコアンがいるかもしれないと思ったから、色んな所に走って行って、色んな所でコアンを呼んだ。

友達の家の前に行った。自分の家の中を走り回った。

ウィオンを飼っている小屋にも行ったし、とにかく村の中を走り回ってコアンを呼んだ。

村の人達が話しかけてきたけど、急がなきゃだから無視して通り過ぎた。

ずっと走った。

ずっと叫んだ。

でもコアンは見つからなくて、結局教会に戻ってきたら入り口で神父様に会った。

入り口に散らばった木の実を拾って神父様に見せた。

コアンは木の実を集めるのがとっても上手だった事を話した。

だから近くにコアンが居るかもしれない、一緒に探して欲しいって神父様にお願いした。

そうしたら神父様は目を丸くして驚いた顔をした。

そのあと少し考えて、一緒に行こうと言って手を繋いでくれた。

その時は嬉しかったけど、一緒に歩き始めたらすぐに嫌な気分になった。


色んな所に走って行ったけど、行ってない場所が一つだけあった。

本当は最初に思い浮かんだんだけど、どうしても行きたくないから行かなかった。


神父様は真っ直ぐに、そこに行こうとしてた。

だから、嫌だって言った。

辛くて悲しくて胸がズキズキ痛くなって、涙が止まらなくなった。

神父様は歩くのをやめたけど、何も言わないから、コアンを探してともう一度お願いした。

早くしないと遠くに行っちゃうと思ったから。

でも神父様はしゃがんで、待っていればお腹を空かして帰ってくるかもしれないよって言った。

それじゃダメなのにって思ったら、頭がギュッとなって少し小さくなったような感じがした。

凄くイライラして、どうしてそんなこと言うのって、叫んでしまった。

神父様の言う事を、ちゃんと聞いてお利口にしていなさい。

お父さんもお母さんも、村の大人の人たちも、教会に行く時は子供たちにそう言ってた。

だからずっと、その言いつけを守ってきたけど、そんな事してたら間に合わなくなるかもしれないから、大声で、コアンを探してって、もう一回お願いした。

神父様は、分かったって言った。

でも絶対わかって無いと思ったから、もう一度大きな声で、お願いだからって、叫んだ。

そうしたら、神父様は何も言わなくなった。

我儘ばかり言ったから、怒ったのかもしれない。

でも、もう一度コアンに会いたかったから、どうにかして欲しかったから、そうするしかなかった。


「エルミー!」


後ろの方から名前を呼ばれた、リニーの声だ。

リニーも怒ってるのかな。

友達に紹介するって約束をしてたのに一人で走り回ってたから、怒って迎えにきたのかもしれない。

ゆっくり振り向いたら、もうすぐそこまでリニーが走ってきてた。


リニーに手を掴まれて、引っ張られた。

教会に行こうって言われたけど、行きたくなかった。

でも、やだって言ったら怒るかなって考えて、どうしようか迷ってたら、リニーが言った。


コアンが居た、って。


嘘かもしれないって思った。

リニーは嘘みたいな話が上手だから。

でも、そう思った時には走り始めてた。


教会の礼拝堂に戻ってみたら、人がいっぱい居た。

みんなで何かを見てるみたいだ。

リニーはみんなが見ている方を指差して、行こうって言った。


本当にコアンが居るかもしれない。


そう思ったら居てもたってもいられなくなって、礼拝堂の奥に向かって急ぎ足で歩いた。

人がいっぱい居て見えなかった礼拝堂の奥の様子が、だんだんわかる様になってくる。

ドキドキしながらどんどん歩いていって、一番奥についた時に見えたのは、勉強をする時にいつも使っている深い緑色をした大きな板で、そこには白い線で落書きがしてあった。


コアンは、居なかった。


なんだか力が抜けてしまって、立ってられなくなった。

やっぱりコアンにはもう会えないのかなって思ったら、また涙が出てきそうになった。

コアンは居なかったけど、白い落書きが何なのかがちょっと気になって考えていたら、慌てた様子のユーシィが礼拝堂に入ってきた。

ユーシィは手に本を持ってた。

その本は、良く見たら見覚えがあった。

確かコアンと一緒に勉強してた時、ユーシィが一生懸命何かを書き込んでた本だ。


もう一度、落書きを見てみた。

線が縦に一本。

短い線に、長い線が交わってぐるんと一回転。

よくわからない。何だろう。

よくわからないけど、見覚えはあった。

コアンが持ってた本で同じようなのを見た気がする。

落書きの右端には形の崩れた円があって、その中に点があって、短い線があって――――――――


――――――――ウィオンだ。


その落書きと本当のウィオンはそんなに似てなかった。

けど、もしかして、と思った。

もしかしてこれは、コアンが描いたものなんじゃないかって、思った。

だからこれは、コアンの大好物のウィオンなんじゃないかって、そう思った。


もっと近くで落書きを見たくて、立ち上がろうとしたんだけど、上手く立てなかった。

足が上手く動かなくて、どうしたんだろうと思って困っていると、ユーシィが手元の本と落書きを見比べながら何かを呟きだしたので、モジモジしながらそれを見た。


「……ハ…………イ……」


ユーシィは落書きを読んでるみたいだ。

どんな事が書いてあるのか気になったので、ユーシィの言葉をしっかり聞こうと思った。


「レ…………ハイレ……ク?」


ハイレクって、なんだろう。

意味がわからない言葉だったけど、コアンの話す言葉は殆ど分からなかったから、さっきよりも、もっとこの落書きはコアンが描いたものなんじゃないかって思えてきて、何だか緊張してきた。


「…………………チ、ヤ」


ユーシィは首を傾げてる。

ハイレクチヤっていう文字が書いてあるのは分ったみたいだけど、どういう意味なのかは分からなかったみたいだ。


「ハイレ…………ン?」


ユーシィがそう呟いたのを聞いた時、急に頭の横の辺りがちょっと痺れて、それから、思いだした。

コアンは殆ど意味がわからない言葉で喋っていたけど、ちょっとだけ皆に伝わる言葉を喋ったことがあった。

でも、コアンはその言葉に慣れてないからちゃんと喋れなくて、注意深く聞かないと何て言ってるのかわからなかった。

そんな事を思い出して、そうしたらハイレクチヤっていう落書きが何なのか、わかった。


「ハイデンチュア!」


そう叫んだら、周りの皆が驚いて、そして、褒めてくれた。

嬉しかった。

褒められたのも嬉しかったけど、そうじゃない。


コアンがここに来たんだって事が分かって、それがとっても嬉しかった。

とっても嬉しかった筈なのに、涙が出てきて、止まらなくて、大声で泣いた。

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