EP.6 - 8
コアンの埋葬が終わった翌日の朝、ユーシィはいつもより少しだけ早く起きた。
調理場に向かい朝食の材料を食料貯蔵庫から取り出そうと蓋を開けた後、暫く考えて何も取り出さずに蓋を閉めてしまった。
朝食の支度を中止し、足は礼拝堂へ向く。
朝日の差した礼拝堂はキラキラと輝いて見えて、とても神秘的に見えた。
だがその輝きの正体が宙を舞う無数の埃である事を思い出すと、ほんの少し溜息を吐いた。
礼拝堂の中を歩いてみると、コツコツという足音が思いの外大きく聞こえた。
自分の鳴らす音以外何も聞こえてこない現状が、ここに居るの者がただ一人であるという事実を浮き彫りにする。
とうに見慣れた筈の壁を繁々と眺めてみたり、長机の縁を指でなぞってみたりしながらフラフラと歩く。
一見何もすることが無く暇を潰しているようだが、目的は勿論あった。
辿り付いたのは、コアンの棺桶が置いてあった場所だ。
もう棺桶は墓地に埋められてしまったので、ここには何もない。
だが、その場に屈みこみ床を少し眺めていると、足の爪ほどの大きさの、白い欠片を見つけた。
キースは、綺麗好きというわけではなさそうだが、真面目な性格のようで、いつも掃除はしっかりとやっていたと思う。
そんな彼が花びらの欠片を見落とした。
無表情に見えても心は疲弊しているのだろう。
花びらの欠片を摘まんで拾ってみる。
この白い花は好きではなかった。
見た目は綺麗だが匂いが強いし、何より棺桶に敷き詰める風習があるので印象が悪い。
すり潰して採取した液体は殺菌効果が高いので、死体の腐敗を遅らせる為にこの花を棺桶に入れるようになったと聞いた時は成程と思ったが、死んだ者を少しでも長くそのままの姿にしておきたいという考えは、少し怖いなとも思った。
それで生き返ってくれるのであれば、いくらでもそうすればいいし、何ならこの花のことが大好きになっていただろう。
でも現実はそうはいかない。
死んでしまえばそれで終わりだ。
それなのにいつまでも死者の亡骸に囚われていては、いずれ墓場の土の中までついていく事になりかねないと、そんな怪談話のような想像をしてしまう。
この花びらの欠片に、ほんの少しの憎しみを抱いた。
これさえなければ、と思った。
この白い花びらの欠片を見つけなければ、あの出来事はもしかすると夢だったのかもしれないと、急いで調理場に向かい食料保存庫から凍ったウィオンの肉を取り出して解凍する準備を始めていただろう。
この花が、また少し嫌いになった。
ゆっくりと歩き、調理場に戻る。
食料保存庫の蓋を再び開き、朝食用の食材を取り出す。
元気のないエルミーが、食事が億劫になってしまわないように簡単に食べられるものが良い。
そして朝方はまだ冷える時期だ、温かいものが良いだろう。
なので、朝食は野菜のスープにしようと考えている。
食事の量は、四人分。
自分と、エルミーとキース、そして妹のリニーの分だ。
食材を取り揃えると、早速調理にかかる。
急遽この村に帰る事が決まった時、一緒についてきて暫くエルミーの傍に居てやってくれないか頼むと、リニーは快諾してくれた。
気が強く、話好きでもある彼女が傍に居れば、エルミーは暗い夜でも寂しい想いをしないだろう。
そして幸いな事にこの村には同年代の子供が何人かいて、日中は彼らと一緒に居れば気も紛れるだろう。
昼夜問わず子供同士ではしゃぎ回れば、心の傷が癒えるまで、それ程長くはかからないのではないかと考えている。
調理が進み、火にかけた鍋の中でぐつぐつとスープが音を立てている。
仄かな野菜の香りが漂うスープに調味料を加えてやると、やがてスープは食欲を刺激する匂いを放ち始めた。
大抵、調理がこれくらい進んだところで以前ならコアンの声が聞こえて――――――
――――――――聞こえてきた気がした。
かなりドキリとしたが、すぐに気持ちを切り替えた。
こういう時のコアンの声が、聞こえてきた気がする程度の大きさだった事は一度もない。
だから気のせいだと察した。
茹でられている野菜の一つをフォークで突くと、難なく刺さる。
良い頃合いだ、鍋を火から降ろそう。
少し早起きをしてしまったが、朝食の完成はいつも通りの時間になりそうだ。
もう三人とも起きているだろう。
スープの入った鍋を背に、少し大袈裟に息を吸い込むと、大きな声で三人の名前を呼んだ。




