第06回 新しい仲間
スキルたまごを孵化させるために精霊王により精霊界に誘われたウォルドでしたが、無事、内にある境界を越えてたまごを孵化させることができました。
目覚めたのはいいのですが、ウォルドはなんとなく、後頭部を何かではたかれたかのような違和感を感じて、手でさすります。
「なにしてんの?」
「なんかスキル(たまご)が孵化した影響か、なんか違和感が。」
━━頭が木に成るんディ゙すカ?
「精霊王さま、それ怖い。」
━━ソレはきっと境界をこえて、目が覚めるときに、はりーせで芝枯れる感覚デす。
「ハリセンでシバカレる?」
「人間は知る必要のない異世界語よ。」
「うん。それなら、それでいいか。問題なさそうだし。」
「それより、どう?なんか力が漲ってくるとか?なんかない?」
「うーん。よくわからない。」
「それで、精霊王さま、人間のスキルはなんだったんですか?」
━━ウォルドのスキルは⍛⍹⍾⍷⌰⍿⍶⌰⍔⎂⍱⍷⍿⍾⎃です。
空白の時間が過ぎます。
━━ウォルドのスキルは⍛⍹⍾⍷⌰⍿⍶⌰⍔⎂⍱⍷⍿⍾⎃です。
「確かに大事だけど、二度言った!二度!!」
「ちょっと良くわからないんだけど、ビはわかる?」
「うーん。音からすると上位言語っぽいんだけど。」
「上位言語?ビはわからないの?」
「あのね、上位言語ってのは、神々が使う言語なの。だから、私たち中位、下位の言語体系では概念が通じないのよ。」
「つまりは?」
「あー、もう!たとえばアンタたち人間が境界を認識できないように、神でない私たちは上位言語を認識することができないのよ。」
「ふーん。」
あまり、響いてないような声です。
「精霊王さま、人語、せめて精霊語に翻訳していただけませんか?」
━━!µ‡Δ∀@〜☆。此度の件で私ができることは、ここまでです。
「どういうことですか?ちょっと無責任ではありませんか?」
━━!µ‡Δ∀@〜☆。そうですね。せめてウォルドに対して少しでも責任を、というなら!µ‡Δ∀@〜☆、あなたがスキルの行く末をしっかりと見届けなさい。
「へ!?な、なんで私!?」
━━!µ‡Δ∀@〜☆。あなた、目の前の境界の裂け目、誰が直すと?その責任はしっかりととっていただきます。
「うそ。」
━━ウォルド、スキルがわから泣くとも、木落ちしないでクタさい。
「うーん、正直、辛いといえば辛いけど。ただ、いままで、このスキルでやってきたから。きっと、なんとかなるでしょう。」
━━ゴメンなさい。責めて!µ‡Δ∀@〜☆を就けますからつかってやってくださ、イ。
空間の裂け目から赤い目だけが覗いていた空が、一瞬、漆黒に変わり、赤い目だけでなく特徴的な長い赤い髪、コントラストが映える白のワンピース、そしてすらっと伸びた四肢、そんな女性が視覚されました。気がつくと、突然、ウォルドの鼻に嗅ぎ慣れた血と脂の獣臭がついてきました。鬱蒼とした木々の中、
「帰ってきたんだ。」
ウォルドは独り言つのでした。夢のような体験でしたが、夢でない証拠として、ウォルドの肩にはうなだれた妖精が乗っていました。
ウォルドのいるマルド王国北側、スバルニア帝国との国境付近の山岳地帯、この場所にトール村という、あまり知られていない村がありました。村の中では比較的しっかりした作りになっている家に屈強な中年男性が駆け込んで来ました。
「そ、村長!た、大変ばい!」
「ヤジィさん、どうしたと?そんなん慌てて。」
村長と呼ばれた白髪の年配者、髪の色と顔のシワに比べて体はしっかりしていて、鋭い眼光で屈強な男性ヤジィを見ています。
「ド、ドラゴニュートが出たとばい!急いで村のもん、集めんと!!」
「ヤジィさん、落ち着きなや。ドラゴニュートは帝国側に生息しとぉが、これまで、こっちに来とらんばいね。」
「そ、それが何体か、こっちに向かっとぉとよ!」
「それは、本当と?見間違いちゃうんと?」
「本当ばい!こん目で見たと!!」
村長の顔が青ざめます。山岳地帯の村の家屋は一軒一軒がかなり離れています。こうしている間にもドラゴニュートは村に近づいてくるでしょう。
「とにかく、村全体に知らせんと!」
「村長宅に集まるよう伝えるばい!」
村長、ヤジィは村長の家を飛び出して走り出しました。
緊急事態ということもあり、半刻ほどには村長の家の前に村人ほぼ全員、足の悪い老婆と赤子とその母を除く69名が揃いました。
「万が一のことを考えて、女、子どもは街道に近いキータさんとこ、避難させっと。」
村長が指示を出し始めます。
「そんなん、大袈裟なこつ、せんとよかばいね。ドラゴニュートいうて、一体とか、そんなんよ?」
キータが声をあげます。
「一体ちゃうと!少なくとも3体はおったとばい!こん目で見たと!!」
ヤジィが強く主張します。
「若い衆は何らかの武器をもっとぉて、戦わんと。すぐ支度すっとばい。」
村長が号令をかけました。
村で戦えるのは10人です。全員が木こりであり、かつ狩人なので屈強な戦士ともいえます。各々、斧と弓矢、そして護身用としてのダガーを所持しています。防備は動きを重視しているので革でできた防具しかありません。
村長はドラゴニュートの発見場所からの移動ルートを推測し、森の中で地の利を活かすことを考えて、村から打って出ることにしました。その際、村人には決して近接戦闘は避けること、弓矢で急所をピンポイントで狙うことを徹底させます。そして、戦場を見渡せる丘で村長が村人に指笛で指示を出すこととしました。
「確実にドラゴニュートを殺るんは、これしかないと。死ぬ覚悟はできとると?」
村長は10人の目を一人一人合わせてゆきます。ヤジィ、キータ、ミョーダ、ブシマ、パッスー、ガシー、タロージャ、ジロージャ、バドゥ、ビーシャ、年齢層は違えど、皆、屈強な山の男です。ふと、一人、村長を見ている少年がいました。
「フック、おまんはキータんとこ、いっとっとね。」
「俺も戦うばい。」
「女、子どもを守るんも大事な戦いばい。キータんとこで守っとよ」
フックは不承不承、背を向けて離れてゆきました。
「さぁ、こうしてはおれんばい。すぐに配置につくとね!」
10人は駆け出します。村長もひとつ頭の抜けた丘を駆け上がってゆきます。
ドラゴニュートたちは森深い獣道を下っていきます。木々が少し開けたところに差し掛かった時、ピュウイッと、指笛が響き渡りました。ドラゴニュートは立ち止まって警戒しました。その瞬間、4方から矢が飛んできたではありませんか。警戒していたため、ドラゴニュートにはたいして痛手はありません。すると、今度は風上(進行方向)から視界を遮るかのように大量の煙が立ち昇ってきました。ピュウイッと再び指笛が聞こえると、風下に人間が現れました。ドラゴニュートたちは人間に向かって走り出します。すると人間は風下、森の奥へと逃げてゆきます。ピュウイッまた指笛が聞こえました。と、また4方から矢が飛んできます。ドラゴニュートは怒りで震え上がります。人間を見失うと別の場所に、また人間が現れます。
「こっちばい!トカゲ野郎!」
ミョーダは叫びます。ドラゴニュートたちのうち一体は口から灼熱のブレスを吐きますが、届く距離ではありません。ドラゴニュートは人間を追っかけます。また指笛が聞こえて4方から矢が飛んできます。ドラゴニュートは完全に術中にはまりました。追っては射掛けられ、追わずとも射掛けられ、風上からは煙に燻され、ドラゴニュートは怒りにまかせて現れる人間を追うことしかできませんでした。
丘の上ですべてを見渡し、指笛で指揮を取っている村長はドラゴニュートが狙ったとおり、谷の狭隘に誘い込まれたのをみてほくそ笑みました。谷の上から9人の仲間が矢を射掛け続けています。はて?どうしたことでしようか、9人です!一人足りません。村長は周りを探して、あることに気づき叫びます。
「そげんこつ、あっと!?」
ドラゴニュート3体を沈黙させるのに、どれだけの矢を費やしたのでしょうか。それでもどうにかドラゴニュートは動きを止め仕留めることができました。村人側からは重傷者1名、あとは無傷という大勝利です。
村長の家の前に全員が揃いました。ブシマひとり足の骨を折り、バドゥに背負われてます。
「ブシマ、大丈夫と?」
タロージャが心配して尋ねます。
「はは、名誉の負傷ばい!なぁん、あんドラゴニュートを追い込んだとね!」
ブシマは得意げに答えます。
「なん、ゆうとっと、大猪にはねられたケガとね。」
すべてを見ていた村長がつぶやきました。
村長のつぶやきが広まり、大勝利もともなって大笑いです。そこに、フックが凄い勢いで駆けてきました。
「た、た、た、大変ばい!」
「なん!?キータんとこ、なんあった!?」
「ち、違うばい!森ん中、まだドラゴニュートが4体おると!」
こっそり森の中へと入っていっていたフックの報告に、その場にいた全員が凍りつきました。




