第05回 ジョブスキルの孵化
はじまりの森で大狼狩りをしていたウォルド、いつの間にか精霊界に迷い込んでしまいます。そこで出会った妖精ビ(!µ‡Δ∀@〜☆)。そこに精霊王が現れ、精霊王によって導かれたことがわかりました。
何もない空の裂け目から精霊王の赤い目がウォルドを見ています。
「スキルの件で僕を呼んだってことは、このスキルを知っているんですね?この、たまごって、なんですか?成長するんですか?どんな能力なんですか?」
想定外の出来事にウォルドは矢継ぎ早に質問を浴びせます。
━━し、つ、もんは、ひとつにし、て。
「今日の精霊王さま、なんかヘン。」
「えっと、じゃあ、僕のスキルはなんですか?」
ひと呼吸おいて尋ねます。
━━そこは、呼んだ理由とか詳しく知りたいとかぁ、センセイ、スリーサイズは、とかぁ。ゴニョゴニョ。
「せ、精霊王さま、どうしちゃったの!?」
「なんか、よくわからないんですけど。それじゃあ、僕を呼んだ理由?詳しくおしえて?でいいですか?」
ちょっとウォルドは何言ってるのか分からなくなってきてます。
━━ウォルド、あなたを呼んだのは、あなたのスキル、たまごを孵化させるために?です。
「精霊王さま、歯切れわるい!?」
ウォルド、一瞬固まります。そのあと、ゆっくりと深呼吸しました。
「僕のスキル、たまごを孵化させるため、ですか。」
はやる気持ちをおさえながら、繰り返し確認します。
━━ですね。
「なげやり!?」
なんとはなしに精霊王の言葉にビがツッコむようになっています。
「それで、どうしたらたまごが孵化するのですか?」
━━ウォルド、あなたの内にあるスキル、たまごを自身で目覚めさせるのです。
「「はい!?」」
ウォルドとビの声が重なります。
━━!µ‡Δ∀@〜☆、あなたなら、内の境界を理解できますよね!?
「私に対してはまともになるの!?」
「どういうこと?ビはわかるの?」
「ちょ、舐めないでほしいわね!ウォルドの内の中へ境界をまたいでいって、スキル、たまごを孵化するのよ!」
「?どうやるの!?」
「そんなこと、わたしが知るわけないでしょう!!」
━━とにかく、境界を越える、まで、は導き?ましょう。
「人間相手だと、おかしくなるの!?」
「よくわからないけど、スキルが変わるなら、お願いします!」
そのあと、精霊王の導きにより、ウォルドは目を瞑り横になりながら、ゆっくりと自分自身の中にあるという境界を意識し、感じ取りながら、深くより深く、深呼吸を繰り返すように落ちてゆきます。ゆっくりと、ゆっくりと。
次にウォルドが目を見開いたときには、まわりを山に囲まれた見知らぬ土地でした。ですが、なぜか懐かしい暖かい匂いがします。どうやら、ここが内の境界の中、ということらしいです。目の前には小さな平屋がありました。木でできた背の低い柵で家と庭を囲んでいますが、ところどころ柵がありません。ウォルドにしてみれば跨げる程度の高さなので、柵があってもなくても同じなのですが。庭をよく見ると、小さい子がうずくまっていました。近づこうとすると、弱々しい泣き声が聞こえてきます。どうやら小さい子は泣いているようです。
「どうしたの?何かあったの?」
驚かせないよう、やさしく、聞こえるように声をかけます。それでも返事がありません。より近くに寄ってみることにしました。近づくにつれて、泣いている子ども、遠くからでは髪が立っているように見えていたのが、実は耳、それと不自然な角であったことがわかりました。どうやら人間でなく獣人であるみたいです。
ウォルドは泣いている子どもの前に立ち、
「どうしたの?何を泣いているの?」
再び声をかけました。でも獣人の子どもはかぶりを振るだけです。
「どこか、痛いの?」
やさしく聞きます。でも先ほどと同じようにかぶりを振ります。
「お母さんは?お父さんは?」
ここではじめて獣人の子は蚊の鳴くような声を出しました。
「わ゛からない。」
「あ!?えっと、どうして泣いているのかな?」
「わ゛からない。」
同じように答えます。ただ、泣き続けています。困りました。なにか打開できるものはないかとあたりを見回します。身近にあるものには小さな平屋しかありません。
「よっし!」
意を決して平屋の中へ入ることにしました。
「ちょっと待っててね。」
獣人の子に声をかけると、そのまま平屋に向かいます。そっと、入口の扉を開けて中をのぞき込みます。中は閉め切って窓も戸板か何かで仕切られているのでしょう、明かりという明かりが全くなく、入口から入る光だけが中を照らします。目を凝らして中を確認します。家具、家財道具といったものは見当たりません。ただ、部屋の真ん中に庭と同じようにうずくまっている子どもがいました。ゆっくりと、驚かせないように声をかけながら近づきます。
「どうしたの?なにかあったの?」
中の子は庭の子と違って泣いてはいませんでした。でも、
「むり、むりなの、できないの。」
か細い声で嘆いています。
「できないって?なにを?なにができなかったの?」
やさしく、そしてしっかりと伝えます。目の前まで来るとウォルドはしゃがんで目線を合わせます。庭の子と同じように耳と角が特徴的です。でも目が虚ろとしていてウォルドは眼中にないようです。
「むり。できないの。」
繰り返し答えます。
「うん。いいよ。無理なら無理で。でも、できることはあるよ。」
「ううん。むり。むりなの。」
獣人の子は頑なに否定します。
「そうかな?じゃあ、僕の手をとってごらんよ。」
そういって、ウォルドは手を差し伸べました。
「まず、外へ出てみよう。僕とできることを探してみようよ。」
やさしく、それでいて力強く話しかけます。
ただ頑なだった獣人の子は恐る恐るウォルドの手を取ります。ピキィィッ。手を握った時に何かがひび割れる音が感じられました。ウォルドは何があったのかと、慌てて獣人の子を見ます。どうやら獣人の子には特に何もなかったようです。いったい何の音だったのでしょうか。獣人の子の手をひいてゆっくりと立ち上がると、外に向けて一歩、また一歩と足を進めます。獣人の子もしっかりとウォルドと歩みます。そして外に踏み出すと再び庭の獣人の子のもとに向かいました。
「そういえば、君の名前は?僕はウォルドっていうんだ。」
「ウォルド。」
庭に出ながら話をします。でも獣人の子はウォルドの名を何度も確認するようにつぶやいていて、自分の名前はいいません。ウォルドはただ、やさしく微笑んでいました。
庭の獣人の子の前に来ると、先ほどと同じようにしゃがんで目線をあわせます。
「さぁ、もう泣かないでいいよ。」
やさしく囁きます。
「わからないなら、わからないでいいよ。ひとつずつ、知っていくことから始めようよ。」
そういって手を差し伸べます。庭の獣人の子は泣き腫らした目でウォルドの目をじっと見つめました。それから、意を決してウォルドの手をとります。パリイイィ。先ほどより強い音が感じられました。周りを見渡してもとくに変化はなく、獣人の子も無事でした。
「さぁ、いこう!」
ウォルドは立ち上がると、獣人の子二人の手を両手で率います。目標は目の前に広がる森です。
「まずは大狼を狩って毛皮を取ることから始めよう!僕はこう見えてもプロなんだよ!」
パァァァーン!その瞬間、何かが弾けました。ウォルドはびっくりして目を見開き跳ね起きます。目の前には驚いた顔のビがいました。
「うわっ!こわ。」
ビは引きながら言葉を漏らしました。
━━どうやら、孵化、した、よ、うです、ね。
なぜかよりいっそう疲れた感じの精霊王の声が運ばれてきました。




