第19回 谷を飛ぶ
ウォルドは黒竜の住むという竜の巣へ、谷に沿って続く街道を進んでいます。
空を舞うワイバーンが視認できる程の距離になると、谷の間を架ける橋が見えてきました。
「あそこに、橋番って人がいるのね!」
「商隊の人がいうには、そうみたいだけど。」
「きゅぅお?」
「あ、あそこ。」
「うん。あんなトコに人がいるねぇ。」
橋の向かい、街道を挟んだ木の上、人が寝ています。
「落ちないのかなぁ。」
「うん。そうだね。」
「きゅお、きゅぉ。」
木の下まで近づいて声をかけます。
「すいません!」
「ふぁ?」
ドサっ。
「落ちた。」
「うん、落ちたね。」
落ちた場所が踏み固められた街道でなく、柔らかい草むらの上だったようで、ケガはなさそうです。
「いたたた。うーん、何だ!?」
ウォルドは手を貸しながら、話します。
「橋番の方ですか?道を教えて欲しいのですが。」
橋番はウォルドの手を借りて起きながら、
「あぁ、痛、うー、橋番だけど。どこ行くのさ?」
聞き返します。
「竜の巣へ行きたいんです。」
「あぁ、竜の巣ねぇ。」
橋番は橋を眺めて、空を見上げます。
「うん、教えるけどさぁ。」
「はい?」
「その橋、渡れるかなぁ?」
「どういうことですか?」
「橋が壊れてね。」
「壊れてるんですか?」
「それで、まぁ、親方が直しに来てたんだが。」
「はい。」
「直してる途中で東の侯爵の連中が親方を連れて行っちまったんだ。」
「と、いうことは?」
「直ってない。」
「つまり、渡れないんですね。」
「うーん。途中とはいえ、親方の仕事だからなぁ、渡れる気がするんだよね。」
「あの、橋を渡らずに竜の巣へ行きたいのですが。」
「橋を渡らずに?」
「はい。渡らずに、です。」
「たぶん、無理。きっと、無理。かなり、無理。」
ウォルド、気落ちします。
「それで、竜の巣へは、どういけばいいのでしょうか?」
「まず、橋を渡ってだな、対岸の道を北にいけば竜の巣だ。ちなみに、南へ行くと東の侯爵領、山道を登って行ってシデア山脈の向こう側へ抜けるとコルダニア自治国だな。」
「ありがとうございます。はぁ、橋を渡るしかないか。」
意を決して橋の前に歩を進めます。
「これ、落ちたら大変だね。」
「うん。そうだね。」
まず、一歩踏み出そうとします。
「あ、そこ踏むと抜けるよ!」
橋番の声が届きます。ウォルドは踏み出そうとした足をすぐにひっこめます。カラーン。ウォルドの足が触れた踏み板が抜けて谷底へ落ちていきます。
「え、あぶっ!」
「そうそう、危なかったねぇ。気をつけないとね。」
「これ、本当に渡れるの!?」
ウォルドは慎重に手すりロープに体重をかけながら一枚一枚踏み板を確認しながら一歩、また一歩と足を進めます。
橋番はそんなウォルドを見ながら、空を見上げます。
「あ、あいつら来てるなぁ。」
橋番の視線の先には、何体かのワイバーンが空を舞っています。
「おーい。気をつけな。ワイバーンが来てるぞ。」
「え!?気をつけるも何も橋の真ん中なんですけど!?」
「きゅぉ!」
幼竜が少し低い鳴き声を出します。
こんなところでワイバーンに襲われたら一巻の終わりです。
「ウォルド、これ急いだほうがいいかも?」
「うん。そうだねって、急ぎたくても、ムリ!!」
急ごうと、足を出そうとする度に橋が揺れます。下手に足を踏み出すと踏み板が抜けて落ちていきます。空を見ると、今まさに、ワイバーンが襲いかかって来そうです。
「ウォルド、急いで!」
「こ、これはだめだ。」
橋が揺れて波うちます。ワイバーンが近くに来ると、ワイバーンの起こす風で橋が揺れるのです。
「まさか、これ、落ちる?」
「ウォルド、いいから、急ぐ!」
幼竜がワイバーンの前に出ます。
「きゅぅおぅお!」
ワイバーンは、幼竜の威嚇の声に、一瞬怯んだと思われましたが、凄い勢いでウォルドの前を通り過ぎます。遅れて突風がウォルドと橋に襲いかかります。バタバタバタ。橋が大きく波打って、橋桁が崩れていきます。
「うそ。」
「ちょ、そんな!」
「きゅおっ!?」
橋がスローモーションのようにばらけていって、ウォルドも宙に放られます。
「あ、だめだったか。」
橋番は崩れていく橋を眺めてつぶやきます。
「もう!!風の精霊!間に合って!!」
「きゅおっ!!」
ビはシルフで風を操ります。幼竜も翼を操って風を起こします。ウォルドは橋から放られたあと、反射的にからだを広げて風を感じます。そして、ビと幼竜の起こした風に合わせるように体勢を整えます。谷底から吹き上げる風、シルフの風、幼竜の風と上手く合わせながら、少しずつ対岸に近づいてゆきます。
「なにあれ?まさか、飛んでる?わけないよな。うん。そんなわけがない。」
橋番は木に登って横になります。夢の続きを見るのでしょう。
ウォルドは風に合わせてゆっくりと、対岸にたどり着きます。
「死、死ぬところだったぁ!」
全力で息を吐き出しながら声をあげます。
「ま、間に合ったの!?」
「きゅ、きゅお!?」
ビと幼竜はウォルドの姿を見て、次に谷底を覗き込んだあと、互いに顔を見合わせます。
「いや、まさか、ね?」
「きゅおう。」




