第20回 黒竜との会合
黒竜のもとに密猟者に捕らえられていた黒竜の子ども、幼竜を届けに、黒竜の住む竜の巣へウォルドは目の前まで来ていました。
「なんか、違うんだよね。」
「なに?ウォルド?」
「なんか、竜王って呼ばれる黒竜でしょ?」
「うん。そうみたいね。」
「もっと、人が踏み入れることのない場所だと思ったんだけど。」
竜の巣へ続く道は綺麗に舗装され、なだらかに上り坂になっています。
「これ、普通に人が往来してるのかなぁ。」
「うん。道だよね。竜なら飛べるから道はいらないし。」
「そうだよね。なんか、調子狂うんだよね。」
「それは、わかるわ。」
「きゅお、きゅお。」
「いや、あなたの家のはなしよ?」
「きゅおっ!」
「これ、調子狂うよね。」
「それは、わかるわ。」
だいぶ登ってきたのでしょうか、山の斜面をえぐるような巨大な横穴が見えてきました。道はそこで途切れています。この横穴こそが竜の巣なのでしょう。
「来たわね。」
「うん。そうだね。」
「黒竜って、どんな竜なんだろうね?」
「話が通じるといいんだけど。」
「きゅお、きゅ。」
ウォルドとビは幼竜をみます。
「君だけが頼りなんだ、頼むよ。」
「あなた、お願いだからね!」
おそらく竜の巣であろう横穴の前にたどりつきました。穴はウォルドが乗った商船ぐらいなら軽く出入りできそうな大きさです。その、横穴がずっと奥の方まで続いています。
「あのさぁ、ビ。」
「どうしたの?」
「明るいね。」
「うん。明るい。」
「これ、採光考えてるよね。」
「そうだと思う。」
「でさ、雨降るとするよね?」
「うん。雨は降るよね。」
「横穴の道の端、これ排水の溝だよね。」
「うん。なだらかに外へ向かってるね。」
「この穴さぁ、人の手で作られてない?」
「うん。竜が作る穴じゃないよね。」
「きゅお。きゅ。」
腑に落ちない顔のまま、ウォルドとビは穴の中へと入ってゆきます。横穴の中は湿気ていて、壁が水分と光とで綺麗に反射し黄金色に輝いています。人の手が加わってさえいなければ非常に神秘的な場所にみえます。しばらく進んでゆくと、なだらかに登ってゆく斜面の先にひときわ広い空間にでました。そこに首を地に伏せて鎮座するそれは、まさに人々が竜王と崇める巨大な黒竜でした。ウォルドに気づくとゆっくりと、黄金に輝く目を見開き、縦に伸びた瞳孔がウォルドをとらえます。その威圧感にウォルドは硬直します。今襲われたら、ひとたまりもありません。そんなウォルドには関係なく、
━━ニンゲン ヲサナキリュウオウ ヨク ココ キタ
精霊王に似た、空気に言葉が乗ってきます。精霊王のように優しい風ではなく、重く響く振動です。ですが、敵意は全く感じられませんでした。
「幼き竜王!?」
ウォルドとビは幼竜をみます。
「きゅお。」
━━ヲサナキリュウオウ タビ デル ヒロク セカイ シル
「え!?」
突然のことで理解がついていきません。
━━タビ ツイテ マワル ヒトリ ダメ
ウォルドは幼竜をみながら、
「もしかして、僕がですか?」
幼き竜王の保護者に任命されたようです。
━━ソウダ
「なんか大変なことになったね。」
ウォルドはため息をつきます。
「うん。でも、わたしの境界に入ってる分には大丈夫だと思うし、下手に単独で飛び回るより安全かも。」
「うん。そうだね。」
ウォルドはもう諦めています。ふと、思い出したように、
「あと、ワイバーンなんですが。」
黒竜に話しかけます。
━━トブ トカゲ ドウシタ
「谷を進む商隊が困るんです何とかして欲しいのですが。」
━━モンダイ ナイ モウ トブ トカゲ ダマッタ
「あ、そうなんですか。」
なんとなく、釈然としません。
「大丈夫かなぁ?」
ビに耳うちします。
「うーん、どうかなぁ?」
「きゅおっ!きゅうお!」
幼竜が必死に何かを訴えます。
「まぁ、信用するしかないか。」
「困るのは小太りのおじさんだしね。」
「うん、それはちょっと、だね。」
ウォルドはリュージェの商業保安庁の抜け毛を気にする小太りの庁長を思い浮かべて、苦笑いします。
ウォルドは頭の中で整理します。リュージェの依頼である幼竜を黒竜のもとに届けました。商隊の問題であったワイバーンについては、黒竜がいうところの問題はないようです。
新たな問題は『幼き竜王』と世界をまわることです。ウォルドは頭を抱えます。
━━ソレカラ コレ モッテク
どういう原理か、ウォルドのまえに手のひらに収まる小箱が宙を流れて来ました。そのままウォルドは手を出して受け取ります。
小箱を開けると、竜の鱗を使ったネックレスが入っていました。
━━ソレ ツケル
ウォルドは言われるままネックレスを自分の首にかけます。
━━ソレカラ ワレ ナジミ ドワーフ サガス アウ
「黒竜さんの知り合いのドワーフを探して会えばいいのですか?」
━━ソウダ
「では、そのドワーフの名前は?」
━━アエバ ワカル
「それ、無理じゃない?」
「うん。そうだね。」
「きゅ、きゅお!」
「あ、幼竜ならわかるのかな?」
「そういう話なの?」
━━サァ ユケ ツギ アウトキ リッパナ リュウオウ
ウォルドはやはり、釈然としないまま、あらたに幼竜を仲間に肩に乗せて、竜の巣を後にします。




