第17回 帝国の勇者パーティー
200フィートを超える防壁に囲まれて皇帝の区画を除き所狭しと建物が敷き詰められている街は、スバルニア帝国の帝都ソフィリアスです。
そんな帝都の高級酒場で散財しているのは、勇者ギーニスのパーティーに所属するバッガルです。
今日も酌婦にのせられてバッガルは店内に通る大声で自らの英雄譚を語りだします。それを、またか、と他の常連客が白けてにらんでいます。
━━俺たちは馬を駆って街道を走ってたんだ。ギーニス等は気づかなかったんだが、俺は違う。街道の脇に倒れる女性にね。すぐにギーニス等に止まるよういったさ。
━━で、女、だ。肩に矢を受けていてな。すぐに治療してさ、あぁ、そりゃ、美女だったよ。で、気がついてさ、村が魔人に襲われてるっていうじゃねぇか。俺は後ろに女を乗せて街道から外れた先にある村に向かったのさ。
「お、前はドラゴニュートとかいってなかったか?」
「やめとけ、絡むなよ面倒だから。」
━━村についたら、その魔人ってやつが2体暴れてて、俺とギーニスはすぐに立ち向かったね。魔人は力が強かったが、そいつを上手くいなしてだな、ぐっと倒して、ザクッととどめだ。で、見るとギーニスが苦戦してやがる。俺が助けに行って、ようやく退治だよ。
━━それから、まだ森から魔人が来るってていうからさ。ギーニスはおそれをなしたが俺は違う。一人、森に入ったさ。そこで4体の魔人を発見したんだ。で、俺が森に入ったことで、怖くなったんだな、後からギーニスたちが森に入ってきてさ、魔人たちがそっちに気づいちまって。で、ギーニスたちが大変な目にあってよ。俺がすぐに助けに行ったからよかったもののよぉ。そりゃ、ちぎっては投げ、でよ。圧勝よ。
━━で、次の日も魔人が来るってよ。俺はピンときたね、次が本格的な侵攻だってね。そこで俺は前の町で聞いた話を思い出したのさ。シギンス、知ってるか?冒険者の中では有名なんだが。その、シギンスがそろそろ近くを通るってことをさ。すぐに、馬を駆けて街道にでたね。そこで、丁度シギンスに会ったわけだ。そこから、シギンスを説得して村に来てもらったんだが、何十体と魔人がいてさ。俺はシギンスたちを指示して、その魔人たちと戦ったわけだわ。
「こいつ、マジかよ!?シギンスさん出してきたぜ!?」
「よせ、絡むなよ面倒だから。」
「帝都じゃシギンスさんの信奉者も多いからなぁ、そのうち痛い目見るだろう。」
「あぁ、俺たちが手を出す話じゃないってことさ。」
━━あぁ、もちろん勝ったさ。なんせ冒険者の中では最強って言われるシギンスと勇者ギーニスだ。もちろん、こうなるように俺がいたんだがな。
━━その後?俺とギーニスは手柄をシギンスにあげて颯爽と村を後にしたんだぜ。
「飽きもせずに、よくやるわ。」
「さしづめ、リュージェのカジノで運よく儲けた田舎者って、話だぜ。」
「やだねぇ、勘違い野郎は。」
機嫌良く高級酒場をバッガルは後にします。千鳥足で宿泊している高級宿屋へ帰る道すがら、向かいからシギンスたちAランクパーティーがバッガルの方に向かってきます。
バッガルとシギンスたちがすれ違います。ですが、シギンスたちは、だれもバッガルに気づかなかったようです。
「畜生!俺様はもっと評価されてもいいはず!俺様がいなければギーニスは死んでいたし、トール村も全滅してたんだ!」
バッガルの叫びは帝都の喧騒に霧散していきました。
高級宿の一室、バッガルは苛立ちをかくせません。
「クソっ!今、こうしてる間にもギーニスたちは貴族の接待を受けていやがるのか!特にウォルドとかいう小僧を帝国に入れないようにかけあった、あの、いけ好かない貴族、とかよ!」
視線の先に金貨の入った袋があります。
「俺にはカネだけ渡して、自分たちは権威付けかよ!」
無造作に起き上がります。
「くっ!女だ、女がいるっ!」
金貨の入った袋を無造作に掴み、部屋を出ようとします。ちょうど、そのタイミングでドアがノックされます。
━━バッガル様、東領侯爵セルデニス様の使いの方がギーニス様に御目通りを願っております。談話室までお越しいただけますでしょうか。
「あぁん?侯爵様の使い?あぁ、今行くよ。」
渋々、談話室へ向かいます。談話室の中には、白い制服を着た使者と思われる者が2人、直立不動で立っていました。バッガルが入室すると、
「勇者ギーニス様の従者の方ですか?勇者ギーニス様に御目通りを願いたいのですが。」
慇懃に話しかけます。
「あん?従者じゃねぇよ!ギーニスの仲間だ。ここにギーニスはいねぇ。まぁ、取り次いでやってもいいが、な。」
バッガルは乱暴に椅子に腰掛けます。使者は互いに顔を見合わせたあと、テーブルを挟んでバッガルの向かいに座ります。
「で、ギーニスに何の要件だ?」
バッガルはぞんざいに聞きます。使者は一拍空けてから、
「侯爵から勇者ギーニス様に依頼があります。依頼内容は帝都から東領侯爵邸までの要人護衛です。」
簡潔に説明します。帝都から東領侯爵領の間にはシデア山脈があります。しかし、スバルニア帝国東西を横断する街道はしっかり整備されており、シデア山脈を通る街道は普通の商隊が護衛なしで越えることができます。
「たった、それだけの依頼か?」
「はい、それだけの依頼で侯爵の知己まで得られます。」
バッガルの目の色が変わります。
「そうか、侯爵の、ね。わかった。ギーニスには俺から依頼を受けるようにいっとく。」
そう伝えると、使者は頷いて席を立ちます。
使者を見送ったあと、
「どうやら、こいつが転機だな。ギーニスと一緒じゃ命がいくらあっても足りない。だが、侯爵の知己が得られりゃァ。」
バッガルは、ギーニスのいる、いけ好かないといった貴族の屋敷へと向かいました。
また、ギーニスもバッガルも、このときはまだ、この依頼のために、転落してゆくことになるとは思いもよらないのでした。




