第16回 黒竜、ウォルドの宅配便
商業都市国家リュージェの中央に広大な敷地を占める白く輝く建物である中央商工会議所と、同じ敷地にあるが古く黒ずんだレンガ造りの建物、商業保安庁舎の一室で頭を悩ます小太りの男が机に突っ伏していました。
「つまり、スバルニア帝国へつづく竜の谷沿いの街道でワイバーンが活発化した理由というのが。」
「はい。竜の谷を渡った先の竜の巣に住む黒竜の子どもを密猟者が捕獲したため、と推測します。」
「それは、確かなのか?」
「はい。複数の商業監査員の報告からも裏付けられます。」
「よりによって黒竜の子どもか。」
「えぇ。我々のいうところの竜王の子どもですね。」
「それで、黒竜の子どもは確保できそうか?」
「どうやら闇オークションにかけられそうだと。」
「まったくリュージェの規範を無視する連中はたまったもんじゃないな。」
「複数の監査員が動いていますので、もう時間の問題かと。」
「本当にたまったもんじゃない。」
頭髪の抜け毛を気にしながらため息をつくのでした。
所変わってリュージェの西郊外、ワルス・ジタンの魔獣園の地下から興行主だった物を除いてウォルド、ビ、カルディス、キャミと全員が出てきます。
カルディスは近くにいる飼育員に声をかけ、商業保安隊を呼ぶよう手配したあと、ウォルドとその肩に乗る幼竜を眺めます。
「さて、こいつはどうなることやら。」
カルディスの心配をよそに、キャミと飼い猫のみぃちゃんは大喜びです。ひとしきりよろこんだあと、ウォルドとカルディスに礼をいって去っていきました。
「行っちゃったねぇ。」
「無事に猫が見つかって良かったよ。」
「きゅお、きゅお。」
さて、これからどうしますか、冒険者ギルドに依頼完了の報告をしますか、というところで、急ぎ足で商業保安隊がやってきました。
「現場、ならびに関係者を確保!」
「はい!現場ならびに関係者を確保します!」
隊長とその部下が復唱しながらてきぱきと動きます。そのうちの女性隊員がカルディスに気づきます。
「げ、カルディス!?また、アンタなの!?」
「おう。またとはご挨拶だな。仕事では2回目だろ。」
「できれば一回もかかわりたくないわ。」
女性隊員はカルディスの隣にいるウォルドとその肩にのる幼竜に気づき、
「どういう状況よ。疫病神!」
「はいはい、詳しくは商業保安庁で説明するから。連れてってくれるんだろ?」
「あぁ、嫌だ。」
ウォルドは一言も発することなく、ただ成り行き任せで商業保安隊に連れられて商業保安庁へ向かうのでした。
「なんか、大変なことになっちゃった?」
「うん。そうだね。」
「これ、ついて行っちゃっていいのかな?」
「うーん。カルディスさんがいるから大丈夫じゃない?」
「それはそれで、信用できないのよね。」
そして、ワルス・ジタンの魔獣園に残った隊員はというと。なにやら書類をめくりながら、
「申請漏れの魔獣が多いな。」
「ほとんどが密猟によるものかと。」
「だろうな。特に地下の魔獣がよろしくない。」
「殺処分ですか?」
「そうしたいところだが、そうもいかんところがあるな。」
「野に返すんですか?」
「安全と思われる分には、な。」
後始末に余念がないのでした。
商業保安庁舎の一室、円卓に小太りの商業保安庁長を中心に管理職数人が、ウォルドとその肩に乗る幼竜、カルディスを囲うように座っています。その周りを見えないことをいいことに、ビが飛び回っています。
「それで、猫を探していて黒竜の子どもを見つけた、と。」
庁長はため息をつきながら、また抜けた毛を見て、さらに深いため息をつきました。その動きに合わせて、ビは薄くなった頭髪をのぞき込みます。
「そうなると、だれか黒竜の子どもを黒竜のもとに届けなければなりませんね。」
「誰が行くんだ、そんなところに?」
「少なくとも商業保安隊がリュージェ領内を出ると国際問題になります。」
「スバルニア帝国か。」
「はい。あちらは問題を解決する気はないようですので。」
「そうなると、冒険者に依頼するしかないな。」
「あのう?」
たまらずウォルドが声をあげます。
「あぁ、すまん。スバルニア帝国へ向かう竜の谷沿いの街道でワイバーンが活発化していてな。」
「はい。」
「それが、竜王と呼ばれる黒竜の子どもを捕獲したことで竜王がお怒りになられたと。」
「きゅお?」
ウォルドより先に幼竜が反応します。
「そこで、竜の谷を渡った先の竜の巣にその幼竜を届けなければならないんだ。」
「はぁ、そういうことですか。」
ウォルドは納得しました。が、だれが竜の巣へいくのでしょう。
「スバルニア帝国方面へ向かう、ある程度金銭が必要で、幼竜が敵意をもたない冒険者ねぇ。」
職員が呟きます。
「それって、ウォルドのこと?」
ビの発言は職員に届きません。さらに、ビの発言に反するように、
「カルディス君、どうかね?行ってみたいと思わないかね?」
我関せずを決め込んでいたカルディスに声がかかります。
「御冗談を。一介の商業監査員ですよぉ。リュージェから出たら何もできませんよ。それよりも。」
「それよりも?」
「こちらのウォルド君なんてどうでしょうね?」
「はい!?僕ですか?」
「ほら、スバルニア帝国へ行きたいんだろう?ある程度金銭も欲しいみたいだし。それで、見てのとおり幼竜が懐いている。」
「おぉ!」
円卓に座る職員全員から感嘆の声があがりました。
「え、なんか釈然としない。」
ビは不満げです。
「いやいや、こいつら茶番だろ。」
そして、聞こえないようにカルディスは毒づくのでした。




