第14回 幼竜オークション
━━みぃちゃんを探して。商業都市国家リュージェでウォルドはキャミという少女にお願いされます。
「猫?」
ウォルドは確認します。
「うん。みぃちゃん。わたしの猫。」
「この辺にいるの?」
「わからないの。昨日からいなくなって。」
少女は今にも泣きそうです。
「そうかぁ。うーん。それじゃあ、冒険者ギルドにいこうか。」
「わたし、お金もってない。」
「大丈夫。ギルドは仕事を依頼するだけじゃなく、情報も収集できるから。」
「!?」
「それに僕は冒険者だし、ギルドならまかせて。」
ウォルドは自信たっぷりにいいます。
「うん。冒険者は見ればわかるし。田舎者っぽいし。」
少女はウォルドには聞こえないようにつぶやきますが、
「うん。そうだよねぇ。」
ビには聞こえていて大笑いです。
「!?」
少女の案内でウォルドは冒険者ギルドにむかいます。冒険者ギルドは街のはずれ、タジハ山脈、シデア山脈に近い場所にありました。隆起した斜面に沿うように建てられていて、こちらでも高い位置に鳥小屋があるようです。
「さぁ、情報収集だ!」
ウォルドはやる気になっています。
「依頼受けて、手切れ金もどすんじゃなかったの!?」
ビはあきれています。
「冒険者ギルドの場所を知らないなんて。大丈夫なのかしら。」
少女は不安げです。
ここがホームグラウンドだ、とばかりに冒険者ギルドに入ると、入口にある依頼が貼られている掲示板には目もくれず、奥の受付にまっすぐ進みます。
懐から、すっと冒険者証をとりだし、受付のカウンターに置きます。
「猫の情報を求めてる。」
「はい!?」
「あ、だから、猫の情報を。」
「依頼ですか?でしたらこちらの蝋板に。」
「わたし、お金ないの!」
たまらずキャミが割り込みます。
「はい。わかりました。無報酬の依頼ですね。無報酬であっても、当ギルドはきちっと斡旋させていただきます。」
そういうと、受付嬢は冒険者証を確認します。そして、にっこりとウォルドに微笑むと、
「ウォルドさん、この仕事、受けますよね!」
ウォルドは断るつもりはありませんでしたが、とても断れる状況にない空気と圧を感じました。
「それから、カルディスさ〜ん!」
カウンター内の奥の部屋に声をかけます。
奥の部屋から出てきたのは、ぼさぼさの髪にひょろっとした30代ぐらいの男性でした。
「マッチョの用心棒じゃないんだ。」
ビが残念そうにつぶやきます。
「え、何?クララさんどうしたの?」
間の抜けた声で受付嬢に応えます。仕事です、とささっと蝋板に仕事内容を記入すると、カルディスと呼んだ男に蝋板を渡します。
「え、何これ。猫さがし、は、いいとしても、この無償ってなに?これも商業監査員の仕事なの?」
「はい。無償であっても、立派な商取引です!」
受付嬢は毅然とカルディスに応えます。
「えっと、なんの話をしているんですか?」
ウォルドが口を挟みます。
「ウォルドさん、リュージェは初めてみたいですね。露天商の売買は別として、リュージェでは不正な取引がないよう、商取引には必ず商業監査員がつくことになっています。」
「俺、他にも仕事があるんだけど。」
「カルディスさんなら、本業の片手間でいける仕事だと思いますよ。」
受付嬢は冷たく言い放ちます。
「まいったな。無償の取引での監査員かよ。こいつぁ、前代未聞だぜ。」
カルディスは頭を掻きながらぼやきます。
「お金なくて、ごめんなさい。」
申し訳なさそうにキャミがあやまります。「いいんですよ。このおじさんの仕事ですから。カルディス監査員、ちゃんとお仕事しましょうね。」
そう受付嬢はキャミには優しく語りながら、鋭い眼光でカルディスを射抜きました。
「あぁ、しょうがねぇなぁ。あらためて、俺はカルディス。先の説明のとおり、商業監査員として、不正がないか同行させてもらう。」
ウォルドとキャミに名前と役割を説明します。ウォルドとキャミもそれぞれ名乗ります。
「うーん。冒険者ギルドの依頼を受けるのは予定どおりだけど。タダなんて。」
ビがひとり不満そうな声をあげました。
「さすがに猫の1個体の情報なんて、把握はできねぇよ。」
カルディスがウォルドに語ります。
「うーん。ギルドならなにかしら情報があると思ったんだけど。」
「みぃちゃん、見つからないの?」
「地道に探すしかないが、闇雲に探し回ってもしかたがない。そこで、だ。猫が好んでゆきそうな場所を当たってみる。」
「うーん。わからないなぁ。」
「ウォルドはリュージェ、はじめてだろ。だから案内がてら猫を探そう。いいかな?お嬢ちゃん?」
「うん。みぃちゃんが見つかれば。」
「よし。なら、まずは『ミクスクの庭園』からだな。」
ウォルドは不思議そうな顔をし、反対にキャミは目を輝かせます。
「あのね、ミクスクの庭園はママとパパと行ったことがあるんだけど、すごい綺麗なトコなの!」
一行は猫を探してリュージェの郊外にある『ミクスクの庭園』にやってきました。
「へぇ。入園はタダなんだ。リュージェだからお金がかかると思ったら。」
ビが妙なところに気づきます。
「カルディスさん、この庭園は誰でも入れるんですか?」
ウォルドが代わりにカルディスに聞きます。
「ここはな、新興財閥のミクスクってとこが市民誰でもタダで入れるように造園したんだ。スバルニア帝国風の庭園が売りなんだとよ。」
「へぇ、そうなんですか。」
「わりと雑でな、入口も解放されているから猫が入り込んでもおかしくはないんだよ。」
カルディスの説明を受けながら庭園に入っていきます。庭園は大人の背丈ぐらいの生垣で仕切られています。入ってまず目につくのは、色とりどりの低木の花で描かれた文様です。
「うわっ。なにこれ?花で絵になってる!」
ビが驚きの声をあげます。
「この文様はなんだろう?」
ウォルドは不思議に思います。
「あぁ、この文様はミクスク財閥の文様だな。」
丸にクロスするように四つのひし形の文様が描かれています。白い丸を中心に赤いひし形が映える文様になっています。
キャミははしゃいで庭園を駆けていきます。
「ウォルド、君は仕事ね。」
「ですよねぇ。」
しぶしぶウォルドは庭園内で猫探しです。そんなウォルドとは別にキャミとビは庭園を走り、飛び回っているのでした。
──で、例の開催日は?
──次の満月の夜ですね。
──目玉は?
──黒竜の子どものようです。
──ミクスクの動きは?
──こちらは話が来ただけで、関与はしませんよ。
──闇オークションなんてヤバい橋は渡らんか。それから、猫は知らんか?
──猫?なんかの符丁ですか?
──いや、それならいい。
ミクスクの庭園の影、カルディスと何者かが接触しているのでした。




