第13回 走る犬、隠れる猫
ウォルドを乗せた船が、スバルニア帝国の帝都ソフィリアスから出港して3日が過ぎました。船の甲板には相変わらずウォルドとビが、
「ぼーっ。」
「ぼーっ。」
と、へたりきっていました。すると、そこにウォルドによく話しかけてくる水夫がやってきました。
「見ろ!兄ちゃん、港だぞ!」
「おぉ!港!」
「港!」
「そして、数え切れない無数の商船!」
「おぉ!商船!」
「商船!」
「ここが、商業都市国家リュージェだ!」
「おぉ!リュージェ!」
「リュージェ!」
ついに船はリュージェまでやってきました。
北はタジハ山脈、東はシデア山脈、西と南はカーラム半島をえぐるように形成された湾に面した要害の地に、大陸と半島の玄関口として商業都市国家リュージェは栄えています。港に停泊する商船、すれ違う商船と、いずれもウォルドが乗っている商船に引けを取らない立派なものです。ゆっくりと船は港に入り桟橋に接岸します。船の係留が終わると次々と積荷が下ろされていきます。客のほとんどがスバルニア帝国で下船しているので、船に残っているのは積み荷を下ろす順番待ちの商人です。ウォルドは邪魔にならないように下船し、桟橋を下っていきます。
「ここでも海に落ちないよう気をつけな!」
ウォルドによく話しかけてくれていた水夫がよく通る声で注意してきました。ウォルドはニッコリと水夫に振り返り、大きく手を振って返します。
「いや、本当に海におちるから。」
ビがさらに注意します。こうして、ウォルドは商業都市国家リュージェに上陸しました。
「あの、兄ちゃん、人が良さそうだからなぁ。大丈夫かぁ?変なトラブルに巻き込まれなければ良いが。」
水夫は見守りながらつぶやきます。そして、少年の背中姿は街中へと消えてゆきました。
「うわぁ、すごいよ、すごいよね?ウォルドぉ。」
「うん。そうだね。」
街に足を踏み入れた途端、ウォルドの動きが止まりました。道という道いっぱいに展開される露天商、商人による、声、声、声。ウォルドは熱気に当てられます。
なぜか、ウォルドの動きがぎこちないです。
「ウォルド、あそこなんだろう?」
ビが指差す方を見ると、一段と熱気と歓声の上がる人だかりがあります。
「ちょっとのぞいてみようよ!」
ビは興味津々です。ウォルドは人混みの隙間から覗くと、何頭かの犬が走っていました。そして、犬の動きに合わせて歓声があがります。
「なにあれ?犬が走ってるけど。」
「あれ、ドッグレースっていうやつだね。」
「ドッグレース?」
「犬をはしらせて、1等を当てるんだよ。」
「ふーん。」
「お金を賭けて、当たると賭けた分お金が増える。外したら持っていかれる。」
「なにそれ!?面白そう!少しやってみない?」
「ダメだよ、船賃で減らした手切れ金をもどさないといけないし。」
「なら、なおさらいいじゃない?ギルドで依頼受けると時間かかるし。」
「ダメだよ、それこそギルドの依頼で地道に稼いでいかないと。」
「ふーん、じゃあ、みてて私がみんな当てて、お金かけとけばよかったって思うから!」
そういうと、ビは犬の品定めをはじめます。
「むっふー。あの犬、あの犬がいいわ!」
もう、ビの目は勝負師の目です。
「さぁ、いけ!そこだ!いっきに抜いてけぇ!」
周りの声と同じようにビの叫び声が響きます。ですが、そんな叫び声も聞こえるのはウォルドだけですが。
「で、どうだった?」
ウォルドは静かにビに尋ねます。
「うん。ウォルドが正しかったね。」
レース会場を後にして、ウォルドたちは再び露天商が敷き詰められた道をぎこちなく、進みます。そこへ、
「安いよ!にぃちゃん!どうだい10リュードだ!」
びくぅっ!商人に声をかけられ、ウォルドは妙な反応をします。
「えぇい、なんなら8リュードでどうだ! 」
びく、びくぅ!さらに、おかしな反応を示します。
「おう、まけにまけて5リュードだ! 」
「それ、普通の価格じゃない。ねぇ、ウォルド。え?ウォルド? 」
いつの間にか金銭感覚を覚えたビは、ため息をつきながらウォルドを見ます。が、なんとウォルドは一目散に走り去ってゆくじゃありませんか。
「ちょ、ちょっと!待ってよ!! 」
ビは慌ててウォルドを追いかけます。
「あぁ、プルサがトラウマになったかぁ。」
少し同情するビでした。
どこをどう走ったのでしょうか。リュージェの中央、白い3階建てで横に広がって大きい建物がある中央広場のベンチに、ウォルドは横になっていました。
「ちょっと、ウォルドだらしないよ。」
ビはあきれながらウォルドに声をかけます。
「都会、こわい。」
今にも泣きそうです。そんな中、何者かがウォルドに近づいてきました。
「あ、なんか来た。」
ビが反応しますが、ウォルドは気づきません。そして、ウォルドの視界に顔がにゅっと入り込んできました。
「みぃちゃん、見てなぁい?」
「みぃちゃん?」
「うん。私、キャミ。みぃちゃん探して。」
「みぃちゃん?」
「うん。わたしの飼ってる猫。」
ウォルドは起き上がります。そこには、まだ幼さが残る7歳ぐらいで、そばかすの顔を不安に曇らせる少女が立っていました。




