第11回 海の旅 船上の、ビックリシマス
マルド王国の王都プルサ。ウォルドは冒険者ギルドでギーニスがスバルニア帝国の帝都ソフィリアスにいる可能性が高いという情報を得ました。しかし、ギルドの掲示板に張り出された貼り紙を読んで驚愕します。
『ウォルド ミギノモノ スバルニアテイコクノ ニュウコクヲ キンズ』
「なぁ、ウォルド、おまえ、なにしたんだよ?」
馴染みの冒険者が聞いてきます。
「なにをって、僕はずっとボルデモアにいたのに!?」
「それにしてもなぁ。入国禁止、しかも個人あてだぜ?」
「僕にはなにがなんだか。」
すると、普段はカウンターから出てくることがまずない受付嬢がウォルドに声をかけます。
「その貼り紙は朝方にスバルニア帝国のギルドから伝書鳥が届けたものです。国境付近にはすぐに知れ渡ると思います。ですが、詳細、理由についてはなにも。」
うーん。とウォルドはロビーの椅子に座り、地図を広げます。
「ギーニスを追うにしてもスバルニア帝国は避けて通れないよなぁ。」
まわりの冒険者も地図を見て頷きます。
「冒険者を続けるならプルサ拠点に活動するしかないんじゃね?」
冒険者たちが意見し合ってます。
「それにしてもジェルジュ島がないのが違和感あるなぁ。」
ウォルドはぼやきます。
「島が海になるって怖いね。」
ビがもらします。
「島が海ねぇ。あ!陸路でなく海路がある!」
ウォルドは地図で海を指でなぞってゆきます。スバルニア帝国を越えて、その先にあるのは。
「商業都市国家リュージェ!」
「海路でリュージェですか?確かにリュージェ側からなら、スバルニア帝国に密入国できる可能性が高いでしょうが。でも、船は大丈夫ですか?」
「大丈夫、僕はジェルジュ島出身だから操船もできるよ!」
力強く受付嬢に返します。
「そうじゃなくて、高額。」
ウォルドには聞こえていません。地図をみて、なにやら納得しています。
「わかりました。特別に商船をあたってみましょう。」
「いいのかよ?ギルドの職員が密入国を促して!?」
他の冒険者が声を上げます。
「密入国なんて知りません。リュージェにいく冒険者を支援するだけです。」
受付嬢の手配が良かったのか、丁度いい商船を確保することができました。
「あん?リュージェまで?2,000リュード。きちっと払いな。」
泣く泣くギーニスから受け取った手切れ金を取り崩して仲買人に支払います。
「ウォルド、そのお金ってすごいの?」
「うん。すごく高い。高いんだよ。」
仲買人の案内で西に2刻ほどかけて『モッポー』の港に着きます。桟橋に停泊している商船をみて、ウォルドは唖然としました。
「な、なにこれ、で、でかい。」
それは、プルサの冒険者ギルドと同じぐらいの高さのマストが3本立ち、100フィートを越える船が聳え立っていました。
「ウォルド、船、得意よね?操船できるって。」
「ごめん。僕の知ってる漁船とは違かった。」
海へせり出した桟橋を登ってゆくと少しずつ船の甲板へと近づいてゆきます。仲買人が甲板の船員と話ししています。こっちだ、と船員がウォルドを船内に招き入れました。そこは船倉で、積荷とウォルドのような客が押し込められていました。しばらくすると、船は揺れ始めます。どうやら出港したようです。
「ねぇ、ウォルド。」
「うん?」
「くさい。」
「うん。」
船倉は潮の匂いとホコリやカビ、積荷や人の汗の臭いとがまじって、独特の異臭がします。
「うん。甲板にでようか。」
ウォルドとビは船倉から甲板に移動します。
甲板に出ると進行方向から向かって右側にはカーラム半島の陸地が、反対側には遠くに水平線、そして今にも沈む太陽で空と海が朱色に染まっています。
「きれい。」
ビが感嘆してつぶやきました。
「どうだ!すごいだろう!!」
振り向くとがっしりと黒く日焼けした船員が得意そうに立っていました。
「船酔いは大丈夫か?」
「はい。ジェルジュ島では漁船に乗ってましたんで。」
「おう。なら平気か。だが、なるべく船倉にいな。海に落ちて気付かれなかったら終わりだからな。」
「はい。落ちないように気をつけます。」
「それに、海の魔獣は厄介なのが多いぞ!」
突然、大きく船が揺れたかと思うと、巨大なヘビのみたいなものがムチのようにしなって甲板を叩きます。
「そうそう、こんなふうな、って、こいつはクラーケン!?」
船員は慌てて、他の船員たちのほうへ向かっていきます。巨大なヘビかと思われたものは、クラーケンの足だったのです。海の方を見ると海面から商船と同じぐらいの大きさのクラーケンが顔を出していました。このまま、商船が襲われたら船は沈められてしまいます。
ウォルドは叫びます。
「ビ!風ちょうだい!」
いうやいなや、甲板の端からクラーケンの方に向かって駆けてゆきます。
「え!うそ!まさか!!」
クラーケンへ向かって船からウォルドが飛び込んでゆきます。
「もう!風の精霊、お願い!!」
ウォルドは、精霊界で受けたときと違う、風を纏うのではなく、風に乗る感じでクラーケンに真っ直ぐ飛んでゆきます。うまくクラーケンの目と目の間に照準をあわせると、上からショートソードをつきたてます。グシッ!寸分違わず、みごとな一撃です。急所に一撃を受けたクラーケンは動きを止めて、ゆっくりと沈んでゆきます。
「よしっ!ってあれ!?どうやって戻ろう。ビ、助けて!」
クラーケンとともにウォルドまで海に引き込まれていきます。
「ちょ、ちょっと、どうしたらいいのよぉ!」
ビの叫びは普通の人には届きません。
「おぉ、クラーケンが帰っていくぞ!今のうちに船を!」
船員が沈んでゆくクラーケンを見て叫びます。ウォルドには気づいてないようです。
「う、うそ、うそ、うそ!どうすんのよぉ!」
もう涙声です。
「あら、まぁ、大変!水の精霊よ!」
ビの隣から凛とした声が響きました。見ると魔法使いのローブのようなだぶだぶの服を纏った色黒の女性がたっています。ビは一目で普通の女性でないことに気づきました。
「ええ!?ダ、ダークエルフ!?な、なんで?」
「あら、あの子には内緒にしといてね。密航がバレると大変だから。」
フードを目深にかぶったダークエルフはビにウインクします。海に沈みかけたウォルドは、水の精霊によって船の横に
運ばれてきました。
「うぉーい、生存者が海にいるぞぉ!」
海の男の野太い声が響きます。
「どうやら、船員に気づいてもらえたようね。デ・ブニイダ・ハクシワク!(また、次の機会に会いましょう)かわいい、妖精さん。」
そういうと、さっと船内に隠れるように消えていきます。
「な、なんなのよ。なんで当たり前のように人間の中に紛れ込んでんのよ!?」
そして、ウォルドは船員の手によって無事に船内に引き上げられました。




