第31話 金色の飢餓
◆冒険者達◆
「おい、なんだアレ?」
依頼を行う為に街道を歩いていた冒険者達は、街道から少し外れた場所に激しい戦いの跡がある事に気付いた。
「随分と派手にやり合ったな」
魔物との戦闘跡と判断した冒険者達は念のため負傷者が居ないか確認しに行く。
善意が無いわけではないが本音は救助する事で得られる謝礼金目当てだ。
そんな打算まみれで近づいた彼等だったが、戦いの跡地に大きな袋がいくつも落ちていることに気付く。
「魔物から逃げる最中に落としたのか?」
好奇心から一体何が落ちているのかと袋を開けて中を見る冒険者達。
本音は金目の物だったらチョロまかそうという魂胆だ。
この世界では防犯カメラなどない為、目撃者さえなければ拾得物は拾った人間の物というのが暗黙の了解である。
素直に持ち主に返そうとする者はよほどのお人好しか、持ち主に貸しを作りたい者くらいだ。
食い詰め者の冒険者が千載一遇のチャンスを逃すはずもなく……
『こ、これは!?』
冒険者達は目を丸くして驚く。
それもその筈。袋の中に入っていたのは金貨に金塊、宝石といった財宝だったのだから、
「な、なんだこりゃ!? 貴族の荷物か!?」
「い、いや貴族ならお宝は装飾品とかだろ。金貨は分かるが金塊や原石は商人のものじゃねーのか?」
「多分こっちの袋に入ってる布も滅茶苦茶高価だ。見たことないくらい綺麗で触り心地もスベスベだぞ!」
これを売ったら幾らになるのか、魔が差さずともそんな事を考えてしまう冒険者達。
「も、持ち主もいねぇって事はまぁそういう事だよな!」
興奮した様子で仲間達に同意を求める冒険者。
「け、けどよ、こんなものを俺達が売ったらすぐに足が付くぜ! 大量の金塊と宝石とかどう考えても盗品ってバレるだろ!」
「いや待て、それはこの国での話だ。冒険者である俺達の事を知らないよその国なら問題なく売れる筈!」
「おま、それでも商人でもない俺達が……お前まさか」
仲間が意図に気付く。
「他国で商人のフリをしてこれを売りさばこう。これだけあったら死ぬまで遊んで暮らせるぞ!」
実際にはそこまででもないのだが、袋一杯の金塊と宝石を見ればそう錯覚するのも無理はない。
「なんなら本当に商人になったっていい。こんなところで魔物相手に安い金で命を賭けるなんざバカバカしいじゃねぇか!」
『……』
あまりに魅力的な提案に、仲間達は誰も文句を言えなかった。
こうして、一晩のうちに近隣の町から無数の冒険者達が姿を消したのだった。
◆
「食い物を売ってくれよ! 金ならあるんだ!」
「無ぇよ! モノが殆ど入ってこないんだ! いくら金塊を積まれたって無ぇ物は売れねぇ!」
町は大騒ぎになっていた。
それというのも食料が殆ど売っていないからだ。
「凄い事になってるなぁ」
何でそんな事になったか、それは農民が食料を作らなくなったからである。
うん、分かってると思うけど俺達が原因なんだ。
あの日から俺達は金をバラまいた。
文字通りそこら中にばらまいた。
街道に、街中に、水場にと様々な場所に金塊や宝石、生地など金になるものをバラ撒いてきた。
普通に考えれば落とし物として交番に届けるが治安が悪く生活が困難な異世界の平民が素直に届ける訳がない。
例外なくそれらの落し物はネコババされ、彼等は手に入れた財産で豪遊するようになった。
中には大金を拾ったとバレないように夜逃げする者達もいた。
そうなるとどうなるか。
「冒険者が激減するから騎士団がカバーできない村の魔物退治や街道の護衛が居なくなって防衛、流通に甚大な被害が出る」
「さらに莫大な額の金塊を拾った農民達は自分達がいかに搾取されていたのかを自覚してやる気をなくし畑を放置。さらに食料を売るどころか自分達が買いだす。まじめに働いても魔物に畑を荒らされ放題ですしね」
しかも金の入った袋は不思議と何度も落ちているときたもんだ。
「ですが供給元である農家が店じまいをしている以上、在庫の補充はされません。在庫は減るばかりです」
結果多くの領地で金はあるのに食料が買えないという地獄のような状況が生まれつつあった。
ちなみの俺の故郷がある東部は金塊のバラマキを控えめにしてあるので、他の領地に比べると農民は真面目に仕事をしているらしい。
「金塊だけでこんな大惨事になるなんて……」
「人が働く理由は生活の糧を手に入れる為です。それを手に入れる為の中間物資として貨幣を得る訳ですが、その貨幣がタダで大量に手に入るのなら苦労して働く意味がなくなります。これが物々交換ならここまで被害を受けなかったのですけれどね」
「ですが私の故郷のような村なら聖域での採取や魔物を討伐する事で食料を得る事が出来ます。すぐに被害は収束するのでは?」
故郷に大した被害が及ばないと予測し、少し不満そうなストレ。
「そうでしょうね。ですが貴方達の村の住人も何故か道端に落ちている大量の財宝を得た事で出稼ぎに出る意味が失われています。せいぜい自分達の食料調達に力を使うくらいでしょう。そんな状況でわざわざ食材集めの仕事を受けてくれますか?」
「それは報酬次第ですが……あっ」
「そうです。自分達も金を持っているのなら、わざわざ引き受ける意味がありません。それでも付き合いの関係で一部の町や村からの依頼は受けるかもしれませんが、冒険者ギルドがまともに機能していない以上、貴方の村にかかる負担は相当なものになるでしょう。ついでに他の村には納品したのになぜ自分達の村の依頼は受けないんだと殺気立った人間達に詰め寄られる事でしょうね」
「おお!」
おお、じゃないんだわ。もう完全に兵糧攻めじゃん。
「一応国外に出る勇気の無い者、老いた親を置いていけない者など理由のある方は冒険者ギルドに残るでしょうが、やはり手が回らずにすぐ潰れるでしょう。そうなれば貴族は騎士団を動かさざるを得ませんが、あくまで自分達の食料が第一。次いで領地ですがやはり民に供給される量は少なく不満が溜まるでしょう」
ただ兵糧攻めするだけじゃなく領主の評判も下げようって考えなのか。
「そして追い詰められた所で満を持して商人達が食料を持ってきます。きっと大層高価な食料を買う事になるでしょうね。なんなら国が動いて金銭ではなく領地や不平等条約を求められるかもしれません!」
すっごい楽しそうな笑顔で自分の国が追い詰められる未来を語るじゃん。
「だから新しい魔物達を生み出させたんだな」
この作戦に当たって俺はいくつかの品をククミスから土に埋めて欲しいと頼まれた。
それもずばり貨幣! 金貨銀貨銅貨! さらに銀塊や純度の高い加工前の宝石など価値の高いものばかり。
もうね、イスタの金塊の力を使って金目の物を片っ端から集めてきたらしい。
「ふふふ、魔物達に命じて国中に財宝をまき散らす事で人々の労働意欲を刈り取り、食糧不足を招く。これによって領内の食糧問題と防衛力の減少を招く。人心は乱れ不満は王家へ。けれどあの王家はいまだに事の重大さを理解していないでしょう。問題に気付いた時にはすでに手遅れとも知らずに」
◆
事態はククミスの予想通りになった。
国内からは食料が加速度的に減っていき商機とみた国外の商人達が大量の食糧を販売にやってきた。
その価格はとんでもないぼったくり価格だったけれど、文字通り金だけは履いて捨てる程あったものだから深く考えることなくその価格で買う国民達。
商人達はウッハウハだ。
そしてその次に出てきたのはやはり国家。周辺国が食料の継続的な輸入を打診してきた。
詳細は分からなかったけれど、予想通り良い条件じゃなかったらしく貴族達は反対。
そして強引に農民達に農業を再開するよう命じたんだけど手入れをほったらかした畑は酷い事になっていたらしく今年の収穫は絶望的との事だった。
その結果、次の収穫までは外部から仕入れるしかなくなってしまったらしい。
「と言う訳で王家の権威はズタボロです。ふふふ、イスタちゃん達の排泄物だけでこの国はボロボロです。人間は欲深いですねー」
「ジェル?」
当のイスタは何の話と首を傾げるばかりだ。
「さぁて、それでは本番にいきますか」
「まだやるの!?」
「あら、だってまだ兵糧攻めをしただけですよ?。食料の確保が出来たと安堵した次は何が起きるでしょうー!」
すっごい楽しそうじゃん。




